第23話『無言の祈り』
グリフォンの雛はひどく衰弱していた。
俺とポポロは雛を部屋に運び込み、布を敷いた木箱に入れてやった。レオンがすぐに部屋に来て、雛の状態を見て眉をひそめる。
「……かなり危険な状態ですね。低体温と栄養失調。普通の食事はまだ無理でしょう。ポーションを数滴、水で薄めて与えてみます」
レオンは手際よく治療を始めた。その間アリアは何も言わずに部屋の隅に立ち、ただじっとその光景を見ていた。彼女の表情は硬いままだったが、その目には安堵とも後悔ともつかない複雑な色が浮かんでいた。
俺はレオンの指示に従い、雛の体を温めるためのお湯を用意したり、きれいな布を探したりと夢中で動き回った。
不思議なことに、あれだけ重かった体が少しだけ軽くなっている気がした。
目の前にやらなければならないことがある。守らなければならない小さな命がある。
その事実が俺を無理やりにでも動かしていた。
数時間後。
ポーションを少しずつ飲んだ雛は、か細いながらも落ち着いた寝息を立て始めた。危機は脱したらしい。
ポポロは木箱のそばで、安心したように一緒に眠ってしまった。
部屋には俺とアリア、レオンの三人が残された。
「……すまなかった」
俺は二人に頭を下げた。
今度は心の底からの言葉だった。
「俺のせいで皆に迷惑をかけた。危険な目に合わせた。本当に……申し訳なかった」
レオンは、ふう、と一つため息をついた。
「……ええ。本当に迷惑でしたよ。ですが」
彼は眠っているポポロとグリフォンの雛に視線を落とした。
「まあ、こういう結末も悪くはない。研究対象としては、非常に興味深いケースです」
彼なりの許しの言葉なのだろう。
アリアは何も言わなかった。
ただ、俺の目をまっすぐに見つめた。
そして部屋を出ていく。そのすれ違いざま、ぽつりと俺にしか聞こえないような声で呟いた。
「……生きていて、よかった」
その一言だけで十分だった。
【神託】:よかった……
【神託】:やっと、前に進めそうだな
【神託】:ポポロ、マジ天使
神託は穏やかだった。
炎上はまだ終わってはいない。祈力もマイナスのままだ。
だが、俺の中で何かが確かに変わろうとしていた。
翌日。
俺は一人で街の中央にある神殿に向かった。
この世界の神々を祀る荘厳な建物だ。俺にとっては、配信先のサーバーに直接繋がる特別な場所でもある。
俺は祭壇の前にひざまずいた。
謝罪配信、とでも言うのだろうか。
何かを言わなければならない。
【神託】:お、謝罪配信か
【神託】:ここで何を言うか、大事だぞ
【神託】:ちゃんと反省してること、見せろよ
神々が固唾をのんで見守っているのが分かる。
天覧者数もまたじわじわと増え始めていた。
俺はゆっくりと口を開いた。
何を言うべきか考えてきた。言い訳はしない。ただ、事実と今の自分の気持ちを正直に話そう、と。
だが。
いざとなると、言葉が出てこなかった。
「……俺は……」
喉が張り付いたように声が出ない。
ごめんなさい。
申し訳ありませんでした。
そんなありきたりな言葉が、ひどく薄っぺらく感じられた。
言葉で謝って何になる?
俺が殺した親は戻ってこない。
俺が犯した過ちは消えない。
俺にできるのは、謝罪の言葉を並べることじゃない。
俺は話すのをやめた。
そして、ただ深く、深く頭を垂れた。
無言で。
何に対してもじゃない。グリフォンの親子に。心配をかけた仲間に。そして、俺の愚かな行いで不快な思いをしたすべての者たちに。
どれだけの時間が経っても、俺は頭を上げなかった。
それは祈りだったのかもしれない。
言葉にならない、無言の祈り。
【神託】:……
【神託】:……
【神託】:……
あれだけ騒がしかった神託欄が静まり返っていた。
誰も何も言わない。
ただ、俺の無言の謝罪を見ている。
やがて。
ぽつり、と一つの神託が流れた。
【祝福 +10】
それは本当に、小さな、小さな祝福だった。
でも、その温かい光は確かに俺の心に届いた。
俺はまだ、ここにいてもいいのかもしれない。
そう思えた。
第23話を更新しました。
今回は、ケンタの再生への第一歩。
仲間との和解、そして、神々への「謝罪配信」でした。
アリアの「生きていて、よかった」という一言。
不器用な彼女らしい、最大の優しさだったんじゃないかな、と思います。
そして、神殿での無言の謝罪。
下手な言い訳や、ありきたりな謝罪の言葉よりも、彼の誠意が伝わるのは、こういう形なのではないか、と考えました。
言葉よりも、態度で示す。
神様たちも、彼のその姿を見て、何かを感じてくれたようです。
まだ炎上は収まっていませんが、ほんの少しだけ、鎮火の兆しが見えてきました。
どん底から、少しだけ顔を上げたケンタ。
彼の本当の戦いは、ここから始まるのかもしれません。
お読みいただき、ありがとうございました。




