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第二十話 戒め

「えっ、朝の、四時?」


「そうだね。こんな時間まで起きていると体を壊してしまいそうだけれど、関係ないぐらいに必死なように見える」


 朝の四時は、さすがに美鈴も寝ている時間だ。

 遅くても、大体三時には寝てしまう。


 それなのに、四時になっていても鈴は画面から目を離さない。

 筆を下ろさない、集中力を切らさない。


「な、なんで? だって、こんなに真剣に絵を描いている姿なんて一度も……」


「そこは、当人と話した方が良いだろう」


 カクリが困惑している美鈴を見向きもせず、淡々と言う。


「で、でも……。な、なんて、言えば……。それに、私はもう…………」


 さんざん酷いことを言ってしまった。


 自分と同じか、それ以上努力をしている鈴を知らずに、見ようとせずに、自分の嫉妬心をぶつけてしまった。


 思い返してみれば鈴は、授業中に欠伸を何度も零していた。

 一人で過ごす休み時間は、大抵机に突っ伏して寝ていた。


 話している時でも、少し疲れているように感じる時はあった。

 なのに、美鈴はそんな鈴を見て、ゲームや友達と遊んで夜更かしでもしたんだろうと、なにも聞かなかった。


 鈴は努力を口にしなかった。

 美鈴は、友人の努力を見ようとしなかった。


 悲観しているとまたしても砂嵐が挟まり、画面が移り変わる。

 それは、ここ最近の美鈴と鈴だった。


 誰も近づかせないというように一人を好む美鈴。

 美鈴を気にしていても、困ったような顔を浮かべているだけの鈴。


 だが、鈴は何度か美鈴に声をかけていた。

 笑顔で、心配かけないように。でも、美鈴はそれをすべて突っぱねている。


 すぐに離れた美鈴を、鈴は不安そうに見ていた。

 手を伸ばし、空を掴む。また声をかけようとするが、すぐに口を閉ざしてしまった。


『どうして、美鈴……』


 微かに漏れた声は、微かに震えていた。

 理由がわからない恐怖心。それは、美鈴も理解している感情だった。


 美鈴も、柊の態度がいきなり変わり、怖かった。

 なんで変わってしまったのかもわからなければ、今以上に悪化するのも怖くて、何も出来なかった。


 そんな、自分も味わった恐怖心を鈴にも味合わせてしまった。

 自分を好きだと言ってくれた友人に、辛い思いをさせてしまっていた。


 なんて無様だろうか。

 なんて自分勝手だろうか。


 惨めすぎて、言葉が出ない。

 そんな時ふと、自分の姿が誰かと重なった。


 目を擦り、再度見てみると、美鈴の姿が一瞬、柊に見えた。


「っ!」


 柊と、自分が重なる。

 相手を見ようとしないで好き勝手に言ってきた柊と、鈴の努力を見ないで、好き勝手に酷いことを言ってしまった美鈴。


 外から見て、初めて気づいた。

 自分は、自分がされて嫌なことを、鈴にしてしまっていた。


 それでも鈴は、好き勝手言ってきた美鈴を捨てることなく、妖しい小屋まで追いかけてくれた。

 心配してくれた、手を伸ばし続けてくれた。


 そんな優しくて努力家だった友人に、なんて酷いことをしてしまったのか。


 後悔してもしきれない。

 自分がどれだけ独りよがりだったのか痛感し、涙が溢れ止まらない。


 体から力が抜け、その場に崩れ落ちてしまった。


 もっと、鈴の言葉に耳を傾けていれば。

 もっと、鈴の行動を気にしていれば。

 もっと、人に興味を持っていれば。

 もっと、知る努力をしていれば。


 もっと、もっと――……


「泣いているだけで、いいのかい?」


 絶望している美鈴に、カクリの涼やかな声がすぅっと入ってきた。

 涙で濡れた顔を上げると、カクリの無表情が視界に入る。


「もう一度問う。泣いているだけで、いいのかい?」


 そんなことを言われても、もう遅い。

 もう、手遅れだ。


 今更何を言っても、鈴は許してはくれない。

 いや、許されてはいけない。それくらい酷いことをして来た、言ってしまった。


 これは、友人を自分勝手に傷つけた戒めだ。

 もう、今までの生活は送れない、送ってはいけない。


 また、大事な友人を傷つけてしまう。

 そんなことはもう、してはいけない。


「どうせ、何を言ってももう遅い。私は、取り返しのつかないことを言ってしまった。今更謝っても、それは許されてはいけない。鈴は、許してしまうかもしれないけれど、それは駄目なことなんだ」


 すべてを諦め、顔を下げてしまった。

 そんな美鈴を見て、カクリは『なら、好きにするがよい』。そう、言いかけた。


 だが、開いた口は、閉じる。

 ここで寄り添わずつっかえ返したとなれば、今の行動が無駄になってしまう。


 そうなればレーツェルには怒られ、明人には馬鹿にされる。

 カクリは、なんとか言葉を選び、美鈴に前を向いてもらうように考えた。


「…………それは、誰が決めたのだ?」


「っ、え?」


 それが、カクリの精一杯の言葉だった。


 突き放す言葉ならいくらでも出て来る。けれど、それでは駄目だとわかっていた。

 それなら、どこに目を向けようと考えた。


 その結果、カクリはふと疑問が思いつき、問いかけた。


「人間は、言葉を交わさないとお互いに理解できないのではないかい? だが、私が知る限りではあるが、君達は会話を交わしていない。だから、先ほど君が放った言葉は、ただの決めつけ。違うかい?」


 カクリに確信を突かれ、美鈴は言葉を詰まらせる。

 口を開かなくなってしまった美鈴に、カクリは肩を落とした。


「――――君はまた、目を逸らすのかい?」


 心臓が、跳びあがった。

 ゆっくりと顔を上げると、カクリが見下ろしてきた。


 漆黒の大きな瞳が、美鈴を捕らえる。

 そんな時、映像が砂嵐となり、画面が切り替わった。


ここまで読んで下さりありがとうございます!

出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!


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よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ

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