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第三十話 抜かれた感情

 中へと引きずり込まれた柊は、しりもちをついたことで正気に戻った。

 何が起きたのかわからず頭を振り、周りを見回した。


 そこは、薄暗い小屋の中。

 周りを見回していると、三人に囲まれていることがわかった。


 一人は、カーキ色の着物を着ている、狐面の男。

 もう一人は、銀髪の少年。

 もう一人は、片目を隠している青年。


「――――えっ」


 三人に見下ろされ、怯える。

 カタカタと震える柊へと一歩近づき、片目を隠している青年、明人がその場にしゃがみ顔を覗き込んだ。


「ひっ!!」


 表情からは、何も感情が見えない。

 無表情に見つめられ、柊も何も言えずに明人を見返す。


 すると、明人の漆黒の瞳は、怪しむように薄く細められた。


「さっき、お前。人形になりたいとかほざいてだだろ」


 静かに問いかけられた質問に、柊は恐怖で答えられない。

 そんな彼女の様子がおかしかったのか、明人が急に口角を上げ笑う。


「なぁ、言ってただろ?」


「そ、それは……」


「お望みどおりにしてやろうか?」


「っ、え?」


 言いながら、明人は右目を隠している前髪をかきあげた。

 薄暗い空間に、赤い五芒星が浮き上がる。


 五芒星から目を離せず、柊は呼吸が荒くなってきた。


「お望み通り、人形にしてやるよ」


 赤い五芒星に吸い込まれる感覚に陥る。

 なにも抗えないままに、柊の意識は無くなった。


 体が傾き、それを明人が片腕で支えた。

 腕の中で意識を失った柊は、恐怖で顔が青い。


 そんな彼女を見下ろしていると、レーツェルは狐面を取りながら明人の隣まで移動する。

 小屋の中はなぜか急に明るくなり、視界が晴れた。


「…………暗くする必要あったか?」


「いいだろう、なんとなくホラーな感じを出したかったのだ。いい雰囲気作りが出来ただろう」


「まぁ、そんなことはどうでもいいわ。それより、小瓶を寄越せ」


 柊を床へと寝かせ、立ちあがる。

 明人の右手は握られており、黒い光が指の隙間から洩れていた。


 小瓶をレーツェルから受け取ると、小瓶の中に注ぎ込むように光を入れた。

 その光は以前、美鈴の感情の一部を抜き取った時より黒い液体となる。


 いや、ただの黒より深く、言い表すとしたら、闇。

 柊が抱えていた心の闇が具現化したように液体へと変化し、小瓶の中で揺れていた。


「それで、これはまた、あの女のように捨ておくのかい?」


「…………いや」


 カクリがニュースになっていた女性を差しているのがすぐに分かり、苦い顔を浮かべた。


 ニュースになっていたあの女性は、自分勝手な理想を明人に伝え、断られると小屋の中で暴れ出した。


 明人の言葉すら聞かずに暴言を吐き続け、手まで出てしまう始末。


 女性相手に手を出すことも出来ないと、明人はカクリを後ろに下がらせ庇おうとしたところを、レーツェルが問答無用で全ての感情を取り除いたのだ。


 人間の原動力は、想い。

 想いは、感情から来るもの。


 感情が無ければ考えることすら出来ず、動くこともままならない。


 それがすべて抜けた状態の人間は、人形のように意思を持たず、動かなくなってしまう。

 今、柊はその状態となっている。


 一度抜けてしまった感情を中へと入れ直すことは、そう簡単にはできない。


 明人は、液体になった小瓶の中を覗き見る。

 すると、急に目を大きく開き、口元を手で押さえた。


「ん? どうした、人間」


 いち早く明人の異変に気付いたレーツェルが問いかけた。


「…………こいつ、なるほどな。だから……」


 明人が一人納得しており、カクリとレーツェルは置いてけぼり。

 お互い首を傾げていると、明人が目を小瓶から逸らさずレーツェルに問いかけた。


「こいつ、もうずっとこのままか?」


「なんだ、抜いたばかりだというのに、元に戻したいのか?」


「…………」


 小瓶から目を離さない。

 そんな明人に、レーツェルは小瓶を出すように手を伸ばした。


 素直に渡すと、レーツェルは中を覗き込む。

 すると、納得したように笑った。


「ほう、面白いもんが映っておるな。これは、人間の心に刺さっただろう」


「うるせぇ。それより、やっぱりもどせんのか?」


 明人の心情を理解していないのは、この場でカクリだけとなった。

 カクリがポカンとしている間でも、話は進む。


「正直に言うと、戻せる確率は低い。人間がやろうとすると、ゼロに近いだろう」


「お前だったら?」


「半々。いや、それより低いかもしれんなぁ」


「半々、か……。それは、今回は俺がやったからか?」


「そうだ」


 前回は、問答無用でレーツェルがすべての感情を抜き取ったため、ひとかけらも残っていない状態となった。


 抜き取ったものを戻そうとすれば感情は暴走し、制御が効かず殺人鬼へとなってしまう恐れがあるらしい。


 レーツェルは明人に『一度抜いた感情は戻せない』と説明していた。

 だが、今回は、まだ力に慣れていない明人が抜き取った。


 そのため、レーツェルの目には、まだ柊の中に微かな感情が残っているのがわかっていた。


 残っている感情と抜き取った感情を再度組み合わせることが出来るのか、思案しながら明人の質問に答えていた。


 レーツェルの返答に、明人は考え込んでしまった。

 小瓶をジィっと見て、ブツブツとなにかを呟いている。


「明人?」


 カクリが名前を呼ぶが、返事はない。


「人間よ」


 レーツェルも名前を呼ぶが、カクリの時と同じで無反応。


 二人がなんとか明人を振り向かせようとするが、明人の耳に二人の声は届かない。

 どうすればいいのかと思っていると、明人はどこか閃いたように笑みを浮かべた。


「――――なぁ、戻せないなら、蘇らせる方向性はどうだ?」


「それより、さっきから呼んでおったのだが、声は聞こえていなかったのか?」


 明人が目を輝かせながら言うが、それより先ほどまで無視されていたレーツェルは、あえて無視していたのかを確認した。


 彼の質問を受け、明人は首を傾げ「なんの話だ?」と、本気でわからないと言うように首を傾げてしまった。


 隣で何度も何度も問いかけていたのだから、聞こえていないわけがない。

 それなのに、明人には嘘を言っているようにも感じない。


「まぁ、それはどうでもいい。それより、今の話は聞け」


「感情を蘇らせるという話だろう? 不幸中の幸いと言うべきか、人間がまだ力に慣れておらんかったから、灯程度はこやつの心にまだ残っておる。それを呼び起こすことはおそらく可能だ。だが、俺達では出来んぞ」


「俺達は、出来ない?」


 レーツェルが楽しそうに、ドアを見た。

 明人とカクリも、つられるようにドアを見る。


「まさか、まだいるのか?」


「いるな。開けてもらうことを諦め、ドアを壊そうとしている」


「馬鹿かよ」と、明人は吐き捨て、ドアへと近づいた。


「開けてやるのかい?」


「どうせ、こいつも返さねぇとならんからな」


 言いながら、明人はドアを開けた。

 すると、二人が悲鳴を上げ、なだれ込むように小屋の中へと倒れ込んだ。


「いったた……」


「おい、元気そうじゃねぇか。なんのようだ」


 明人が美鈴を見てしゃがみ、問いかけた。


 美鈴は、明人と話すのはこれで三回目。

 だが、今までの紳士的な言葉使いと立ち居振る舞いはどこへ行ってしまったのか。


 今は、どこかの不良と話しているのかと思う程に、明人から気品を感じられない。

 困惑しながらも、美鈴は眉を吊り上げ彼を見上げた。


「あ、あの。柊先輩に、何もしていないですよね?」


「さっきの女ならあそこにいるぞ」


 顎でクイッと指し示す。

 二人が見ると、そこには床に倒れ込んでいる柊の姿があった。


「柊先輩!!」


「先輩!!」


 急いで立ち上がり、柊に駆け寄った。

 体を起こしてあげ、顔を覗き込む。


「っ、こ、これって……」


「う、うそ……」


 柊の表情からは、感情そのものが消えてしまっていた。


 目は焦点が合っておらず、口は半開きとなっている。


 血色はそこまで悪くはない。

 血が通っているのは、支えている手にぬくもりを感じているからわかる。


 だが、動かない。

 指一本すら、動かない。


「柊先輩、柊先輩!」


「先輩!!」


 声を張り上げ何度も名前を呼ぶが、何も反応はない。

 二人の声がうるさく感じ、明人は耳を塞いだ。


 煩わしいというように立ちあがり、二人を見下ろした。


「無駄だ。そんなことしても、こいつの感情はここにある。起きやしねぇよ」


 明人の表情と言動に怒りが芽生え、美鈴も立ち上がり彼を見上げた。

 その表情は怒りで染まっており、明人を睨みつけている。


「それなら、返してよ!!」


 手を伸ばし、明人の持っている小瓶を奪い取ろうと手を伸ばす。

 だが、簡単にヒラリと交わされてしまい、美鈴はドタッと床へと倒れてしまった。


「美鈴!」


 鈴が駆け寄り、美鈴を立ちあがらせる。

 明人は、そんな美鈴を滑稽だと思い、異様に笑みを浮かべた。


「そんなことをしても意味は無いぞ。仮に、これを取り戻せたとしても、抜いちゃったもんは戻せん」


「っ! …………それでも」


 美鈴と明人が睨み合う中、鈴は柊を見下ろした。


「どうして、こんなことが出来るんですか? 貴方は、私を救ってくれたのに!!」


「お前が勝手に救われたと思ってるだけだろ? 俺は、お前を救った訳じゃない。俺が必要なもんをお前から抜いただけだ。それがたまたま、お前にとっては好機に働いただけのこと。救われたと錯覚しただけだ」


 美鈴は、明人の言い分に目を開く。

 なんでそんなことを言うのか、彼の心情がわからない。


 確実に、美鈴は明人に救われた。

 心が軽くなった。心にあった重たい気持ちが無くなった。


 救われたのだ。

 明人は、味方。酷いことはしない。


 ――――本当に、そうだろうか。


ここまで読んで下さりありがとうございます!

出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!


出来れば☆やブクマなどを頂けるとモチベにつながります。もし、少しでも面白いと思ってくださったらぜひ、御気軽にポチッとして頂けると嬉しいです!


よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ

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