第3話 目覚めし参謀、最初の采配はV字回復!?
官邸の、首相特別補佐官室。
黒木圭介は、窓の外に広がる永田町の景色を睨みつけていた。
彼の目の前には、手帳に殴り書きされた数枚の「未来の要点」。その筆跡は、血を吐くような焦燥感に満ちている。
(未来の記憶によれば、この時点で小林鷹志総理の支持率は、すでに危険水域だ。原因は、「防衛費の裏予算」と「官僚の癒着」)
チートは、情報を提供しても、その執行は人間が行わなければならない。
「よし」
圭介は、すぐに手元のセキュリティ端末を叩いた。
「田中翔、いるか」
「はい、補佐官。秘書官室で待機中です」
「今すぐ、小林総理に『極秘の緊急会談』を要請しろ。議題は『官房機密費の裏付け捜査』」
「……!?よ、宜しいのですか?総理直轄の機密費に手を付けるのは、政治生命に関わる…」
「いいからやれ」
田中は、彼の冷徹な眼光に気圧され、言葉を飲み込んだ。
(補佐官は、この数日で別人になった。まるで、人間的な感情を失ったようだ)
***
首相執務室。
「圭介。君の眼は、ハーバード時代から変わらないな。だが、機密費の裏付けは……」
小林鷹志総理は、地味だが誠実な現実主義者だ。親友である彼の焦燥感が、圭介には痛いほど伝わる。
「総理、未来の記憶が告げています」
圭介は、テーブルに一枚の極秘資料を滑らせた。**その動作には、何の感情も揺らぎもない。まるで、既に決着がついた盤面を、ただ淡々と整理するような冷たさだった。**
「この資料の『裏コード』。これをシステムに入力すれば、防衛省の『裏予算』と、関連省庁の違法な『現金給付』の全容が明らかになります。(腐敗した金ではない。これは、国を売り渡すための、目に見えない調和の論理の誘導だ)総理の政治生命どころか、国が持たない」
総理の顔が、一瞬で青ざめた。**その極秘資料には、圭介の未来の記憶が持つ、究極の「裏付け」が完璧な形で集約されていた。**
「なぜ…なぜ君はそんなものを…」
「論理は後です。今すぐ、総理の『最高指揮権』を行使してください。この裏金を『全額差し押さえ』、正規予算に組み込むのです」
「だが、どうする?この予算はすでに用途が…」
「用途はあります。総理は、これを**『国民への緊急現金給付』**として全額、国民に還元してください」
総理は、しばらく沈黙した後、**震える手で**その資料を手に取った。彼の顔には、政治家としての覚悟と、親友への信頼が入り混じった複雑な決意が滲んでいた。彼の誠実さが、圭介の狂気的な知略を受け入れた瞬間だった。
「……わかった。君の洞察力には全幅の信頼を置いている。この国と、我々の未来のために、やろう」
**数日後**。
総理官邸から、「防衛予算の見直しによる財源の確保と、全額国民への還元」という異例の発表がなされた。
この「サプライズ現金給付」は、国民に熱狂的な支持を持って受け入れられた。
小林政権の支持率は、低迷していた危険水域から、一気に**V字回復**を果たす。
執務室の窓から、夕焼け空を見つめる小林鷹志総理の姿があった。
(V字回復、か。だが、親友の眼にあった狂気は、私の知っている圭介ではない)
小林は、テーブルに置かれた防衛省の裏予算の資料を、複雑な面持ちで見つめた。
(この狂気と、君の言う「未来の記憶」が、本当にこの国を救うのか……)
(第一段階クリアだ。この程度の歪みでは、チートの信頼度はびくともしない)
圭介は、左腕の赤い紋様を見つめ、静かに呟いた。**その瞳には、国民の支持率ではなく、次に倒すべき敵の姿が映っていた。**
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【Xにて設定やイラストを補足しています】https://x.gd/vIi51




