第11話『借り物の勝利』
オークキングの巨体が血の海に沈んでいる。
俺は、その前に呆然と立ち尽くしていた。
手の中にあったはずの聖剣は戦闘が終わったのを感知したのか、まるで初めからそこになかったかのように光の粒子となって消えていた。
後に残ったのは、オークキングとの戦闘で刃こぼれした安物の鋼の剣だけだ。
夢じゃなかった。
あの圧倒的な力も。
天から降ってきた金色の雨も。
「……ケンタ殿」
背後からか細い声がした。
振り向くと、アリアが俺が買ってやった盾を支えに、ゆっくりと立ち上がるところだった。
鎧はへこみ、口の端からは血が流れている。満身創痍だ。
「大丈夫か、アリア」
「ああ……なんとか。それより、今の光は……そして、その剣は……」
彼女の視線が俺の手元に落ちる。
だが、そこにはもう聖剣はない。
「……消えたのか?」
「……ああ。最初からなかったみたいにな」
俺たちは言葉を失った。
何と説明すればいい? 「名も知らない神様が、気まぐれで授けてくれた」とでも言うのか?
言えるわけがなかった。
「……ケンタお兄ちゃん」
俺の服の裾を小さな手が引いた。
ポポロが心配そうな顔で俺を見上げている。
彼女の頬には乾いた涙の跡があった。
俺は「もう大丈夫だ」と、彼女の頭を無意識になでていた。
ふわふわの獣耳の感触。
その小さな温かさだけが、今の俺にとっての唯一の現実だった。
【神託】:いやー、マジで凄かったな
【神託】:あの富豪神、何者なんだ? いまだに神託に出てこないぞ
【神託】:まあ、勝ちは勝ちだ! 英雄誕生の瞬間じゃん!
【神託】:【天覧者数:4200】突破! 盛り上がってまいりました!
神々はまだ興奮冷めやらぬといった様子だった。
英雄?
笑わせるな。
俺は何もしていない。ただ与えられた力を猿みたいに振り回しただけだ。
俺たちはアリアの応急処置を済ませ、なんとか隣町にたどり着いた。
オークキングの討伐証明(これもまた耳だった)をギルドに提出すると、ギルド内が騒然となった。
ギルドマスターだという、片目の傷跡があるドワーフが直々に出てきて、信じられないという顔で俺たちを見た。
「こ、これを本当に、お主たちだけで……?」
「……まあ、はい」
「信じられん……あの森の主を……なんと……!」
報酬として金貨が詰まった袋を渡された。
見たこともない大金だった。
その日のうちに、噂は街中に広まった。
『新人の冒険者パーティが、あのオークキングを討伐した』と。
夜。
俺たちが宿屋で食事をしていると、たくさんの冒険者たちが酒瓶を片手に集まってきた。
「お前が噂のケンタか!」
「すげえじゃねえか! 一杯おごらせてくれ!」
「あのオークキングをどうやって倒したんだ? 教えてくれよ!」
賞賛の嵐。
英雄を見るような尊敬の眼差し。
だが、そのどれもが俺の心には全く響かなかった。
まるで出来のいい映画を観た後のような、他人事のような気持ち。
これは俺の物語じゃない。
俺は主役じゃない。
ただ、最高の席で最高の奇跡を「観ていた」だけの、観客の一人だ。
どうやって倒したかなんて説明できるはずもない。
俺は愛想笑いを浮かべながら、適当にごまかした。
アリアは何も言わずに食事を続けていた。
彼女もまた、何かを考えているようだった。
あの勝利を、彼女はどう受け止めているのだろう。
宴は夜遅くまで続いた。
俺はいつの間にか酔い潰れて、部屋のベッドに倒れ込んでいた。
夢を見た。
金色の雨が降る中で、俺はただ一人、立ち尽くしている。
誰かが空の上で、俺を見て笑っていた。
第11話を更新しました。いつもありがとうございます。
オークキング戦の後日談です。
街の英雄として祭り上げられるケンタですが、彼の心は晴れません。
「借り物の勝利」
この言葉が、今回のテーマでした。
周りからどれだけ褒められても、自分自身が納得していなければ、それは虚しいだけ。
まるで、他人の手柄を横取りしてしまったかのような罪悪感と、自分の無力感。
ケンタが抱える心のモヤモヤ、少しでも伝わっていたら嬉しいです。
アリアも、ポポロも、今回の勝利を複雑な気持ちで見つめているようです。
この出来事は、今後のパーティの関係性に、どう影響していくのでしょうか。
そして、神託欄では相変わらずお祭り騒ぎ。この温度差が、またケンタの孤独を際立たせますね。
次回、新たな人物が登場します。
どうぞ、お楽しみに。




