第二十四話 過去
子供の頃には、実の親に捨てられて、知人の家を転々として過ごしていた。
その理由は、明人の性格と言動にある。
明人は人を、客観的に見すぎる癖があった。
人の抱く感情に疎く、人間関係を築くのを苦手としていた。
人と会話することすらうまく出来ず、目すら合わせられない。
人間不信一歩手前な状態となっていた。
そうなってしまった理由は、親が明人に対してネグレクトをしていたのが原因の一つとなっていた。
人と関わらせてはくれなかった。
家ではずっと我慢させられていた。
だから、明人は急に外の世界に踏み出しても、人との関わり方がわからない。
だから、自分の感情を押し込み、次第に感情というものが軽薄となってしまった。
親戚に預けられてからも、ずっと一人で過ごしていた、
誰とも関わろうとしなかった。
ずっと一人でいて、声をかけられても首を動かすだけで声を出そうとしない。
ただ、それだけで周りは明人を気味悪がった。
生まれつき目つきが悪いのも、周りから嫌われる要因となっている。
明人の漆黒の瞳は、猫のようにつり上がっている。簡単に言えばつり目。
それが、人に興味がないがために、氷のように冷たい。
凍てつくような視線が、周りを遠くへと遠ざけた。
だが、学校に通うようになればそうもいかない。
強制的に集団行動となる学校生活では、人を遠ざけ続ける事は出来ないと、高校前までに学んだ。
だから、高校では、猫をかぶって過ごした。
汚い口調は封じ、疑問は頭の中で処理させ、周りに合わせて過ごしてきた。
目元は、前髪を長くし誤魔化した。
あまり見られなければ、問題はない。
仮面のような笑み、作られたような立ち居振る舞い。
すべてが明人であって、明人ではない。
それでも、彼は良かった。
もう少し我慢すれば、自立が出来る。
自立さえできれば、周りがなんと言おうと、生きていける。
学生生活が終われば――……
そう思っていたが、間違っていた。
預けられていた親戚の既婚の女性の、明人を見る目が変わったのだ。
まるで、獲物を狙うような瞳を毎日のように向けられ続けた。
明人の視線は鋭く冷たい。
人を寄せ付けないようなオーラが無意識に出ていた。だが、見た目は同い年の男性と見比べても、美形。
元々、男癖が悪い女性は、美形なら誰でも良いという歪んだ感覚を持っていた。
明人は、その女性に獲物として捕らえられてしまった。
夜、寝込みを襲われた。
声が出ず、助けを求められない中、偶然女性の旦那さんが明人を襲っている女性の姿を見て逆上したのだ。
そのまま腕を引っ張られてしまい、外に止められている車に無理やり放り込まれる。
恐怖を感じ、何も話せない。
精神状態が危ない明人の心情など一切気にせず、車はどんどん町から離れる。
数時間は車で揺られていると、森の中に入ったことがわかった。
なぜ、こんな所に連れて来られたのか、今の明人は考えられない。
森を進むと、途中で止まる。
旦那が下りると、明人も引きづられるように外へと放り出された。
地面に叩きつけられ唖然としていると、車が去って行く。
明人はここで、やっと事態を把握した。
自分が捨てられたんだと、絶望した。
夜は寒い。体を震わせながらも、周りを見回した。
光源は、月明かりのみ。
息を吐き、空を見上げた。
どうすることも出来ず、途方もないまま歩き出した。
もう死ぬ、自分は死ぬ。
今自分がいる森は大きいのか、歩いても歩いても出口にたどり着かない。
平衡感覚が麻痺しているのだろうと明人は考え、足を止めた。
このままがむしゃらに歩いていても意味はない。
だが、歩かなければどうすることもできない。
頭で理解出来ても、体は追いつかない。
普段歩かない森の中と言うだけでも体力は無くなり、精神状態も限界に近い。
近くにある木に背中を預け、蹲る。
もう、死んでもいいやと諦め、目を閉じた。
その時、目の前に狐面を顔に付けたレーツェルが姿を現した。
気配は感じない。顔を隠している明人は、気配のないレーツェルには気づかない。
「面白い人間を見つけた――――」
それが、レーツェル達と明人との出会い。
カクリは、夜が明けてからレーツェルから明人を紹介され困惑した。
なぜ、こんな人間を拾ったんだと猛反対した。
聞く耳を持たなかったレーツェルは、唖然としている明人に自分達は妖だと説明する。
最初は信じなかったが、色々と説明され、力を見せられ納得するしかなかった。
それで、レーツェルは明人に一つの提案をした。
『衣食住はこちらで用意する。だから、人間はカクリの力を蓄える協力をしてほしい』
行き場のない明人からしたらこの提案はありがたく、すぐに頷きたい気持ちもあった。
だが、まだ冷静を保っていた明人は、すぐには頷かない。
レーツェルを見上げ、疑い深く目を細めた。
氷のように冷たい視線を、無意識にれーちぇるへと送る。
髪で隠していようと、視線は感じる。
レーツェルは、明人から放たれる視線に高揚し、口角が上がるのを抑えられなかった。
※
「レーツェル様?」
いきなり黙ってしまったレーツェルに、再度カクリが呼びかけた。
「――――こやつに、期待しているのかもしれんな」
カクリの問いにレーツェルは答える気はないようで、彼から視線を外し立ちあがった。
「カクリも疲れただろう。今はもう寝るがいい。まだ、今回の依頼人のすべてが解決した訳ではない」
「え、ですが、佐々木美鈴はもう……」
「くっくっくっ」
何がおかしいのか、レーツェルは懐から煙管を取り出し、弄ぶ。
「時期にわかる――……」
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