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第三十五話 無き逃げ道

「明人よ、どうしたのだ? あんなことを聞くなど」


 二人が見えなくなったことを確認し、カクリは歩きながら明人に問いかけた。


「特に何もねぇよ。ただ、化け狐の言葉が気になっただけだ」


「レーツェル様の?」


 なにか、気になるようなこと言っていたかと、カクリは記憶を探る。

 すると、一つ思い当たる節があり、ハッとなった。


「――――まさか、最初に言っていた言葉かい?」


 レーツェルは最初、明人がキレた時に言った言葉があった。



 ――――それなら、願いが叶うと噂を流した方がいいだろう。人によっては、感情を解き放つだけで、願いが叶ったと感じる者もおるんだからな。



 なんとなく、その場では納得できる部分もあったが、実際に今回のようなことを行い、明人はわからなくなっていた。


 美鈴は今、自分をいじめて来た柊を助けようと走っている。


 普通、自分を陥れてきた人間がどうなろうと、知ったことでない。

 逆に、もっと酷い目に合わせてやろうと考えてもおかしくはないだろう。


 それが、明人の考えだった。

 だが、美鈴は違う。それに関して、疑問が湧いていた。


「願いは、叶った。それが例え、錯覚だったのだとしても。幸せなのかねぇ~、錯覚におぼれているだけだと言うのに」


 曇り空を見上げながら、明人が目を細め呟いた。

 カクリは、明人が何を考えているのか全く分からず怪訝そうな顔を浮かべる。


「…………よくわからんが、幸せなのではないかい?」


「なんでそう思うんだ?」


「あの人間、笑っておったぞ。笑顔は、幸せを感じている時に浮かべるものだろう。 それが錯覚で得た笑顔だったとしても、本人が笑っておるのならいいのではないかい?」


 カクリは、人間の感情が理解できていないため見たまま、聞いたままにしかわからない。


 今は、美鈴は笑っている。

 鈴も、笑っている。だから、幸せ。


 そう思っているカクリは、明人の疑問も、言葉もわからない。


「笑っている奴らがすべて幸せとは限らんだろう」


「そういうものなのかい?」


「人間の感情というものは、そう簡単には決められねぇよ。その場のノリで意見が変わるし、周りの影響で物事の考え方は変化する。感情も、周りの環境や時間、人付き合いで変わっていく。一概に笑っているから幸せだとは、言えねぇよ」


 明人自身も、今まで人と関わってこなかった為、他人の感情には疎い部分がある。

 だが、妖のカクリよりは少し視野が広い。だからこそ、わからないことや、納得できない点が出てくる。


 美鈴は今、本当に幸せなのか。

 自分が行ったことは、本当にあっているのか。


 考えたところで無駄なのはわかっている。

 だが、それでも考えてしまう。


 今後も今回のようなことを続けていかなければならない立場の明人からすれば、自分に納得のいく理由がなければ途中で挫折し、続けられなくなる。


 その不安が、明人の胸に広がっていく。

 どんなに自分に言い聞かせても、不安は収まらない。


 それでも、足は止めずに歩き続ける。

 半ば諦めているような明人に、カクリは眉間を寄せ足を止めた。


「っ、おい、何してる。置いて行くぞ」


 明人が振り返り言うが、それでもカクリは動かない。

 眉間に皺を寄せ、明人が再度「おい」と声をかけると、カクリの漆黒の瞳を明人に向けた。


「明人は、今の自分が間違えていると、そう思っておるのかい?」


 急にそんなことを聞かれ、一瞬動揺する。

 だが、すぐに平然を装った。


「なんでそう思う? お前、何を見てるんだ?」


 明人は、カクリの漆黒の瞳を見つめて言い返す。


「なんとなくだ。どこか、後悔しているように感じてな。あの家を見てから――……」


 カクリは、後ろに視線を振り返りながら言った。

 あの家とは、先ほどまでいた柊家のことだ。


 明人も一瞬カクリの視線を追うが、すぐに視線を戻し頭をガシガシと掻く。


「適当なことを言ってんじゃねぇわ。それに、後悔していようがしてなかろうが、お前には関係ない。もう、俺にはこの道しかないんだから」


 妖と契約するという決断をしたのは、誰でもない明人自身だ。

 だからなのか、自分の責任だと言うようにカクリの言葉を突っぱねる。


 そんな彼の態度も理解できず、カクリは首を傾げた。


「それはつまり、後悔しているという解釈でいいのかい?」


「お前は人の話を聞いていたのか? 俺は、どっちでもいいと言っている。それに、後悔しているからなんだ、お前に今から俺の人生を変えられるのか? 出来ないだろう。助けるふりをして手を伸ばす。そこから奈落の下まで突き落とすつもりか? 自分は偽善者なんだと周りに見せつけるために」


「見せつける者がいないだろう」


 明人の言葉にため息を吐きつつ、カクリは隣まで駆け寄った。


「確かに、後悔はしていてもしていなくて、明人の人生は変わらん」


「なら、無駄な話はするな。めんどくせぇ。俺は疲れてんだよ。さっさと帰らせろや」


 ガリガリと頭を掻く明人を横目に、カクリはぽつりと呟いた。


「変わらんのなら、後悔しない道に作るしかないだろう」


「っ、後悔しない、道だと?」


 何を言っているんだと、明人はカクリを見下ろした。


「そうだ。他人に身をゆだねるから、後悔するのだろう? それなのなら、これからの道は、明人自身が作り出せばよかろう。力も授かったのだからな」


 当たり前だろうというように、カクリは明人に言い切った。


 見上げて来たカクリの漆黒の瞳に見つめられ、明人は気まずそうに舌打ちをして視線を逸らした。


 不機嫌そうに歪められていた口元に、いきなりいつものいやらしい笑みが浮かぶ。

 目を細め、カクリを見つめ返した。


「――――自分で、ねぇ……。くくっ、それはいいわ」


「何を笑っておる……」


 何を思っていきなり笑い出したのかわからず、カクリは不気味に思い後ずさった。


 そんなカクリなど気にせず笑い続ける明人は、傍から見たら不気味な二人となっている。


「そうだな、今ここでグチグチ考えていても意味ねぇわ。これからを変えるのは、俺の行動次第。これからは、面白いもんを見せてもらおうか」


 一人で納得し、一人で笑っている明人をカクリはただただ見ているだけ。


「なんだ、あの人間……」


「おい、置いてくぞ」


「あ、あぁ……」


 明人の気持ちと連動するように、先ほどまで曇っていた空から太陽が顔を覗かせ、暗かった街を明るく照らし出す。


 二人の進む道は、あの林へと繋がる道。

 お互い無言のままに歩いていると、前からレーツェルが姿を現した。


「なんの用だ」


「今回、まだ依頼人は一人、残っておるぞ」


「なんだと? もう、終わりじゃねぇのかよ」


「まだだ。油断するなよ、人間。まぁ、依頼人と言う訳ではないがな」


 もう、終わりだと思っていた明人は、めんどくさそうに顔を歪めた。


 だが、そんな彼の様子など気にしないレーツェルは、笑いながらその場から姿を消した。


 風が、レーツェルを連れ去ったかのように消えてしまった為、明人もさすがに驚いた。


「化け狐が……」


「レーツェル様をそのように呼ぶのはやめろ」


「ケッ」


 そのまま、二人はやっぱり会話をすることなく小屋へと消えた。


ここまで読んで下さりありがとうございます!

出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!


出来れば☆やブクマなどを頂けるとモチベにつながります。もし、少しでも面白いと思ってくださったらぜひ、御気軽にポチッとして頂けると嬉しいです!


よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ

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