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第二十九話 涙の訴え

 学校を出て、公園へと向かう。

 公園へは、片道歩いて三十分。走ればニ十分程度で着く距離だ。


 今はまだ時間帯的に明るい。だが、油断するとすぐに日が沈んで夜になってしまう。


 急がなければならない。そう思うが、汗が流れ、足が鉛のように重くなる。

 公園が視界に入ると、二人の走るスピードは徐々に減速した。


「はぁ、はぁ……」


 二人とも、話せない。

 喉が切れて、血の味が滲む。

 服や手で汗をぬぐい、公園の中を覗いた。


 もう、閉鎖はされていない。けれど、ニュースになるほどの事件が起きてしまった公園で子供を遊ばせたくないのか、親子の姿はなかった。


 いつもなら、この時間はまだ子供の駆け回る姿がちらほら見れる。

 閉鎖されておらず、何事もなかったように見える公園は閑散としており、どうしてもニュースが頭を掠めた。


 人形のようになってしまった女性。

 あれは、どういう原理であのようになってしまったのか。


 それも林の奥に行けばわかるのか。

 美鈴は、まだ震える足で公園の中へと入った。


 鈴も、遅れて中へと入る。

 公衆トイレの奥へと向かうと、新しい人の足跡が残されていることを確認した。


「こ、これって……」


「うん。柊先輩だよね、きっと」


 このタイミングで新しい足跡が残されている。

 それで、柊が林の奥に行ったに違いないと二人は確信できた。


 お互い顔を見合わせ、迷いなく林の中へと入る。

 横幅は、一人しか通れないくらいに細く、美鈴を先頭にして進んだ。


 カサカサと、二人分の足音が響く。

 途中、ガサガサと鳥が飛んでいく大きな音が鳴ると、鈴の小さな悲鳴も聞こえた。


 鈴は青い顔を浮かべながら、左右を見ながら怯えていた。


「怖い?」


「なんか、前に来た時より、なんとなく空気が暗い気がして……」


 鈴の言う通り、辺りが暗く感じる。

 いや、日は昇っており、明るい。明るいけれど、空気が暗く、重たい。


 疲労もあるだろうかと、美鈴は木の隙間から見える青空を見上げながら考えた。

 まだ、走っていた体力が戻っていない、喉も痛い。


「はぁ、はぁ……」


「大丈夫?」


「う、うん……」


 鈴が心配で振り向くと、前から草を踏みしめるような音が聞こえた。

 二人で勢いよく音が聞こえた方向へと振り向いた。


 そこには、柊の背中があった。


「柊先輩!!」


「あっ、待って!!」


 美鈴が走り出し、鈴も同じく追いかける。

 すると、思っていた以上に早く、開けた場所にたどり着いた。


「あっ、ここって……」


 二人の視界に映ったのは、噂の古い小屋。

 ドアの付近には、柊が立っていた。


「柊先輩!!」


 美鈴の声に、柊が振り向いた。


「っ!」


 二人は、目を開き驚いた。

 柊の表情が、今にも死んでしまいそうな程に暗く、青かった。


 この世界に絶望しているような表情を見て、美鈴は言葉を詰まらせる。

 一言でも言葉を間違えてしまえば、柊が死んでしまう。そう、思ってしまった。


「ひ、柊、先輩。あの、早く、こっちに戻ってきてください」


「…………どうして?」


 いつもの優しい透き通るような声ではなく、地を這うような低く、重い声。

 脳に直接響くような、不気味な声。


 それだけで、美鈴と鈴は狼狽える。

 一歩、後ろに下がってしまう。


 このまま、何もせずに帰りたい。


 ここで間違えたことを言ってしまえば、自分達が柊を殺すこととなってしまう。

 汗をにじませ言葉を選んでいると、柊が言葉を続けた。


「どうして、そちらへと戻らないといけないの? 私は、戻らなければならないの? 罵声を浴びせられるために? 暴力を振るわれるために? 親の人形になるために、私はそちらに戻らなければならないの?」


 柊の言葉は、予想ができないものだった。

 暴力、罵声、人形。何を言っているんだ。


 二人が何も言えないでいると、突如として柊が怯え始めた。

 自身の身体を包み込み、震えだした。


「あ、あんな、あんな所に戻るのは、嫌だ。絶対に、嫌だ。私は、戻りたくない。戻りたく、ない」


「柊先輩……。あの、でも、その小屋は、いわゆるパンドラの箱です。ニュースを見ましたか? あの公園で、感情を失った女性の……」


 美鈴が聞くと、柊の口角が上がる。

 今度は歪な笑みを浮かべ、ケラケラと笑い出した。


 怯え始めたり、笑い始めたりと。

 柊の精神状態が危険なのは、もうこれだけでわかる。


「そんなニュース、あったわねぇ。そっかぁ、この小屋が原因だったんだ。確かに、人間が出来る所業ではないものねぇ~。納得だわ」


 大声で笑いだす。

 そんな柊に怯える二人は、何も言えない。


「でも、それもいいわねぇ」


「え?」


 冗談でも、そんなことを言うものではない。

 思わず二人は聞き返した。


「どうせ、どこにいても私は親の所有物、人形なのよ。それなら、ここで本物の人形になるのも、いいわね」


「そんなこと言わないでください!!」


 先ほどまで黙っていた鈴が、焦ったように大きな声で柊の言葉を止めた。


「なんで、そんなことを言うんですか。なんで、そんな悲しいことを言うんですか。嫌です、私は、嫌ですよ」


 徐々に体が震え、声が弱弱しくなる。

 グスンと、嗚咽を漏らしながら、涙を拭き訴え続けた。


「こっちに、戻ってきてください。柊先輩は、みんなの憧れで、尊敬の的。今まで柊先輩が助けた人が、今度は柊先輩を助けます。なので、柊先輩、戻って。お願いします。戻ったら、ゆっくりお話ししましょう?」


 鈴は、自分の瞳から涙が落ちているのにも気づかず柊に手を伸ばす。

 この手を握ってと、訴える。


 美鈴も、鈴と同じで手を差し出した。


「私も、柊先輩には沢山助けられました。困っている時に声をかけてくれて安心しました。初めてのことでわからないことだらけでしたが、わかるまで柊先輩が教えてくれたから、私は楽しく絵を描き続けられました」


 途中から変わってしまった柊には、何か事情がある。

 今回の出来事でそれがわかり、美鈴はその原因を知りたい。


「柊先輩!」

「先輩!!」


 美鈴もいつの間にか涙を縁にためていた。

 訴え、柊へと手を伸ばし続ける。


「「戻って来てください!!」」


 二人が言うと、柊の言葉を待たずに小屋のドアがバンッ!! と、大きな音を鳴らし勝手に開いた。


「そうはいかねぇなぁ」


 出てきたのは、三人のやり取りを愉快そうに見て笑っている、明人。

 柊の腕を掴み、中へと引きずり込む。


「待って!!」


 美鈴が駆け出し手を伸ばす。


「柊先輩!!」


「佐々木さっ――……」


 ――――パタン


 小屋のドアが閉まった。

 ドンと、美鈴は勢いを緩められず、閉まったドアにぶつかる。


「開けて!! ねぇ、開けてよ!! ねぇったら!!!」


 美鈴がドアを開けてと、何度も何度もドアを叩く。

 けれど、もうその木製のドアが開くことはなかった。


ここまで読んで下さりありがとうございます!

出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!


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よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ

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