第19話『マイナス』
炎上は収まらなかった。
俺の視界の端で、絶えず悪意に満ちた【神託】が流れ続けている。それはまるで、止むことのない呪いの言葉のようだった。
俺たちは結局、グリフォンの頭部を持って崖を降りた。雛たちをどうすることもできずに、あの場所に残して。アリアが近くにあった木の実をいくつか置いていたが、気休めにしかならないだろう。親を失った雛が野生で生き延びられる可能性は限りなく低い。
その事実が鉛のように重く、俺の心にのしかかっていた。
道中、パーティの会話は完全になかった。
誰もグリフォンの雛のことには触れない。触れられないのだ。
アリアは唇を固く結び、レオンは眉間に深いしわを刻んでいる。ポポロはただ黙って、俺の服の裾を握りしめていた。
俺のせいで、またパーティの空気を最悪にしてしまった。
手柄を立てて信頼を取り戻すはずだったのに。結果は真逆だった。
ギルドに戻り、討伐証明を提出する。
ギルドマスターのドワーフはグリフォンの首を見て「おお!」と目を見張り、俺たちの肩を力強く叩いた。
「見事だ、若者たちよ! これで街の空路も安全になる! Aランクへの昇格を推薦しておこう!」
周囲の冒険者たちからも、賞賛と歓声が上がる。
だが、その声は今の俺には何一つ届かなかった。
俺たちは英雄なんかじゃない。
ただの、親殺しだ。
【神託】:こいつら、ギルドでは英雄扱いかよ
【神託】:真実を知らないってのは、幸せだな
【神託】:ケンタのあの罪悪感に歪んだ顔、最高に飯がうまい
悪趣味な神託が俺の神経を逆なでする。
報酬の金貨を受け取ったが、その重みすら感じなかった。
その時、俺の体に異変が起きた。
急に全身から力が抜けていく。体が鉛を飲み込んだように重くなる。
立っているのがやっとだった。
「……っ」
俺はふらりとよろめき、壁に手をついた。
「ケンタ殿? どうした」
アリアが訝しげに声をかけてくる。
「……いや、なんでもない。少し、疲れただけだ」
嘘だった。
俺はステータスウィンドウを開いて、原因をすぐに理解した。
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名前:ケンタ(鈴木 健太)
称号:配信者、人非人
レベル:12
HP:58/80
MP:25/40
スキル:初級剣術、身体強化(小)
所持祈力:-8540
※【呪詛】状態:全てのステータスが大幅に低下しています。
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称号に、「人非人」が増えていた。
そして所持祈力がマイナスになっていた。
神々から浴びせられた大量の【呪詛】が、俺が今まで稼いできた祈力をすべて食い潰し、借金状態にまで陥らせていたのだ。
【呪詛】状態。そのペナルティのせいで、俺の体はレベル1の頃よりも弱くなっていた。
【神託】:お、マイナスになってるじゃん
【神託】:ざまあw
【神託】:これ、スキルも使えなくなるんじゃね?
試してみようと【身体強化】を発動させようとする。
だが、体に力が入らない。スキルは祈力を消費して発動する。その祈力がマイナスなのだから、使えるわけがなかった。
絶望的な気分だった。
俺からこの配信システムを取ったら、何が残る?
ただの何の力もない、元の世界の俺だけだ。
いや、元の俺よりもっと悪い。仲間からの信頼も、視聴者(神々)からの信用もすべて失った。おまけに多額の借金(マイナス祈力)まで背負っている。
俺は、どうすればいいんだ。
これから、どうやって戦えばいい?
どうやって、このマイナスを返済すればいい?
何もかもが分からなくなった。
俺は仲間たちに何も告げず、ふらふらとした足取りで宿屋へと向かった。
誰とも話したくなかった。
ただ一人になりたかった。
第19話を更新しました。
炎上の代償。それは、ケンタの心身を蝕む【呪詛】でした。
称号に「人非人」が追加され、祈力はマイナスに。スキルも使えない。
まさに、どん底の状態です。
今まで、この配信システムをうまく利用して(あるいは流されて)強くなってきたケンタ。
そのシステムそのものから、今度は罰を与えられます。
彼が唯一の拠り所にしてきたものが、牙をむいた瞬間ですね。
この状況、見ている神様たちの中にも、さすがに「やりすぎでは?」と思っている人がいる……かもしれません。
仲間とも断絶し、力も失い、孤独に陥るケンタ。
彼は、このまま潰れてしまうのでしょうか。
次回、ケンタ、引きこもります。
お読みいただき、ありがとうございました。




