第二十一話 未来
それは、鈴が友達と噂を試しに行った時の映像だ。
もう、美鈴は帰った後なのか、三人しかいない。
映像に釘付けとなってしまう。
今度は、どんな鈴を映すのか。
ゴクリと、喉を鳴らす。
汗が、止まらない。
『――ねぇ、さっきのが一番の友達の佐々木美鈴ちゃん? なんだか、二人が友達って、意外だね』
『それ、私も思った! なんだか、大人しいし、うるさい鈴の相手なんてめんどくさくてしなさそう!』
鈴の友達二人がケラケラ笑いながら言う。
そんな二人を目の前に、鈴は満面な笑みを浮かべた。
『えへへ。正直、私もこんなに美鈴と仲良くなるとは思ってなかったよ』
やっぱりか。
そう、自然に思った。
鈴は、明るく優しい、花形。
美鈴は、暗く話下手な、脇役。
そんな二人が一緒にいるだけで、周りはおかしいと思う。
鈴が美鈴をかわいそうに思って、惨めに思って一緒にいると思っても不思議はない。
そう考えるのが普通だ。
だが、次に放たれた言葉に、美鈴の目は大きく見開かれた。
『でもね、美鈴は本当に絵が好きで、絵の話をしている時は私より話すよ。それを聞くのが私は本当に好きで、楽しくて仕方がないの』
『そうなの? そうは見えなかったけど……』
『好きな話をする時、誰でも声が大きくなったり話が止まらなかったりするでしょ? それと一緒。それに、私は思うんだ』
目を細め優しく微笑む鈴は、どこかの女優なのではないかと思う程に綺麗に輝いていた。
夕暮れの光を纏い、女神のように微笑んでいる。
『美鈴は確かに口下手なところがあるとは思うし、人見知りが激しいとも思う。でも、それって、人を傷付けたくないと思う、心からの優しさなんじゃないかなって』
鈴の温かい本心が、美鈴の冷たくなった心を温める。
涙が流れ、頬を伝う。
『どういうこと?』
『人によってだとは思うんだけど、たまにいるじゃん? 調子に乗って人の傷つくことを平気で言う奴とか、言葉が止まらなくなって酷いことをぺらぺらと話す奴』
『あ~、いるね』
『うん。すごく話が面白い人でも、話しやすい人でも。私は、他人を平気で気づ付ける人より、口下手で、話すのが苦手な人の方がずっと好き。人を思って、言葉を考える時間が長いだけだからさ。それはただ、待てばいいだけ。そうすれば、お話が上手な人より何倍も楽しめる!』
涙が溢れて止まらない。
まさか、そんなことを思ってくれていたなんて思わなかった。
確かに、鈴と話す時でも美鈴は最初、上手く話せなかった。
緊張し、喉が締まっていた。
せっかく声をかけてくれた。
せっかく友達が出来る。
もう、一人じゃない。
早く、相手が困っている、早く。
そう思いながらも言葉が出ない。言葉のキャッチボールが出来ない。
めんどくさいと思っていただろう。
面白くないと思っていただろう。
勝手に思い込んでいた。
勝手に、決めつけていた。
鈴はただ、待っていてくれただけ。
美鈴の言葉をずっと、何も言わずに待ってくれた。
耳を、傾け続けてくれていた。
描いてる絵を見ていると、目を輝かせて何度も声をかけてくれた。
絵のことなら話せる。そう思い、美鈴は話せるようになった。
いつもの自分では考えられない程に、絵についてなら語ってしまうことが多々あった。
しまった、そう思っても遅い。
自分ばかりが話してしまった。
相手を置いてけぼりにし、自分が好きなことばかりを話してしまった。
けれど、鈴は話が終わると、最初よりもっと目を輝かせて色んなことを質問してきたのを思い出した。
「そうだ。美鈴は、人を悪いように言わない。私を、引き立て役になんて思わない。なんで、私はこんなに優しくて、強い友人を信じられなかったんだろう」
声が震える、涙で視界が歪む。
何度も何度も、涙を拭う。けれど、止まらない。
自分が情けなくて、仕方がない。
自分が惨めで、仕方がない。
悲しみに打ちひしがれていると、カクリが口を開いた。
「これから信じればよいだろう」
「これ、から?」
カクリを見るが、視線は合わない。
「そうだ。今から、信じればよい。そして、謝ればよい。やってしまったことは変わらん。言ってしまった言葉は消えん。だが、相手の傷は治せる。それが例え、心の傷だったとしても」
カクリの言葉が美鈴の心にストンと落ちた。
瞳にはハイライトが宿り、血色が良くなる。
赤い唇は横へと引き延ばされ、両目から溢れ出る涙を拭い取った。
立ちあがり、カクリを見据えた
「うん。私、鈴と話す。鈴に謝って、また、絵の話がしたい」
もう、迷いはない。
真っすぐと、未来を見据えていた。
「覚悟は、決まったようだね」
言うと、カクリはパチンと指を鳴らした。
瞬間、闇が広がる空間にひびが入り始め、白い光が降り注ぐ。
「な、なにっ!?」
カクリがいた所を見るが、なぜか姿がない。
闇が落ち、強い光に視界が奪われる。
「な、なに!?」
何が起きたのかわからず、強い光から逃げるよう両手で両目を覆い隠す。
怖がりながら体を震わせていると、急に美鈴の後ろに人影が現れた。
その人影はユラユラと動き、腕のような部分を前へと出した。
美鈴の背中に添えると、彼女は目を開く。
瞬時に振り向くが、誰もいない。
確かに触れられる感覚があったのにと思い、恐怖で唖然としてしまう。
再度、美鈴の背中に人影が現れた。
そして、腕を伸ばし、また美鈴の背中に手を添える。
今度は、美鈴も振り向かない。
その手は、冷たくもなく、逆に温かかった。
安心できる体温に、美鈴は身を委ねた。
『いただくぞ。お前の、相手を見ずに膨らんだ、嫉妬心を――……』
その言葉を最後に、美鈴は強い力で引っ張られて、そのまま姿を消してしまった。
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