第三十一話 敵と味方
明人は、確かに美鈴を助けてくれた。
けれど、それはたまたまだ。
明人自身は、先ほどの言葉の通り欲しい物があったから奪っただけ。
それがたまたま、美鈴にとっていい方向へと進んだだけ。
明人は、どっちの味方でもなければ、誰の敵でもない。
ただ、自分の欲しいものを集めているだけの、中立者。
「なぁ、逆に聞くが、お前はなんで俺がお前を救うと思ってんだ? なんで俺が無償で、赤の他人を救う人だと思ったんだ?」
絶望している美鈴の顔を覗き込み、無表情で問いかけた。
「お前は、誰にでも手を差し伸べるのか? お前は自分が得にならないことでも率先して行うのか? そんな善良な奴、この世にいるのか?」
明人に問いかけられ、美鈴は言葉を詰まらせる。
ここですぐに、いると答えられない自分に苛立ち、口を何度も開けるが言葉が出ず、閉ざされる。
自分の得にならないことはしない。そう言う自分が存在する。
明人の言葉を否定できない程に、今の自分の心は腐ってしまったのか。
悲観し、絶望し、以前の黒い感情がまたしても、徐々に腹の底からせり上がる。
自分の惨めな部分が露わになっていく感覚がある。
明人の漆黒の瞳に吸い込まれる。
思考が、止まる――……
「もうやめてください!!」
「っ、鈴……?」
鈴の甲高い声が、小屋いっぱいに響き渡った。
「あっ?」
明人が振り向く。
鈴は、柊を抱きしめ、再度「やめて、ください」と、苦しそうに言った。
「貴方の言う通り、自分に得がないのに動く人は少ないと思います。他人を見捨てる人も、陥れる人も、この世には沢山います」
徐々に声が震える。
だが、その声には覇気があり、力強い。
明人は途中言葉を挟まず、聞いていた。
「ですが、その中にも助けてくれる人や、他人を楽しませようとしてくれる人がいます。人それぞれ、考え方や行動が違います」
鈴の手に力が込められる。
明人を見上げる瞳に、闇は一つもない。
「なので、そんな言い方はやめてください。今の貴方こそ、人を陥れることを楽しんでいる、悪い人、ではないんですか?」
鈴の言い方に、明人は肩眉を上げた。
まさか、そんなことを言われてしまうとは思っていなかった。
レーツェルは、険しい顔を浮かべ三人のやり取りを見続ける。
カクリも、不安そうに明人を見た。
数秒の沈黙。どちらも口を開かない。
美鈴も、なんと言えばいいのかわからず、鈴を見つめる。
数秒間の気まずい空気を破ったのは、意外にも明人の笑い声だった。
「――――くくくっ、あははは、あはははははは!!!」
急に声を上げて笑い出す明人を見て、その場にいる全員が困惑した。
笑う要素なんてなかった。馬鹿にされたのか? そう思った鈴は声を荒げた。
「な、なんで笑っているんですか!? 馬鹿にしているんですか!?」
鈴が顔を青くして叫ぶが、笑いのツボにはまってしまった明人は、いまだに涙を流し笑う。
鈴が「もー!!」と、顔を赤くし怒っていると、数秒後にやっと落ち着き始めた。
「いや、悪かった。そんなことを本気で言う奴がいるなんて思わなかったんだ。おもしれーな、餓鬼って」
「が、餓鬼!?」
餓鬼呼ばわりされるとは思っておらず、鈴はショックを受けた。
そんな彼女の様子など気にせず明人は目を細め、優しく笑いかける。
一瞬、美鈴は明人の笑みにときめきそうになるが、もう彼の性格は知ってしまった。
すぐにかぶりを振り、気持ちを切り替えた。
「そいつを元に戻す方法。それは、人の温もりを与え続けることだ。そうだろう?」
明人が問いかけた先にいる人物は、急に矛先を向けられ目をかすかに開く。だが、すぐに喉を鳴らし、笑いながら鈴へと近づいた。
「こやつの言う通りだぞ、人間。微かに残る感情の灯を、人間が大きくするのだ。人間の、温もりでな」
レーツェルが明人を見て、バトンタッチ。
明人も一歩前に出て、言葉を繋げた。
「おめぇらなら出来るんだろう? ”優しさ”、注いでやれよ。まぁ、こいつにとってはいじめっ子だった奴だからな、無理だと思うがせいぜい頑張れや」
美鈴を見て、鼻で笑う。
もう、お前らに用はないというように、明人は虫を払うようにシッシッと二人を小屋から追いだそうとした。
「わかったらさっさと出てけ。その女も忘れるんじゃねぇぞ」
明人の言葉に腹が立ち、美鈴は柊をおんぶして鈴と共に小屋を後にした。
「本当に、なんなっ――――え?」
「うっそ、なんで?」
怒りのままに小屋から出て振り返ると、そこにはもう、何もなかった。
先ほどまであった。確実にあった。
そのはずなのに、今はもう、小屋が無い。
鈴が手を伸ばすが、何も触れない。
まるで、そこには最初から何もなかったんじゃないかと思わせるような光景が広がる。
だが、美鈴の背中にいる柊の姿が、今までの光景は夢でも気のせいでもないことを二人に伝える。
何も話さない、まったく動かない。
そんな柊が、二人を現実だと思わせる。
お互い顔を見合わせるが、ひとまず柊をどうにかしなければならない。
今はもう夜。辺りが見えにくくなっていた。
月明かりすらない林を見つめる二人は、怖くて息を飲んだ。
「は、早く帰らないと」
「そうだけど……」
怖い。方向感覚すら失いそう。
一歩も前に進めない。
そんな時、淡い光が二人の足もとに灯る。
驚きながら下を見ると、銀色の子狐が淡い光を放ち二人を見上げていた。
「な、なに?」
二人が見ていると、子狐はゆっくりと林の中へと歩き始めた。
動けないでいると、子狐は首だけを振り向かせる。
まるでついて来いと言っているような子狐の行動に、二人は疑いながらもついて行くことにした。
林の中を淡い光を辿りについて行く。
すると、淡い光の他にも、前方に光が見え始めた。
進み続けると、公園に戻ってこれた。
「や、やった!!!」
後ろを見ると、子狐が二人を見届けるように林の中へと戻って行く。
「あの狐って、あの狐面をかぶっていた人……だったり、するのかな。最後に説明してくれた……」
「そ、そんなわけないでしょ。だって、どう見たって人だったし……」
「でも……」
あの小屋ならあり得ると思って仕方がない。
だが、ここで考えていても仕方がないと思い二人はまず、柊をどうするか考えた。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!
出来れば☆やブクマなどを頂けるとモチベにつながります。もし、少しでも面白いと思ってくださったらぜひ、御気軽にポチッとして頂けると嬉しいです!
よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ