第三十九話 希望の涙
数か月後、コンテストの結果発表の日。
美鈴は、手に賞状を持ち走っていた
コンテスト会場からバスで戻って来た美鈴は、制服のまま走り出す。
顧問の制止の声すら聞かず、学校から外へと出てしまった。
鈴も、美鈴を追いかけるように制服のまま走り出す。
走って、走って、走り続ける。
制服を着ている女子高生が手に賞状を持って全速力で走る姿は、周りからしたら何事だと思い、注目の的だ。
だが、そんな周りからの視線を気にしていられない程に焦っていた美鈴は、息を切らしながら走り続けた。
置いて行かれないように、鈴も続く。
着いた先は、病院。
すぐに受付に向かい、必死な形相でいつものように柊の名前を出して部屋へと案内された。
遅れて鈴もたどり着いた。
廊下を駆けだす美鈴を見て、鈴も「まってよー!」と付いて行く。
途中、看護師に「病院内は走らないで!」と怒られ、鈴が通り過ぎる時に謝り美鈴を追いかけ続けた。
鈴が部屋にたどり着いた時には、美鈴が今に倒れそうな程に疲れ果てていた。
膝に手を置き、汗を流しながら息を整えていた。
鈴が隣に立ったことを確認すると、深く息を吐き、姿勢を整えた。
お互い目を合わせ、ドアノブに手を伸ばす。
ガラッとドアを開けると、いつもの光景が広がった。
美鈴と鈴はすぐに柊へと駆け寄り、手に持っていた賞状を柊へと突き付けた。
「見てください柊先輩!! 私の絵、入賞しましたよ。今度、大きな絵画展に飾られるんです。私の絵をみんなが見てくれる。絵画展に飾られるんです!!」
「見て! 見て!」と、美鈴は柊に賞状を見せ続ける。
やっと追いついた顧問が病室の中を見て、声をかけるのをやめた。
「柊先輩が最初の頃、教えてくれたんですよ。まだ、私への態度が変わらなかった時に教えてもらった技術、意識すること。塗り方や、絵に命を宿す方法。その、教えてもらったこと全てを入れて作ったのが、これ、ライバル――です」
美鈴は、絵画を中心にみんなで撮った写真をポケットから取り出し、柊に見せた。
みんなが涙を浮かべ、ピースをしていた。
その中心にある絵画には、黒い四角が描かれている。
箱のようなものと、色違いで明るい箱のような物を持っている女性二人が向き合っている姿が描かれていた。
黒い箱を持っている女の子は俯き、明るい箱を持っている女の子は前を向いている。
背景は、まが玉のように半分が星空、半分が青空となっていた。
これだけだとなんとなく仄暗いが、上から降り注ぐように描かれている白い光が、二人を希望へと導いているようにも感じさせる。
暗いだけではなく、希望を乗せた絵。
それは、今までの美鈴と鈴の姿のように見える。
「柊先輩。私、本気で先輩と戦いたかった。先輩とも、ライバルになりたかった。本当は本気で、お互い切磋琢磨していきたかった。先輩の絵を、本気の絵を、私は――っ、私は……」
写真を布団へと落とす。
同時にポタポタと、ベッドに雫が落ちる。
「先輩、私の絵、いかがですか。私、上手になったと思うんです。先輩にはまだ、追いつけてはいませんが、それでも、上手くなってきたと、思うんです」
美鈴の声が震え、病室に鼻をすする音が聞こえる。
「見て、ほしいです、先輩に。そして、一緒に話したい。もっと、こうした方がいい、もっとあーした方がいいって。先輩と絵の話が、したい……。先輩……。お願い、起きてよ、先輩!!」
美鈴につられ、鈴も涙を流す。
我慢できず顔を乗り出し、鈴も涙を流しながら訴えた。
「私も、もっと頑張るから。今回は美鈴に負けてしまったけれど、もっとうまくなる。先輩に教えてもらったことを精一杯自分のものにして、頑張る。だから、お願い。目を、開けてください。私に足りないものを、教えてください。先輩!!」
二人が涙ながらに必死に訴えるが、柊は一つも反応を見せない。
聞こえてすらいないかもしれない。それでも、訴えずにはいられなかった。
「お願い……」
「お願いします……」
涙を流し、名前を呼ぶ。
「「目を覚ましてください!! 柊先輩!!」」
二人の声が、病室内に響き渡った。
その声は、泣き声に変わる。
嗚咽を漏らし、二人分の泣き声が病室を埋め尽くす。
顧問も涙を流し、二人の肩に手を置いた。
二人は、顧問に縋りつき泣く。
行き場のない悲しみが涙となって零れ落ちる。
そんな時、少しだけ開いていた窓がガラッと音を立てて開いた。
三人が見ると、そこには一匹の銀色の子狐の姿があった。
病室内を覗き込む銀色の子狐。
その目は、柊へと向けられた。
目を細めたように見えた子狐は、口を開く。
『コーーーーーーン』
綺麗で、耳にすんなり入るような、鈴の音のような鳴き声。
何が起きたのかわからず唖然としていると、突風が急に吹き荒れ、カーテンにより狐の姿が見えなくなる。
すぐに駆け出し、美鈴がカーテンを開けるが、もうそこには何もいない。
顔を乗り出し外を見るが狐の姿はなく、足跡すら残っていない。
窓の外を見て茫然としていると、鈴と顧問の驚いたような声が後ろから聞こえた。
思わず振り向くと美鈴も驚き、一度止まった涙がまた、あふれ出した。
「柊先輩が、泣いてる?」
今まで、何をしても反応を見せなかった柊の目から、涙が零れ落ちていた。
「柊先輩? 柊先輩!!」
美鈴が何度も名前を呼ぶ。
反応するように、柊は涙を流し続けた。
表情は変わらないが、涙を流しているということは、感情が戻りつつあることは確実なはず。
しっかりと、二人の声は柊に届いていた。
それが何よりも嬉しくて、二人は柊に抱き着いた。
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