第二十五話 素直な気持ち
美鈴が鈴と仲直りした夜、案の定二人はそれぞれの家で両親に怒られた。
次の日は、平日。普通に学校があり、美鈴は眠い目をこすりながら、準備をしていた。
鞄を持ち、誰もいない家に「行ってきます」と言って、玄関を出た。
すると、そこにはなぜか鈴の姿があり、驚きのあまり足を止めてしまった。
「あ、あれ、鈴?」
壁の塀に寄りかかり立っていた鈴は、美鈴の声に気づき笑顔で手を振り出迎えた。
すぐに駆け寄ると、鈴が眠たそうに欠伸を零して「行こうか」と、先に歩き出してしまう。
数秒唖然としていると、鈴が振り返り「早く〜」と、急かす。
「あ、う、うん」
美鈴はすぐに駆け出し、鈴の隣を歩き始めた。
二人で歩いていると、鈴が深いため息を吐いた。
「ど、どうしたの?」
「昨日さぁ、家に帰ったらすごく怒られたんだよねぇ」
「あぁ、私も怒られた。何もあそこまで怒らなくていいのに……」
昨日の夜の光景を思い出し、今だに体が震えてしまう。
お父さんも怖かったが、お母さんの鬼の形相が今でも忘れられない。
もう、絶対に両親を本気で怒らせてはいけないと、美鈴が心に誓った出来事だった。
「そう言えばさ結局、あの小屋で何があったの?」
「え? 小屋?」
鈴に聞かれて、美鈴は「うーん」と思い出そうとするが、なぜか小屋の出来事だけがすっぽりと抜け落ちている。
明人の顔も、カクリの顔も。誰の顔も、はっきりと思い出せない。
頭に靄が現れ、遮断される。
「…………ごめん。なんか、思い出せない」
「そうなの? まぁ、現実味のない不思議な感じだったもんね。なにか代償が合っても不思議ではないか」
「え、代償?」
鈴の何気ない言葉で、美鈴は怯えてしまった。
「い、いや、ま、まさかね。もし、代償があったら何かしら苦しいはずだもん。美鈴は、今何か変わったこととかはないでしょ?」
「う、うん。小屋の出来事を思い出せない以外には特に……。それに……」
「それに?」
美鈴が言いかけるが、首を振り「何でもない」と先を言わなかった。
「えぇー! そこまで言ったら教えてよー!!」
「やーだよ」
美鈴は逃げるように走り出し、鈴が追いかける。
そんな二人の後ろには、柊がわなわなと体を震わせたっていた。
目は見開かれ、驚愕の表情を浮かべていた。
「なんで、あんなに楽しそうにしているのよ……」
美鈴の笑顔に柊は、怒りが溢れ憎悪を醸し出す。
拳を強く握っているせいか、爪が食い込み血が流れていた。
「…………私の方が、上なのよ。何もかも。なのに、どうして私より、あんな奴が苦しんでいるのよ」
いつもはしっかりと着ている制服のボタンが一つ外れている。
その隙間から見えるのは、殴られたような痣。
柊はボタンを一つ閉め忘れたことを見つけ、慌てた様子で閉めた。
そして、もう姿が見えなくなった美鈴に最後、舌打ちを零し学校へと向かった。
「早く、コンテスト用の絵を描き上げないと……。また、お母さんに……」
※
部活の時間になった。
その前に、美鈴は鈴に今まで柊に受けていたいじめについて話していた。
信じてもらえるかは正直賭け。けれど、鈴はなんの疑いもなく信じた。
一緒に悲しみ、共に打開策を考えた。
それは、部活中は出来る限り一緒にいること。
基本、柊が美鈴に絡む時は、一人の時。それか、周りの視線が美鈴から離れている時のみ。
それなら、鈴が出来る限り隣にいれば、少なからず簡単には仕掛けてこないと考えた。
鈴は、美鈴を守るナイト気取りで眉を上げ、部活へと向かっていた。
「なんか、迷惑かけてごめんとか言いたいけど、なんとなく鈴、楽しんでない?」
「何を言っているのさ。楽しいなんてそんな不謹慎こと、思うわけないでしょ!」
そう言っている鈴だが、目はなぜか輝いている。
友達を本気で守らなければならないという使命感に、好奇心旺盛な鈴はワクワクしてしているのだろう。
やれやれと思いつつ、美鈴は悪い気分ではなかった。
それは、あの小屋の出来事のおかげで、心に余裕が出来たからか。
それとも、鈴の努力を見たからか。
どっちにしろ、美鈴の気持ちは変わらない。
なんでも、鈴に素直に言えばよかった。
それを理解出来た美鈴の身体は、部活に行く足取りが軽い。
美術室にたどり着き、鈴がドアを開ける。
中には、ほとんどの部員達が揃っていた。
その中には、もちろん柊の姿もある。
チラッと美鈴を見るも鈴が一緒にいるからなのか、ちょっかいはかけてこない。
すぐキャンバスに視線を落としたことに、美鈴はほっとする。
「準備しよ」
「うん」
すぐにリーゼルを出し、キャンバスを設置する。
「そう言えば、コンテストに出す絵のテーマは決まったの?」
「あぁ、それね。うん、決まったよ」
「え、何にしたの~?」
準備をしながら鈴は、美鈴に聞いた。
声が弾んでおり、嬉しそう。
思わず美鈴も頬が緩み、笑ってしまう。
「私、鈴をイメージして出そうかなって思ってるよ」
「え、私?」
鈴は驚きすぎて、手に持っていた木製の椅子を落としてしまった。
「うん。私、鈴が凄く綺麗で、輝いて見えたの。だから、描きたくなった。流石に、名前は出さないけどね」
ふふっと、楽しそうに笑う美鈴を見て、鈴は急に恥ずかしくなり「もぉ~~~」と、顔を赤くし両手で隠した。
「早く準備しないと顧問の先生が来ちゃうよ~」
「わかってるよ~」
恥ずかしそうに顔を逸らしながら、鈴も落した木製の椅子を拾い上げる。
美鈴の隣に置き、まだほんのり赤い顔をキャンバスに向けた。
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