第26話『開幕!視聴者参加型ダンジョンアタック』
第二部:世界の亀裂
ハヤトと別れてから、俺は何か吹っ切れたようだった。
彼のように、なる必要はない。
彼と、同じやり方で競う必要もない。
俺は俺のやり方で、この配信を最高のエンターテインメントにしてやる。
俺と、俺の仲間たちと、そして俺を見てくれている神々(視聴者)と一緒に。
そのための、最初の大きな一歩。
俺は仲間たちを、ある場所へと連れてきていた。
王都へ向かう道の途中にある、広大な森の入り口。
一年中深い霧に覆われ、一度入れば二度と出られないと噂される難所。
『嘆きの霧の森』。
「……ケンタ殿。本気でここを通るつもりか?」
アリアが心底うんざりしたような顔で、俺に問いかけた。
「ああ。ここを抜ければ王都までショートカットできるからな」
「ショートカットではない! 自殺行為だ! この森でどれだけのベテラン冒険者が命を落としたか、貴様は知らんのか!」
彼女の言う通り、この森はSランク級の危険地帯として知られていた。
方向感覚を狂わせる魔法の霧。旅人を惑わす幻覚。そして霧に紛れて襲いかかってくる凶悪な魔物たち。
普通に考えれば、今の俺たちが挑むべき場所ではなかった。
「まあまあ、アリアさん」
レオンが面白そうに口を挟んだ。
「ケンタ殿には何か考えがあるのでしょう。いつものように、ね」
「ケンタお兄ちゃん、何かすごいの、やるの?」
ポポロが期待に満ちた目で俺を見上げてくる。
俺は三人の前で、にやりと笑ってみせた。
そして、空に向かって高らかに宣言した。
「―――さあ、始まりました! 勇者ケンタの異世界冒険ライブ!
神様たち、聞こえてるかー!?
今日は緊急特別企画!
この超難関ダンジョン『嘆きの霧の森』を、たった一つのルールで攻略してみたいと思いまーす!」
俺の突然の配信者ムーブに、アリアがぽかんとしている。
俺は人差し指をびしっと天に突きつけた。
「そのたった一つのルールとは!
―――俺たちは、神様たちの【神託】の指示だけでこの森を攻略する!」
その瞬間、俺の視界の端で神託のウィンドウが爆発的に流れ始めた。
【神託】:な、なんだってー!
【神託】:きたあああああああああ! 視聴者参加型企画!
【神託】:マジかよケンタ! 正気か!
【神託】:面白そうだから、乗った!
【神託】:俺たちの言うこと聞くんだな!? 本当に!?
神々は、この前代未聞の無謀な企画に大興奮だった。
アリアは俺の言葉の意味を理解するのに数秒かかり、そして絶叫した。
「き、貴様、正気かーーーっ!!」
「正気だとも。なあ、アリア。俺はもう、一人で突っ走るのはやめたんだ」
俺は真剣な目で彼女に向き直った。
「俺は、俺を見てくれてるこいつらを信じることにしたんだ。
こいつらの中には俺たちよりずっと物知りな奴も、頭の切れる奴もいる。
そのたくさんの知恵を借りない手はないだろ?」
「……それは、そうかもしれんが……しかし……」
「大丈夫だって。それに、もし失敗したらその時はその時だ。
泥まみれになって、みんなで笑おうぜ。
それもまた、最高の配信だろ?」
俺の言葉に、アリアはぐうの音も出ないといった顔で黙り込んだ。
やがて彼女は観念したように、深いため息をついた。
「……分かった。貴様がそこまで言うなら付き合ってやろう。
だが、死んでも恨むなよ」
「サンキュ、アリア!」
かくして。
俺たちの、無謀で前代未聞の視聴者参加型ダンジョンアタックが、幕を開けた。
【神託】:よし、任せろ!
【神託】:俺たちを信じろ!
【神託】:知恵の神オーディン:面白い。私の神託についてこれるかな? 小僧
【神託】:軍神マルス:うだうだ言わずに、さっさと入れ!
【神託】:美の女神ヴィーナス:アリアちゃんの困った顔、かわいいわぁ……
お祭り騒ぎの神託欄。
俺は仲間たちと顔を見合わせ、そして深く息を吸った。
「よし、行くか!」
俺たちは一歩、深い白い霧の中へと足を踏み入れた。
その瞬間、後ろにあったはずの森の入り口がすっと霧の中に溶けて消えた。
もう後戻りはできない。
俺たちの運命は、完全に神々(視聴者)のその手に委ねられたのだ。




