第二十二話 ライバル
「んっ……」
美鈴は、体から浮遊感がなくなり、目を覚ます。
ゆっくりと体を起こすと、自分が元居た小屋で寝ていたことに気づいた。
「あ、あれ、私……」
まだ覚醒していない頭のまま体を起こし、ぼぉ~と何もない空間を見る。
「ん、ん……」
「え、あっ……」
急に隣から声が聞こえ振り向く。
そこには、ソファーのひじ掛けに頭を預け寝ている鈴の姿があった。
気持ちよさそうに眠っているため、痛みとかはないように見える。
安堵の息を漏らすと、声をかけられ顔を上げた。
「起きたみたいですね」
「あっ、あの、私……」
木製の椅子に座り、柔和な笑みを浮かべている明人を見てハッとなる。
先ほどまで寝ていた為、髪や服は乱れており、恥ずかしい。
乱れた髪や服を急いで直していると、明人がクスクスと笑う。
「あっ、えっと、すいません……」
「いえ。ご気分はいかがでしょうか。痛みや違和感はありませんか?」
「あ、はい。大丈夫で……あ、あれ?」
体がものすごく軽く、頭がすっきりしている。
憑き物が落ちたような、清々しい気分に驚いた。
「では、ここからは貴方の番です。頑張ってください」
「わ、たしの、番?」
不思議に思い首を傾げていると、横から声が聞こえた。
鈴が起きたらしく、振り向いた。
「ん〜。眠い……」
目を覚ました鈴は目を擦り、伸びをする。
そんな鈴を見て、美鈴の目は悲しそうに歪む。
けれど、すぐに首を横に振り、眉を吊り上げた。
美鈴の様子を見て、もう問題はないと思い明人はフッと笑った。
「では、後はお二人でお話しください」
立ち上がり、明人は外へと続くドアを開けた。
夜風が中に入り、眠そうにしていた鈴も完全に目を覚ました。
「今日は良い月です。ごゆっくりと、お過ごしください」
明人が頭を下げる。
そんな彼を見て、二人はいたたまれない気持ちになり、そそくさと小屋を出た。
だが、美鈴はどうしても言いたいことがあり、振り返った。
「ありがとうございました!!」
ドアが閉まる直前、明人は美鈴の言葉に驚き目を開いた。
すぐにパタンと閉じられ、二人は思わず顔を見合わせた。
「え、えぇっと、何が、あったの?」
鈴は、自分に何が起きたのか理解出来ておらず、眉を下げ美鈴に問いかけた。
けれど、視線は合わない。美鈴に言われてしまった言葉が頭を過る。
視線を下げ、美鈴の顔が見れない。
そんな鈴を見て、美鈴は視線を逸らした。
自分の言ってしまった言葉を思い返し、怖くなる。
けど、ここで逃げてしまっては今までの自分と変わらない。
拳を握り、鈴を再度見た。
許されないかもしれない。けれど、言わなければならない。
「鈴、ごめんなさい!!」
「え、ど、どうしたの、美鈴? ちょっ、顔を上げて?」
いきなり大きな声で謝罪され、頭まで下げられてしまい鈴は戸惑った。
すぐに頭を上げさせられ、美鈴はポツポツと話し出す。
「私、鈴の表面しか見ていなくて、勝手に嫉妬していたの」
美鈴の言葉に、困ったように眉を下げ、鈴は続きを待った。
「鈴は、才能だけで絵がうまくなっていると思ってた。私はこんなに努力しているのにって、自分勝手に憎んで、怒って。それで、酷いことを言ってしまったの」
途中で言葉を挟まず、鈴は耳を傾け続けた。
「私の方が本気なのにって。私の方が早く絵を描き始めたのにって。自分が上手く描けないから、鈴に酷く当たってしまった。自分が出来ないことを鈴のせいにして、嫉妬して、憎んで……。本当に、酷いよね、私……」
涙が落ちそうになる。
下を向くと、縁に溜まっている涙が零れ落ちてしまう為、美鈴は真っすぐ前を見続けた。
自分が泣くのは違うと言い聞かせ、言葉を紡ぐ。
「謝ったからって、私が鈴に言ってしまった言葉は消えないし、過去のものにはできない。それでも、どうしても謝りたかった。そして、鈴の努力を知ったよって、見たんだよって伝えたかったの」
「美鈴……」
美鈴は、大きく息を吸い込んだ。
「鈴、本当にごめんなさい!! 私も、鈴の絵、好きなんだ。大好きなんだよ。だから、嫉妬してしまった。鈴みたいに綺麗な絵を描けない、苦手も克服できないって勝手に思っていただけなの。本当に、大好きなの。これだけは、信じて……」
我慢しきれず、涙が縁から零れ落ちる。
それでも、美鈴は何度も何度も謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい!!」
何度も何度も、頭を下げた。
何度も何度も、謝った。
許さなくてもいい。
それでも、謝りたかった。
これはただの自己満足なのかもしれない。
でも、万が一、鈴が許してくれるのなら――……
「いいよ。私も、ごめんなさい」
「ぁ、え、な、なんで鈴が謝るの!? 謝らないでよ!!」
いきなり謝られて、美鈴は困惑した。
鈴に謝るところなんてない。すべて美鈴が悪い。
それなのになぜ謝るのか、わからない。
「わたし、美鈴が悩んでいるの、知っていたの。そして、私を冷たい目で見ているのも、気づいていた」
まさか、気づかれていたとは思っていなかった。
それとは別に、気づいていて、なぜ美鈴に声をかけてくれていたのかも、わからない。
困惑していると、鈴は言葉を続けた。
「でも、踏み込んだことを聞くと、今より美鈴との関係が悪くなってしまうかもしれない。美鈴が、私から離れてしまうかもしれない、いなくなってしまうかもしれない。そう思うと、怖くて聞くことが出来なかった。だから、私も美鈴から逃げていたんだよ」
笑みを浮かべ、鈴は手を差し出した。
「でも、今回美鈴が話してくれて、私もすっきりした。同時に、嬉しかった。これでやっと、私達、ライバルになれるね」
「え? ライバル?」
鈴の言葉がわからず、美鈴は聞き返す。
「ライバルだよ。だって、私の絵、好きになってくれたんでしょ? やっと、好きになってくれた。ライバルは、お互いを認めないとなれない関係性だから、私、頑張ったの。美鈴に認められるように」
「そ、そんな理由?」
「うん。だって、ライバルって、なんか、かっこよくない?」
子供のように言う鈴は、笑っているような、泣いているような。どっちとも取れない表情を浮かべていた。
美鈴も思わず笑ってしまい、差し出されていた手を握る。
「確かに、ライバルって、かっこいいね」
「でしょ? だから、私達はこれからよき友であり、よきライバルだよ。コンテストも、負けないから」
「私だって!」
二人は笑い合い、手を繋ぎながら、月明かりが照らす道を歩き、林を後にした。
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