第四十一話 最後の仕事
「それにしても、まさかここまで付き合うとは思っておらんかったなぁ」
「なんだ、唐突に」
明人が片眉を上げ、横目でレーツェルを見る。
「お前さんは、他人など興味ないだろう。俺が練習がてらという言い方をしたからかとも悩んだが、やはり納得できなくてな」
「だから、何がだ。遠回しな言い方をするんじゃねぇよ、めんどくせぇな」
「お前さんがここまで動いて、一人の人間を探すのがおかしいと思ってな。興味ない人間のために、ここまで行動するのはおかしなことだろう。どういう風の吹き回しだ?」
レーツェルの言いたいことはわかる。
明人は、今まで依頼人の二人の要求にすべて答えて来た。
美鈴の感情は解き放ち、柊の感情を抜き取った。
いい方向に進んだとはとても言えない結末だが、それでも明人にとっては自分の用事はもう済ませたのも当然。
今行っている行動は、練習以外に得となることはない。
それなのに明人みたいな、他人がどうなろうと知ったことがないと本気で思っている人がここまで動く理由が、どうしてもレーツェルにはわからなかった。
「風の吹き回しも糞もねぇよ。経験できるもんは最初から経験しておいた方が、今後俺が困らなくて済むだけだ。それに、結局のところ俺一人じゃどうすることも出来ねぇ―んだろ? なら、もう一人の奴に経験しておいた方がいいだろう。まだ、失敗してもいい、今のうちにな」
「なるほどな。確かに、それも一種の自分の為、だな」
まだ目を隠されているカクリは、耳でしか今の状況を把握できない。
二人の話している内容は、わかるようでわからない。
さっきから置いてけぼりにされており、カクリは子供のように頬を膨らませ怒り出す。
「まぁまぁ」と、レーツェルがカクリを落ち着かせていると、耳をヒクヒクと動かした。
「――――見つけたぞ、人間」
「あ?」
レーツェルの視線の先を辿ると、男に媚びている一人の女性が目に入った。
露出度が高く、胸が強調されている赤い服。
周りの女性までもが引く程に派手で男性狙いだとわかる女性と、明人が手に持っていた写真を見比べた。
「――――へぇ」
「面白そうだな、人間…………」
写真の人物だとわかった途端、明人は目を細めケケケッと悪魔のような笑みを浮かべた。
見つけてからの行動は決まっている。
だからなのかそれを想像し、笑みを隠しきれない。
それに関してはレーツェルもさすがに引いており、カクリから手を離す。
やっと視界がクリアになったカクリも、明人を見て震えあがった。
「人間とは、恐ろしいな」
「あの人間だけだと思うぞ」
「勝手なこと言ってないで、さっさと行くぞ」
なんとか笑みを消し、無表情のまま歩き出す。
ちょうど、女性が男性と別れたところで明人は、紳士的な笑みを浮かべ声をかけた。
「お姉さん、少しお時間よろしいでしょうか?」
「あら、いいわよ」
明人を一目見て、服は地味だが顔は整っている為、女性は快く受け入れた。
「どうしたの? もしかして、お姉さんといいことがしたいのかな?」
「そうですね。人目が無い所に行きませんか? お姉さんのこと、知りたいです」
「ふふ、いいわよ。それじゃ、おすすめの場所があるから、そこに行きましょうか」
ナチュラルに明人の腕に抱きつき、胸を押し付ける。
片眉をピクリと動かし、振りほどきたい気持ちをなんとか我慢する。
明人は、女性が案内するがままに歩き始めた。
レーツェル達も後れを取らないように、且つ、見つからないように追いかける。
「カクリよ、ここからは時間勝負だ。迷っている余裕はない。人間の合図で、あやつの中へと入るのだぞ」
「わかりました」
ついて行くこと数分後、誰もいない裏路地にたどり着いた。
「ここは?」
「ここは、人があまり来ない場所なの。それにね、この奥には隠されたホテルがあるのよ。私みたいに、この街に詳しくないとわからない場所。そちらに行きましょう? もちろん、貴方持ちよね?」
自分の美貌に見入られたアホ。そう思っているであろう女性を見て、明人は不愉快極まりなかった。
早く、この場から離れたい。
だが、ここで急いでしまうとすべてが台無しだ。
落ち着きながら、明人はさりげなく女性から離れた。
「へぇ、こんな所があったのですね。私、このようなところに来ることないので、新鮮です」
「そう。それじゃ、私が貴女に色々と教えてあげる。初めてを経験することにもなるのかしら。楽しみね」
ふふっ、と余裕そうに笑う彼女を見て、明人は急に優しげな笑みから歪んだ笑みへと切り替えた。
「そうだな。おめぇにとっての初めてを、経験するかもしれねぇなぁ」
「えっ?」
急に口調と雰囲気が変わり、女性は困惑する。
顔を近づかせて来る明人を見上げていると、急に両頬を支えられた。
まさか、ここで始めるのか?
そう思った女性はゾクゾクとし、顔を高揚させた。
「それじゃ、始めるぞ?」
「え、こ、ここで?」
「そうだ。ここで――だ」
明人は、隠していた右目を露わにした。
隠された五芒星が赤く光る。瞬間、女性はいきなり意識を失い地面へと倒れ込んだ。
一歩後ろに下がり、明人は地面に倒れこんだ女性に軽蔑したような視線を送った。
「準備は出来たか?」
「あぁ、行くぞ、カクリ」
レーツェルに抱えられているカクリは頷き、降りた。
狐の姿になり、女性の近くまで移動する。
目を閉じ、カクリも意識を失った。
明人もその場にしゃがみ片膝を立て、五芒星が光る右目はそのままに、左目だけを閉じた。
意識を手放した明人を確認し、レーツェルはクスクス笑い、三人を見下ろした。
「さて、今回はどのような結果となるのか。楽しみだな」
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