第九話 憎き友人
テーマが決まらないまま、数日が経った。
今日は土曜日なので、学校はお休み。
コンテスト用のテーマを見つけるためパソコンを開き、自室に籠っていた。
もう、数時間もインターネットを漁っているが、良いアイディアが湧いてこない。
「…………はぁ……」
眉間に深い皺を寄せたかと思うと、急にパソコンから目を離し、天井を仰ぎみる。
眉間を掴み、唸る。
さすがに、数時間パソコンを見つめていたため、疲れてしまった。
少し休み、近くに置かれている時計を見た。
「…………えっ?! 十一時?!」
美鈴が覚えていたのは、九時にパソコンを開いたところまで。二時間も経っていたとは気付かなかった。
集中が途切れると、急に腰や背中に痛みが走る。
ずっと同じ体勢だったから凝り固まってしまったみたいだ。
両手を頭の上で組み、大きく伸びをした。
「んーー!!! ……はぁ。ここまで何も沸いてこないのは初めて。コンテスト用と考えているからかなぁ……」
いや、沸いてこないわけではない。
アイディアは沢山浮かぶが、どれもコンテスト用と考えると物足りない。
回る椅子を足で後ろへ下がり、天井を見上げた。
ぼぉ~と天井の木目を眺めていると、噂の小屋が急に思い浮かんだ。
「あの、噂の小屋にいた人。芸術作品のようにかっこよかった。あの人が描ければなぁ……」
呟き、深い溜息を吐く。
流石に人を描くのは著作権が出てくるため、難しい。
許可を取りたくとも、人間とは思えない不思議な空気を纏っている人に、「絵を描かせてください」とは、とても聞けない。
そもそも、未だにあの空間が本当に現実だったのかも信じきれていなかった。
もう一度行こうかとも考えたが、今はそれどころではないため、行けていない。
「はぁ……」
再度、パソコンの画面を見る。
スクリーンには、自然豊かな光景が広がる画像が映されていた。
心洗われるような、写真家が撮った自然。
だけれど、今の美鈴は特に何も感じない。
描きたいとも思えず、気分が沈むばかりだ。
「はぁぁぁぁぁぁあああ……」
もう、ため息しか出ない。
早く決めなければ、また柊にうるさく言われる。けれど、適当に決めれば、いいものは作れない。
板挟み状態で、気分も上がらない。
机に突っ伏していると、近くに置かれているスマホが鳴った。
画面を見ると、鈴からの着信。
ひとまず体を起こし、電話ボタンをタップし耳に当てた。
「もしもし?」
『よかった! 出てくれた!』
なぜか焦ったような口調に、片眉を上げた。
「どうしたの?」
『今ね、噂の林にいるの。ほら、前にかっこいい男性がいた小屋。名前は忘れちゃったんだけど……。美鈴は覚えているでしょ?』
鈴の言葉を聞いて、すぐにあの小屋だとわかった。
男性の名前も、覚えている。
「覚えているけど、なんでまたそんな所に?」
『友達と噂の話になって、小屋は本当にあったよって伝えたら、行こうって話になったんだよ。だから今来たんだけど、どこにも小屋が見当たらなくて嘘つきって言われているの! 助けてー!!』
確かにふざけているような口調と、鈴以外にも女の呆れたような声や笑っているような声が微かに聞こえる。
確実に遊んでいるのがわかり、コンテストのテーマが決まっていない美鈴は、勝手ながら鈴の能天気な電話にいらだつ。
「なんで、私なの?」
『だって、あの場にいたのって、私と美鈴だけじゃん。このままだと私が嘘つきって思われちゃうよ~』
そんなこと言われても困る。
そう思っても、鈴は強引なところがあり、一度人にお願いすると相手が了承するまで引かない、めんどくさい性格をしている。
「でも、どうすればいいの? 私は今家だから、林まで行くと言っても片道三十分くらいはかかるよ」
『公園で友達と待っているから時間は大丈夫! それじゃ、お願いね!』
「えっ、まだ行くって言ってなっ――」
――――プツン
電話が一方的に切られてしまった。
いらだっていた美鈴は、わなわなとスマホを握っている手を震わせる。
怒りのままに、ベッドへとスマホをぶん投げた。
「なんなのよ!! こっちの気も知らないでさ!!!」
大きな声で叫ぶ。
幸い、今は家に誰もいない。
声を出しても迷惑にはならなかった。
「はぁ、はぁ……。なんで、鈴ばっかり……。私と同じ趣味で、同じ部活で、同じ学校なのに」
美鈴は、イラストについてもだが、友人関係に関しても鈴に嫉妬していた。
自分には鈴以外に友達と呼べる人がいない。
自ら人に話に行くのが苦手な美鈴は、友達を作れない。
逆に、鈴は誰にでもフレンドリーで、誰にでも声をかけに行ける。
話題も、人に合わせられるため、話しやすいと耳に届く。
だから、人間関係では同じことができなくても、絵に関しては勝っていると、最初は勝手に思っていた。
だが、鈴の伸びしろが恐ろしく、少し教えれば自分のものにしてしまう。
美鈴の方が早くに絵を描き始めていたにも関わらず、今ではお互いに教え合う関係となっていた。
最初は少し困惑した。
けど、お互い高めあえる関係性に勝手に闘争心を燃やし、絶対に負けないと頑張れていた。
最初は、そう思っていた。
もう、美鈴は教えられることはないと、冗談抜きに言えるほどに、今では鈴の方が上手くなっている。
必死にもがき、頑張っている美鈴より、友達と遊んでいる鈴の方が成長し、今回のコンテストのテーマを発表した時も、柊と同じ位に歓声が沸いた。
才能に恵まれた天才。
凡人で、秀才にもなれない美鈴からしたら、今ではもう嫉妬の対象でしかない。
そんな美鈴に一方的に今回、助けを求める鈴。
断りたい、行きたくない、会いたくない。
それでも、ここで断ったり、ぶっちすれば鈴を失う。
美鈴は、一人になる。
それだけは、怖くて出来ない。
いらだちを落ち着かせるために、一回胸を大きく開き深呼吸を繰り返した。
冷静になってからパソコンを閉じ、部屋着からパーカーとズボンに着替えた。
出かける気がなかった美鈴は、それでも最低限の荷物を持って出かける。
憎い友人を、助けるために。
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