第四十二話 強制睡眠
女性は、暗闇の中で目を覚ました。
床も壁も、天井もない。
浮遊感があり、気持ち悪い。
周りを見回しても闇が広がるだけで、状況を理解出来る要素が一つもない。
「な、なにが、起きたの?」
困惑していると、暗闇に明人の声が響き渡る。
『お前には、一人の娘がいるだろう。なぜ、向き合ってやらなかったんだ?』
唐突に、現状には似つかわしくない質問が振ってきて、女性は困惑する。
焦っている状況でもあり、頭が回らない。
答えられずにいると、またしても明人の声が木霊する。
『答えられんのか? なら、質問を変えよう。お前は、娘をどう思っていた?』
「そ、そんなの、今、関係ないじゃない……」
恐怖で喉が締まる中、なんとか言葉を絞り出す。
『関係あるぞ、いいから答えろ。お前は娘を、どう思っていた?』
「そ、そんなの、あの人を繋げておく為よ!! 子供がいれば、男は責任を取らなければならない。だから、産んだのよ!!」
やけくそのように言い放たれた言葉に、明人は質問を続けた。
『その結果はどうだった?』
「あんまりだったわ。産んだ瞬間に育てられないと、あの人は責任を放棄したの!! 私も放棄しようとしたわ。でも、罪で捕まるのもごめんだったし、最低限の世話だけはしていたの。それだけよ!!」
恐怖で焦り、取り繕うことも忘れすべてを吐き出してしまった女性は、顔を青くしながら闇を見回す。
ここで一瞬会話が途切れ女性は焦り、汗を滝のように流す。
「な、なによ!! 何が言いたいのよ!!」
『お前は、親になってはいけない奴だ。お前みたいな奴が子供を持つと、不幸な連鎖が続く。ここで、断ち切らねぇとならねぇな』
「どういういっ……」
反論しようとした瞬間、闇の中から明人の顔が浮かび上がる。
人をあざ笑うような笑みを浮かべ、心底楽しそうに女性を見た。
――――お前の大事なもん、頂いたぞ
『きっ、きゃぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!』
闇に、女性の叫び声と。
――――あーはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!
明人の笑い声が鳴り響いた。
※
「…………おっ、目が覚めたか」
レーツェルは、明人達が目を覚ますのを周りを警戒しながら待っていた。
その間、僅か数分。先に目を覚ましたのは、狐姿のカクリだった。
頭を振り、狐の姿のまま起き上がる。
「上手く行ったか?」
「レーツェル様……。た、多分……」
カクリが明人に目線を送ると、彼の身体もピクリと動く。
数秒待っていると、明人も顔を上げ頭を振った。
「う、んー……」
「起きたか? 手だけは気を付けるのだぞ」
「手?」
まだ寝ぼけている明人は、今の事態を把握するのに時間がかかる。
レーツェルが明人の右手を指し、反射的に視線で追った。
見下ろすと意識は覚醒し、「あっ」と、抜けた声を出した。
「まさか、本当に寝ぼけていたんじゃあるまいな?」
「うるせぇよ。早く小瓶を出せ」
「ほいよ」
レーツェルが明人に小瓶を渡す。
すぐに受け取り蓋を開け、明人の手に握られている光を小瓶の中へと注いだ。
それは、黒い液体となり、輝きを失い黒い液体となってしまった。
「レーツェル様。この人間にはもう、感情の灯すら残っていないのでしょうか?」
「いや、そんなことはない。先日も言ったが、人間の感情は複雑だ。妖の力を持っていおうと、人間の感情をすべて操作するのは不可能だ」
「なら、またこやつの感情が蘇る可能性があるということでしょうか?」
カクリが不安そうにレーツェルを見上げた。
「そうだな。だが、感情の灯は、周りの協力が必須。こんな女、助けようと思う者が存在するのか。それはそれで見ものかもしれんなぁ。まっ、そこまでの時間はないがな」
レーツェルとカクリが話しているとバタンと、なにかが倒れる音が聞こえた。
驚きながら振り向くと、小瓶を片手に明人が地面に倒れ込んでいた。
「明人!?」
カクリが人間の姿になり駆け寄った。
体を揺さぶるが、反応はない。
まさか、死んでしまった? でも、さっきまでは元気だった。
そんなことを考えていると、レーツェルが冷静に明人の口元に手を寄せた。
「安心せい。ただ、力を使い過ぎて強制的に眠りに入っただけだ」
「え?」
冷静になり耳を澄ませると、明人から寝息が聞こえていた。
「日数が空いたとしても、人間の身体には疲労が溜まっている。強制的に眠りにつくのは仕方がないぞ」
言いながらレーツェルは、明人を横抱きにし立ちあがった。
「どうするのですか?」
「小屋に戻るんだ。ここにいても、もう意味は無いからな」
「行くぞ、カクリ」と、レーツェルは歩き出した。
「はい、わかりました、レーツェル様」
そのまま二人は、いなくなる。
倒れている女性を一切、見向きもしないで――……
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