第四十話 目的人
「これでよかったのかい?」
「いーんじゃねぇの。俺は知らね」
病院近くの歩道には、子狐から少年の姿になったカクリと明人の姿があった。
そんな二人を迎えにきたように、風と共にレーツェルが現れる。
顔に付けていた狐面を外し、ニヤニヤしながら明人を見た。
「今回は、いい完結だったんじゃないか、人間」
「まぁな。だが、後始末が残ってんだろ? 見つけたのか?」
明人がレーツェルを見ると、頷いた。
「あの人間なら、お前さんの練習台として使えるだろう」
「そうか」
レーツェルの返答を聞き、明人は口角を上げた。
「案内しろ」
「わかったわかった、そう焦るでない」
言いながら、二人は歩き出した。
そんな二人の会話を唖然と見るしか出来なかったカクリは、一歩遅れて走り出す。
「な、なんのお話なのだ!! わかるように説明せんか――!!!」
※
明人達が向かった先は、飲み屋が建ち並ぶ夜の街。
カクリもついて来たが周りは肌の露出が高い女性や、女に飢えている男性が多く集まっており、子供には悪い光景。
妖と言えど、知識がないカクリにとっては過激な世界が広がっている。
レーツェルが笑顔で抱きかかえ、何事もないようにカクリの目を抑えた。
「レーツェル様?」
「今は俺が抱っこをしてあげよう」
「え?」
よくわからないまま抱えられ、カクリの頭にはてなが浮かぶ。
そんな二人を気にせず、明人は目の前の光景を見回していた。
今は夜で、赤い光が街を歩く人達を明るく照らしている。
明人はそんな声やら音楽やらが乱れあう街の出入り口にある、鳥居のような看板を見上げ、げんなりとした。
「ここは、大人の欲望が渦巻く街。夜と言うのも相まってか、面白い景色となっておるな」
「面白がってねぇでさっさと終わらせるぞ。めんどくせぇし」
見上げていた視線を下げ、中へと足を踏み出した。
レーツェルもカクリの目を隠しながら明人を追いかけた。
酔っ払いなどがたくさん歩いており、何度もぶつかりそうになる。
明人はうまくそれを躱していたが、二人組の女性に目を付けられてしまった。
「ねぇ、お兄さん。まだまだ飲んでいない感じかしら?」
「もしよかったら、お姉さん達と一緒に飲まない?」
明人の腕に自身の胸を押し付けるように抱き着いて来る女性。
レーツェルはやれやれと思いながら、明人がどう躱すのか見届ける。
「ねぇ、お兄さん?」
甘ったるく、誘っているような声色に、明人は眉間に深い皺を寄せた。
なんとなく、嫌だ。このように誘ってくる女は苦手だ。
それは、明人が一度、女性に襲われた経験があるからだろう。
甘い匂いに、押し付けられる柔らかい感触。
――――反吐が出る。
明人は、舌打ちを零しながらも、女性を振り払った。
「悪いが、おめぇらみたいに男に媚び、簡単に股を開く女に使う時間はねぇんだ」
「なっ!」
断るにしろ、そこまで言わなくてもいいじゃないかと女性二人は顔を赤くし怒り出す。
そんな女性に弁明する訳もなく、レーツェルは何事もなかったかのように通り過ぎる。
明人の隣に移動すると、肩をすくめ呆れたような視線を向けた。
「もっとマシな態度をしないと、目を付けられてしまうかもしれぬぞ」
「何かあればお前がどうにかしろ」
「そんな無茶なことを言うでない。我々妖は、加減がわからん。もしかしたら普通のパンチで人を殺してしまうかもしれんぞ? それはまためんどくさいだろう」
レーツェルの言葉に明人はさらに深い皺を眉間に寄せ、舌打ちを零した。
「めんどくせぇなぁ……」
「人間の見た目は無駄にいいからなぁ。そこはもう、割り切るしかなかろう」
「へいへい。んで、いんのか?」
視線を前方から逸らさずに、明人がレーツェルに問いかけた。
「ふむ。この街にいるのはわかっておるが、流石にこんな人だ。俺の嗅覚が働かん。あとは直感と、聞き込みをするしか無かろう」
「役に立たねぇな」
「妖にも出来ることと出来んことがある」
レーツェルを馬鹿にされ、カクリが怒りそうになっているが明人は全く気にしない。
レーツェルも気にしていないため、カクリは深い溜息を吐きながらも怒りを押さえた。
「聞き込みだけはしたくないが、どっかの飲み屋の亭主なら余計なことは言わないだろう」
言いながら、明人はポケットから一枚の写真を取りだした。
映っていたのは、一人の女性。
見た目ばかり着飾り、世間を馬鹿にしているような女性。
それが、明人の女性への印象だった。
だが、どこか柊に似ている。
それもそのはずだ。
今、明人が探しているのは、柊の母親だから。
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