第二十三話 強制睡眠
「「はぁぁぁぁぁぁあああ」」
「お疲れ様だな」
二人が林を出たことを確認すると、カクリと明人がソファーに座り、項垂れた。
「疲れた……、眠い」
「私もだ。ここまで考えなければならないとは思わんかった」
明人は何度も欠伸を繰り返し、カクリは天井をぼ〜っと眺めている。
そんな二人を見て、レーツェルはクスクスと笑う。
「それにしても、今回、ここまでうまくいくとは思わなかったなぁ。カクリが必ず途中で突き放すと思っておったぞ」
「突き放したかったですよ。だって、めんどくさいですし、私にはあの二人の関係がどうなろうと興味はありません」
カクリが天井から目を離し、レーツェルを見た。
「それに、突き放してしまえば意味はないのでしょう? 思ったことを口にしてと言われていたため、突き放す以外の疑問をすべてぶつけたのです」
「それが、良い方向へと進んだのだな。よくやったぞ」
褒めるように、カクリの頭をレーツェルが撫でた。
「人間の思考には、偏りがある。思い込みで現実を見えていないことは多々ある。それをカクリが見せたのだ。客観的かつ、感情に身を委ねないカクリだからこそ、純粋な言葉だからこそ、あの人間に届いたのだろう」
「そう、なんですか」
まだ、はっきりと理解出来ていないカクリだったが、褒められたのだろうと少し照れる。
顔を背けると、レーツェルが次に目を向けたのは、座っているのがやっとの状態である明人だった。
「人間よ、力はどうだ?」
「どうだとは、どういうことだ。何が聞きたい」
顔を上げることすらせず。明人は質問を質問で返した。
「力を使い、明人は二人の人間の記憶を覗いた。あの二人の関係性、すれ違い。それを見て、心は痛くなかったか? 心は、疲れてはおらんか?」
「それこそ、なぜ聞く」
ゆっくりと顔を上げる。
明人の表情が暗く、瞼は重そう。
顔が青く、疲れているのが目に見えてわかる。
「なぜ、俺が心を疲れさせないといけない。そもそも、二人の関係性など、俺には関係ないんだ。余計なことを聞くな。俺が必要なのは、これだ」
言いながら、明人は拳をレーツェルに突き出した。
握っている指の隙間から、微かに光が漏れている。
「上手く抜き取れたらしいな。先ほどの人間が持っていた、記憶の欠片を」
「これ、どうすればいいんだ? なにか握っている感覚があるわけじゃねぇけど、確実に俺は、なにかを握ってるよな」
指から見える光を見て、明人は眉を顰めた。
レーツェルは「待っておれ」と、懐から小瓶を取り出した。
「これに、注ぐように入れるのだ」
「へいへい」
見た目は、普通の小瓶。
本当に大丈夫なのかと思いながらも受け取ると、なんとなく違和感を感じた。
いぶかし気に小瓶を見るが、違和感の正体はわからない。
口では説明できない感覚に、眉を顰めた。
疑い深い明人を見て、レーツェルは苦笑いを浮かべた。
「それには、俺の力を込めている。だから、入れても問題はないぞ。今、手で握っている物を注ぐように入れると、記憶をずっと保管できる。やってみろ」
レーツェルに指示を出され、明人は片眉を上げながらも、言われた通りに小瓶を開け、注ぐように光を入れた。
その光は、小瓶に入ると液体へと変わる。
淡く光る、透明な液体が小瓶の中で揺れていた。
蓋を閉め明人が覗き込むと、美鈴と鈴のすれ違っている関係の記憶が覗き見えた。
「これ……」
「覗き込んだ時に見えた光景は、俺の力を持っている者にしか見えん。それが、俺達の力となり、強くするのだ」
明人から小瓶を受け取り、レーツェルが覗き込んだ。
「ほぉ〜。これはまた、綺麗な物を抜き取ったな」
「駄目なのか?」
「いや、欠片だから問題はない。本人も、抜き取られたことに気づいてすらいないだろう」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんだ」
小瓶を懐にしまうと、レーツェルは明人を見下ろした。
「なんだ」
「いや、初めてにしては上出来だと思ってな。だが、疲れはたまっておるらしい。今は、ゆっくり休め」
「もんだいねっ――……」
問題ない。そう言おうとしたら、なぜか急に明人の身体がグラッと傾いた。
倒れ込む直前、レーツェルが明人を支えたため、ソファーから落ちることはない。
不思議に思ったカクリはレーツェルの隣に移動し、明人を覗き込んだ。
「何をしたのですか?」
「この男は素直ではない。休めと言っても、休まんだろう。だから、強制的に眠らせたのだ」
カクリが耳を傾けると、確かに明人から寝息が聞こえてくる。
「人間にとっては、我々妖の力は強すぎる。俺がほんの少し分け与えた力だとしても、このざまだ。使い慣れるまで、時間がかかりそうだな」
明人の頭を撫でると、ソファーへと横にした。
レーツェルを見上げているカクリは、今しかないと思い今まで抱えていた疑問をぶつけた。
「レーツェル様、お聞かせ願います。なぜ、このような人間を構うのですか?」
明人はもともと親に捨てられ、知人に捨てられ、一人で生きて来た人間だった。
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