第三話 叶えたい夢
純粋な疑問だった。
美鈴には、大きな夢がある。
それは、絵で仕事をしていくこと。
有名なイラストレーターになり、色々な人に自分の絵を見てもらいたい。
そんな夢を、小さい頃からずっと持っていた。
だが、鈴からはそんな将来の夢などは聞いたことがない。
美鈴もあまり聞こうと思わなかったため、話題にすら上がらなかった。
そんな鈴は、もしその噂が本当だった場合、どんな願いをするのだろう。
気になり問いかけると、よくぞ聞いてくれたというように興奮気味に語り出した。
「私は、誰にも負けないくらいのお金持ちにしてもらうんだぁ」
さすがに、肩を大きく落とした。
そんな、子供みたいなことをと思いつつ、美鈴は言葉を挟まず最後まで聞くことにした。
「そして、大きな豪邸に住んで、かっこいい執事に世話されて、優雅なお嬢様生活を送るの~」
目にハートを浮かべ、妄想を膨らませている鈴をよそに美鈴はやれやれと肩を落とした。
まだ一人で語っている鈴を無視し、先ほどまで描いていたスケッチブックに目を落とした。
期待していた内容とは全く違い、すぐに興味を失った。
同じ、絵を描く仲間だからといって、考え方は違う。
鈴にとって、絵はあくまで趣味の範囲内。
将来的にこうなりたいなどといった理想はないのだろう。
――――私だったら、絵の才能が欲しいと願うかな。
心の中で呟きながらも、ありえないとため息を吐く。
そんな彼女の心中などお構いなしに、鈴は「ねぇ!!」と、またしても顔を乗り出した。
「今日、その噂を試しに行こうよ!」
「えっ、噂を試しに?」
「うん!!」
最初は嫌だった美鈴だったが、鈴があまりにもキラキラと目を輝かせるため、断るに断れなかった。
渋々だがうなずくと両手を上げ、大げさに鈴は喜んだ。
「やったぁぁぁあ! なら、来週の月曜日にでも行こうよ! 部活も休みだしさ!」
「放課後に行くの? 公園まで歩いてだと時間かかるし、学校休みの日の方が良くない?」
美鈴達の通う学校から森林公園まで、片道約三十分。
往復だと、移動だけで一時間はかかってしまう。
帰る時間が遅いと、親に怒られてしまうと不安になった。
「えぇ、だってさ、土日って人目もあるし、公衆トイレの後ろに行きにくいよ……」
鈴の言う通り、森林公園は住宅街が近くにある為、親子連れが多く集まる。
土、日は特に多く、子供の笑い声で溢れかえっていた。
人の目を気にするのは仕方がない。
鈴の意見を聞いて、確かに人の目を気にしながら公衆トイレの後ろを回りたくない。
仮に見つかってしまい、声でもかけられてしまえばどう言い訳しようなどと、最悪な事態が頭を過ぎる。
「そ、それもそうだね。……わかった。月曜日ね」
「うん! 私達で噂を確認しよー!!」
なぜか気合を入れている鈴を横目に、美鈴は再度スケッチブックに目を落とす。
スケッチブックを引きで見ると、剣に添えている手が歪なことに気づいた。
苦手な箇所なため、何度も何度も消しゴムを入れている。それでも、不自然は直らない。
変なのはわかるのに、直し方がわからない。
じぃ~と見ていると、鈴がスケッチブックを覗き込んだ。
「あ、手。これは骨がおかしいよ。剣に添えている手、多分角度かな。もっと手首を下げると、バランスいいかも。あと、手が体に対して小さすぎるのも、違和感の一つかなぁ」
美鈴がいくら見てもわからなかった手の歪さを、鈴は少し見ただけでわかり、すぐに直し方を教えた。
言われた通りに直すと、さっきまで感じた違和感は無くなり、綺麗に収まる。
「ねっ!」
満面の笑みを浮かべる鈴に、美鈴は「ありがとう」と伝える。
タイミングよくチャイムが鳴り、鈴は手を振りながら自分の席へと戻った。
一人残された美鈴は、再度スケッチブックに視線を落とした。
背景も男性も、そこまで変ではないし、バランスも取れている。
けれど、いつも手だけは駄目だった。
手は、鈴と見せ合う時に、必ず指摘が入ってしまう。
「もっと指を上の方に」「関節が外れているようになってんじゃないかな」「もっと指を長くした方がいいかも」
そんな指摘ばかりが入る。
最初は素直に直し、自分でも描けるように工夫や、コツを鈴に聞いていた。
だが、聞いたことを全て実践しようとしても、上手くいかない。
どうしても、違和感が生まれてしまう。
それに悩み、インターネットや動画サイトも漁って、手の描き方について調べた。
本屋でも、人気な手の描き方資料本はお小遣いで買って、読んだ。
コツはそれぞれ異なっており、今まで調べたものは全て試してきた。
それでも、納得できない。アナログだと違和感が生まれてしまう。
デジタルだと、トレスと呼ばれる見本を使って上から重ねればいい。
けれど、それだと自分の描きたい手をすぐには描けない。
理想が高いのかもしれないけれど、美鈴はトレス画を使わずに、自分の描きたいままに、自由に描きたいと思っていた。
それには、手の描き方のコツを体に刷り込ませないといけない。
そう思うと、美鈴より後に絵を描き始めた鈴が自分が大の苦手としている手を簡単に描いてしまうのは、正直面白くない。
「…………なんで、うまく描けないの」
スケッチブックを握る手に力が籠もり、せっかく描いた絵に皺がよる。
すぐにハッとなり、周りを見た。
幸いなことに、今の呟きは誰にも聞こえていない。
それぞれ、次の授業の準備をしていた。
安堵の息を吐き、気持ちを切り替え美鈴も次の授業の教科書を机から取りだした。
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