第二十六話 満面の笑み
「てかさ、そのテーマでイメージは出来ているの?」
「うん。隣に参考資料がいるから」
「~~~~もう!! 私に惚れないでよね!!」
「えぇ? 駄目なのぉ~?」
「もぉぉぉぉおおお!!!」
美鈴が今まで以上に積極的で、鈴はたじたじとなってしまう。
二人を見ていた周りは、美鈴の様子がいつも違うことに驚きつつも、声をかける勇気はない。
楽しそうにしている二人の空気が美術室に広がり、他の人も楽しそうに絵を描き始めた。
唯一、この場に馴染めていないのは、柊だけ。
周りの空気に付いて行けず、戸惑っている。
今ここで立ち尽くしていては、自分が逆に浮いてしまう。
笑っている美鈴を恨めしそうに見ながらも、結局、隣に鈴がいるため何も出来ない。
舌打ちを零し、誰にも気づかれないようにキャンバスに筆を添え、何事もなかったかのように絵の続きを描きだした。
数分後に、顧問が美術室へと入る。
柊の号令で皆が立ち上がり、挨拶。顧問が座るように促すと、静かに座った。
「今日もお疲れ様。進捗はどうかな?」
みんなを見回しながら聞いていると、視線が美鈴で止まった。
「あら、佐々木さん。今日はいつもと顔つきが違うわね。もしかして、テーマ、決まったのかな?」
顧問が笑顔で美鈴に近づき、問いかけた。
すぐに気づかれるとは思っておらず驚きつつも、眉を釣り上げ「はい」と、返事をした。
「それじゃ、ここで聞かせてもらってもいい?」
「大丈夫です」
コンテストに出す作品の発表は、誰もが気になり美鈴に注目する。
そんな中、柊も、睨むように美鈴を見た。
「私のテーマは『ライバル』です」
テーマが発表された瞬間、歓喜の声が美術室に広がった。
テーマが決まった喜びと、誰とも被っていないジャンルに興奮が止まらない様子。
自分のことではないのに、自分のことのように喜ぶ部員に、美鈴は笑顔を浮かべた。
「まぁ、それは意外ね。イメージも出来ているのかしら?」
「今はまだ頭の中での構成ですが、大まかには。あとは、描き出してみてかと思っています」
今までの続きが描かれているキャンバスに視線を移す。
「そう、頑張って!」
「ありがとうございます!」
頬を染め、笑顔で応援してくれた顧問にお礼を伝えた。
「うん」と頷くと、顧問はその場から離れ「続きを」と、手をパンパンと叩いた。
顧問にも許可を貰えたため、本格的にコンテスト用の絵に手を付けていこうと、美鈴は描いているキャンバスを隣に置いた。
新しいキャンバスサイズからまず決めなければならない。
「新しいキャンバス持ってくるね」
「一緒に行こうか?」
柊は今、自分の絵に集中している。
それに、すぐに持ってこれる距離にある為、何かしてくるとは考えにくい。
「大丈夫」と伝え、美鈴は準備室へと向かった。
ドアを開け、中に入る。
ドアを閉めるか悩んだが、密室はなんとなく怖いため、ドアは閉めずに奥へと進んだ。
「えぇっと、キャンバスは……」
美術準備室の中には、物が沢山ある為歩きにくい。
それに加え、落としただけで壊れてしまうものまである為、周りに気を付けながらキャンバスを探す。
「――――あ、あった」
――――バタン
ドアが閉まる音が聞こえ、「え?」と後ろを振り向く。
そこには窓を背に、柊が顔を俯かせて立っていた。
「ひ、柊、先輩……?」
柊が、鈴の目を縫って準備室へと来てしまった。
左手を横に伸ばしたかと思うとガチャンと、鍵が閉まる音が聞こえた。
「やっと、テーマが決まったみたいね。しかも、顧問が好きそうなテーマを持ってきて好感度を上げて来るなんて。どこまでもズル賢いのね」
いきなり話し出したかと思えば、またしても自分勝手なことを言われてしまった。
美鈴は、今回の一件で鈴との関係がどれだけ儚く、逆に強い物なのかを絵に描きたくテーマを決めたのだ。
顧問が好きだからなどと言う考えは一切ない。
それなのに勝手に決められ、美鈴は恐怖より、怒りが勝る。
顔を赤くし、憤怒の表情を浮かべた。
「そんなことありません。私は、私が描きたいと思ったからテーマにしたんです。勝手な憶測で物事を言わないでください!」
はっきりと言うと柊は、下げていた顔を上げた。
その顔には、不気味な笑みが張り付いていた。
「――――え?」
なぜ、今の状況で笑えるのか。
なんで、笑っているのか。何を思っているのかわからない。
だが、よく見ると、笑っているのに、目は笑っていない。
何を考えているのかわからず、美鈴は逆に恐怖する。
「せ、せん、ぱい?」
「本当に、貴方みたいな人がいるから、私みたいな人が出てくるのよ。天才、秀才。こんな奴らが蔓延っているから、私みたいな凡人が……」
何を言っているんだ。
美鈴は、素直にそう思った。
天才? 秀才?
まさか、それを美鈴に対して思っているのか?
そう思うと、先ほどとはまた違う感情が美鈴を埋め尽くす。
怒りではない、憎しみでもない。
その感情は、同情に少し近い。
――――知ってる。今の柊先輩は、前までの私だ。
相手の努力を見ずに、表面上しか相手を見ていない。
小屋に行く前の自分と、目の前に立つ柊が重なる。
そのためか、今の柊にこれ以上の強い言葉をぶつけられない。
だが、ほおっておくことも出来ない。
今の柊を無視してしまえばどうなるか、自分自身が一番わかっている。
何かしら声をかけようと息を飲み、柊と目を合わせた。
瞬間、美鈴の身体に戦慄が走る。
汗が額から流れ、唇がわなわなと震えた。
突然、「アハハハハハハハ!!」と、いきなり大声を出して柊が笑い、美鈴は小さな悲鳴を上げ、涙を薄く浮かべた。
「どうだった? 凡人を馬鹿にする日々。どうだった? 凡人を見下す日々。貴方の絵には、私が出せない魅力があった。私はそれを、感じ取ってしまったのよ。貴方の絵を初めて見た時から……」
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