第12話『探るような目』
オークキング討伐の熱狂は、数日経っても街に残っていた。
どこを歩いても「英雄様だ」と指をさされる。
正直、居心地が悪い。
俺たちは早々にこの街を離れたかったが、アリアの怪我がまだ完治しておらず、出発できずにいた。
その夜も、俺たちは宿屋の食堂で夕食をとっていた。
ポポロは子供用の椅子に座り、シチューを一生懸命にスプーンで口に運んでいる。
その姿だけが、今の俺にとって唯一の癒やしだった。
「――あなたが、噂の勇者ケンタ殿ですかな?」
不意に声をかけられた。
振り向くと、そこに一人の男が立っていた。
歳の頃は俺と同じくらいか、少し上か。
痩せぎすでローブのようなゆったりとした服を着ている。
色素の薄い髪に、理知的な光を宿した眼鏡。
その佇まいは、この宿屋に集まる荒くれ者の冒険者たちとは明らかに異質だった。
「……そうですが」
「これはご丁寧に。私はレオンと申します。しがない魔法の研究者でしてね」
レオンと名乗った男は優雅に一礼した。
その所作には育ちの良さがにじみ出ている。
【神託】:お、新キャラ
【神託】:魔法使いか。仲間になるのか?
【神託】:なんか胡散臭いなこいつ
俺も神託と同じ感想を抱いた。
男の笑顔は完璧だったが、その眼鏡の奥の目が笑っていない。
「何か用ですか?」
「ええ、少し。あなた方のオークキング討伐のお話に、大変興味がありまして」
レオンは俺の許可も得ずに、向かいの席にすっと座った。
そして、単刀直入に切り込んできた。
「単刀直入にお聞きします。あなた方はどのような『奇跡』を使って、あのオークキングを討伐なされたのです?」
奇跡、という言葉を彼は妙に強調して言った。
俺とアリアの間に緊張が走る。
「……奇跡とは?」
アリアが低い声で問い返す。
「おや、ご存じない? あのオークキングが倒された日、この街の魔術師たちが上空に膨大な魔力反応を観測したのですよ。まるで天から力が降り注いだかのような……ね」
こいつ、知っているのか。
いや、知っているというより、確信に近い推測をしている。
「偶然や幸運で、あのオークキングを倒せるはずがない。そこには何かしらの『法則の外の力』が介在したはずだ。私は、その力の仕組みに純粋な研究者として興味があるのです」
レオンの目が俺をまっすぐに射抜く。
獲物を観察するかのような、すべてを見透かすような目だ。
ごまかせない。下手な嘘は通用しない。
【神託】:うわ、面倒な奴に絡まれた
【神託】:こいつ、絶対頭いいぞ
【神託】:ケンタ、どう切り抜ける?
どうする。
「神託」や「恩寵」の話なんて、できるわけがない。
俺が言葉に詰まっていると、アリアが口を開いた。
「……それはケンタ殿に与えられた神々の祝福だ。我ら人の子が、容易に口にしていいものではない」
うまい言い方だと思った。
具体的ではないが神秘性を匂わせ、相手の追及を封じる。
だが、レオンは全くひるまなかった。
「神々の祝福ですか。なるほど、面白い。では、その祝福はどのような原理で発動するのですかな? 術式は? 触媒は? それとも、あなたの血筋に何か秘密でも?」
彼は子供がおもちゃを分解したがるかのように、目を輝かせて矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。
こいつ、好奇心の塊だ。
まずい。これ以上、関わらない方がいい。
俺は無理やり話を打ち切ることにした。
「……すみません。疲れているのでもう部屋に戻ります」
「おや、つれない」
「ポポロ、アリア、行くぞ」
俺は半ば強引に二人を立たせ、その場を後にした。
背中にレオンの視線が突き刺さるのを感じた。
彼は追いかけてはこなかった。
ただ、食堂のテーブル席で一人楽しそうに笑っているのが、部屋に戻る階段の途中ちらりと見えた。
厄介な奴に目をつけられてしまった。
あの探るような目が脳裏に焼き付いて離れなかった。
第12話を更新しました。
新キャラクター、魔法使いのレオンの登場です。
今までの脳筋タイプ(失礼)とは一味違う、知的な探求者。
彼は、ケンタの力の秘密に、その核心に、近づこうとしてきます。
ケンタにとっては、味方なのか、敵なのか、あるいはただの面倒なストーカーなのか……。
彼の存在が、今後の物語のスパイスになってくれることを期待しています。
「法則の外の力」という言葉、いいですよね。
この世界の住人から見れば、ケンタの配信システムは、まさにそういうものに見えるはずです。
そのズレを描くのが、この物語の面白いところの一つかな、と思っています。
さて、厄介な男に目をつけられたケンタ一行。
彼らは無事にこの街を脱出できるのでしょうか。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。




