第十九話 本当の友人
光に目が慣れ始め、ゆっくりと目を開けると目の前に広がる光景に言葉を失った。
「な、これって、教室……内?」
目の前に広がっているのは、自分の教室だった。
中からではなく、外から覗いているような光景。そのため、自分も教室にいる。
窓側の席で、一人で過ごしている。
机に覆いかぶさっているところを見ると、絵を描いているのだろうとすぐに分かった。
対照的に、鈴は友達と楽しそうに話していた。
頬を染めて、笑っている。その姿を見るだけで、苦しくて辛い。
遊んでいる鈴に、学校でも努力を欠かしていない美鈴が負けるなんてありえない。
努力は裏切らない。そのはずなのに今は、完全に色々と負けている。
イラストだけではなく、人間関係も何もかもが違い過ぎる。
教室内を眺めていると、腹の底から憎悪が湧き上がる。
喚き散らしたい衝動を拳を握り抑え、歯を強く噛みしめていた。
冷静さが失われていく美鈴を横目で見ていたカクリは、視線をスクリーンのように映されている光景へと戻した。
「よく、耳を澄ませてみるのだ」
「はぁ? 耳を澄ませる?」
怒り心頭の美鈴は、カクリの言葉を冷静に受け取れない。
勢いのままにカクリの胸ぐらを掴み上げ、睨みつけた。
「あんたが何をしたいのかわからないけれど、悪趣味すぎるんじゃない!? 最低、人をあざ笑うのがあんたたちのやることだったんだね」
自分の話を聞いたカクリに、この光景を見られてしまったら馬鹿にされる。
学校の休憩時間だけではなく、空き時間は全て絵に注いできた。
それなのに、遊んでいる鈴に画力が負けている。
本当は努力していない。または、努力しても意味ない。
そう言われてしまう。口に出さなくても、そう思われてしまう。
今までの努力が無駄になる。
そんな現実を突きつけられたくない。
逃げ道が、惨めにも大声を出して自分より小さい子供に怒鳴りつけることだった。
そんな美鈴の心境を察し、カクリは目を離さず、表情も変えずに口を開いた。
「嘲笑ってなどいないが?」
「口に出していないだけで、どうせ心の中では笑っているのでしょう!? 私を馬鹿にして楽しんでいるのでしょう!?」
「それは、自分は周りから馬鹿にされる生活をしていると、自分で認めている言葉になると思うのだが、いいのかい?」
カクリは、本当に美鈴のことをなんとも思っていなかった。
それは、理解が出来ないからではなく、興味がないから。
この人間が何を思っていても、なんと周りに言われようとも、カクリには関係ない。
美鈴に興味のないカクリは、なぜ彼女がここまで怒りを露わにしているのかわからない。
そのため、美鈴の言葉を言葉のままに受け取り、カクリは返答していた。
不思議に思ったことを、問いかけていた。
何も含みのない、純粋な質問。
淡々としており、表情も変わらない。
だから、美鈴も徐々に昂っていた怒りが収まってきた。
「ち、違うの、私は……」
「なら、耳を澄ませると良い。落ち着いたのなら」
カクリの言葉に、やっと掴んでいた胸ぐらを離す。
顔を上げ、耳を澄ませる為に目を閉じた。
すると、ガヤガヤと、先ほどまで聞こえなかった教室内の音が聞こえ始め、思わず目を開けた。
さっきまでは確実に聞こえなかった、いつもの音。人の、話し声に困惑する。
「音が……」
「声に集中するのだ。余計な音ではなく、人の声に」
カクリに言われ、再度教室を見る。
目を閉じ、声に集中した。すると、一人の声が鮮明に聞こえ始めた。
『ねぇ! これ見てよ! 本当に綺麗でしょ!』
『これって、鈴が描いたの?』
『違うよ! 美鈴が描いたの! SNSに上げているのを必ず見るようにしているんだ』
『本当に佐々木さんのこと大好きだよねぇ、鈴って』
『うん! 私、美鈴の絵、本当に好き。だから、頑張れる。好きな人が頑張っているんだから、私も後れを取らないように頑張らないとってなるの!』
――――えっ。
言葉を失った。
自分の耳を、疑った。
それくらい、信じられなかった。
「い、今の、声って……」
今、聞こえた声は、確実に鈴だった。
鈴が、友達と話している会話の内容だった。
信じられず、口が震える。
動揺していると、教室内を映していた映像が砂嵐になり消えた。
次に映り出したのは、見覚えのある部屋に見覚えのある後ろ姿だった。
「これって、鈴の部屋?」
何度か行ったことがある、鈴の部屋が映し出された。
今は電気を付けている為、夜だとわかる。
パジャマを着ており、髪は邪魔にならないようにバンドで前髪と共に上げていた。
机には、液タブとパソコンのモニター。
他にも、いくつもの資料が積み上がっていた。
本を立てる台を使い、資料を見ながら絵を描いていた。
真剣に、何度も何度も描き直している。
何度も何度も。納得のできる絵が完成するまでただひたすらに描き続けていた。
その目は、真っ直ぐ絵だけを見ている。
絵と真剣に向き合っている。
へらへら笑っている、いつも見ていた鈴の姿は、どこにもない。
気が逸れそうな物も近くに置かれておらず、一点に集中している。
ふと、美鈴は机の上に置かれている時計を見て驚いた。
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