第六話 裏の顔
美鈴も小屋から出て、ドアがパタンと閉じる。それを見計らったかのようなタイミングで、小屋の奥のドアが開いた。
そこから現れたのは、銀髪の少年と、先ほど、美鈴の前に現れた妖しい狐面の男性だった。
狐面は頭の斜め上に傾けているため、素顔が露になっている。
赤い瞳は楽しげに歪み、まだ木製の椅子から動けないでいる明人を見た。
「おーおー。初めてにしては上出来だな、人間よ」
銀髪の男性は、煙管を片手で弄びながら、楽しげに言った。
深緑色の着物をはだけさせており、中には黒いノースリーブを着用している。
胡散臭い空気を醸し出しているが、今の明人にはどうでも良かった。
「…………レーツェル、貴様……」
「人間よ、顔が般若のように歪んでおるぞ。美しい顔が台無しだ」
「黙れ、化け狐」
先ほどまで依頼人に向けていた柔和な笑みが嘘のように、明人の表情がみるみるうちに不愛想になる。
それすら楽しそうに、レーツェルはニヤニヤしながら明人の様子を見ていた。
その視線が煩わしく、明人は乱暴に頭をガシガシと掻いた。
「あー、くっそ! つーか!! なんだよ、噂の内容!! 聞いていた話と全然違うじゃねぇかよ!!」
乱暴に立ち上がり、レーツェルを見上げた。
睨みつけていると、先ほどまで静かにしていた銀髪の少年が口を開いた。
「明人よ、レーツェル様を化け狐と呼ぶのはやめるのだ」
「うるせぇよ、カクリ。今は、そんな話をしているんじゃねぇんだよ!」
カクリと呼ばれた少年は、子狐の妖。
白いワイシャツに、黒い短パン。貴族の子供のような服を着用していた。
目は、子供特有のクリクリの黒い瞳。
肌は色白で、隙間から覗き見える耳は、狐の耳をしていた。
ちなみに、レーツェルの耳も、カクリと同じで狐の耳をしていた。
「おい、答えやがれ、化け狐。俺が出来るのは、”人の記憶を覗く”、”中に入るの二つ”じゃなかったのかよ。なんだよ、願いを叶えるって。噂を流してくるとか言いながらでたらめ言いやがって。驚いたじゃねぇかよ」
子供のようにギャーギャーと喚く明人を見て、レーツェルは始終、楽しそうにケラケラと笑っていた。
「まぁ、落ち着くのだ、人間。仮に、そのままの内容を噂で流したところで、誰もよくわからんくて、興味を示さんだろう」
「そ、そうかもしれねぇが……」
「それなら、願いが叶うと噂を流した方がいいだろう。人によっては、感情を解き放つだけで、願いが叶ったと感じる者もおるんだからな」
レーツェルの説明で納得できる部分もあったが、それでも腹の虫がおさまらない明人は拳を握り、自分より大きなレーツェルを睨む。
そんな彼の姿を見て楽しんでいたレーツェルは、狐の耳をピクピクと動かした。
「ほれ、そうこうしているうちに、また依頼人が来たらしいぞ」
「…………わかるのか?」
「結界を張っている本人だからな。カクリもわかってほしいのだが……」
明人とレーツェルの視線が自然とカクリへと注がれた。
カクリが首を傾げ、何が起きているのか理解出来ていない様子だ。
何を言っても意味は無いと瞬時に理解し、明人はため息を吐き、レーツェルは乾いた笑みを浮かべた。
「まぁ、そういうことだ。今はまだ始めたばかり、ゆっくり慣れていこうではないか」
「へいへい」
仏頂面を浮かべる明人だが、依頼人が来ているのなら準備をしなければならない。
頭をガシガシと掻きながら、木製の椅子へと座った。
「頑張れよ、人間よ」
「うるせーよ。さっさと奥に消えろ」
やれやれと、レーツェルはカクリと共にドアを開き、奥へと居なくなった。
一人になった明人は、ふぅと一息。
口元に優しげな笑みを浮かべ、顔を上げた。
同時にドアが開き、一人の人物が姿を現した。
「ようこそ、お越しくださいました。貴方のお話をお聞かせください」
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