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第十四話 言い合い

 玄関に辿り着いた美鈴は、下駄箱から靴を取り出し、履き替えた。


「美鈴!!」


 外に出ようとした瞬間、後ろから大きな声で名前を呼ばれ足を止めた。


 だが、すぐに何事もなかったかのように学校を出ようと、再度歩き出す。

 止まる気配を見せない美鈴に、鈴は手を伸ばし止めた。


「美鈴、どうしたの。最近の美鈴、変だよ」


 無視され続け、鈴も心がずたずたに引き裂かれる想いで生活をしていた。


 今以上に嫌われたくない、今以上に距離を取られたくない。

 だから、我慢していた。


 けれど、今の美鈴をほおっておくことは、鈴には出来なかった。


 今の美鈴は、死んでしまいそうな程に衰弱している。

 もう二度と会えなくなってしまうかもしれない。


 それだけは、絶対に嫌だった。


 今以上に嫌われてもいい、今以上に距離を取られてもいい。


 だけれど、目の前から居なくなるのだけは、許さない。


 そんな鈴の気持ちに気づかない美鈴は、何も話さない。


 今までの怖かった日々、醜い自分を思い出し、湧き上がる様々な感情を押さえつけるように下唇を噛んだ。


 絵を描く以外に、楽しいことはない。

 そのため、柊から受ける仕打ちのストレスのはけ口が無く、心に溜まっていた。


 誰かに相談したくても、柊は学校の高根の花だ。

 そんな人物が自分に嫌がらせをしてると言っても、ひがみだと思われて終わる。


 鈴にも、相談は出来なかった。

 口にしてしまえば、自分が負けを認めたような気がするため、できなかった。


 そんなことを考えているうちに誰にも相談できなくなり、ストレスは溜まるばかり。

 発散方法もなく、耐えるしか出来なかった。


 だが、今回の出来事で、今までギリギリ伸びていた糸がプツンと切れた。


「別に、なんでもないよ」


「なんでもないは、ないでしょ? そんな恰好で外に出ようとするなんて、ただ事じゃないよ。いや、ただ事じゃない事態が起きていたんだけどさ」


 鈴は腕を引き、美鈴を無理やり振り向かせた。


 目を合わせようとしたが、どこを見ているのかわからない仄暗い瞳を目の前に、鈴は気後れしてしまった。


「っ。……ねぇ、本当に何があったの? 私に聞かせてくれない? 美鈴の力になりたいの」


「とも、だち……」


 ほんの少しだけ目線が合う。

 そのことに喜び、笑みを浮かべた。


「そう! 友達! 私達は友達でしょ? だから、悩みを聞かせてよ。一緒に乗り越えよう?」


 目を合わせるように聞くと急に、美鈴の表情が豹変した。


 顔を赤くし、自分の腕を掴む鈴の手首を掴み返した。


 痛みで顔を歪め、鈴は思わず手を払ってしまった。

 手首を見ると、赤く跡が残っている。


 恐怖に慄きながら、鈴は距離を取り美鈴を見た。


「美鈴……?」


「口先ばかり、適当なことを言わないでよ!!」


 今まで聞いたことがないほどに大きな声量で叫ぶ美鈴に、鈴は驚き声が出ない。


「どうせ口先ばかりで、友達だのなんだのと言っているんでしょ!? 自分を引き立たせるために私みたいな根暗を隣に置いていたんでしょ!?」


 甲高い声が誰もいない廊下に響く。

 驚きすぎて何も言えない鈴は、目を見開き口をわなわなと震わせた。


「わかってたよ!! 私みたいな話すのが下手な奴と友達になりたい人がいる訳はないって! 貴方は、自分を引き立たせる為に私を利用したんでしょ!?」


「ち、ちがっ――」


「でも、それが分かったとしても、私は良かった。それなら、私も利用すればいいと思ったから」


 腕をダランと落とし、天井を見上げた。


「私と貴方では、絵の苦手なところ、得意なところが違っていたから。貴方の得意を利用すればいいと思った。けど――……」


 そこで一度、言葉を止める。

 すぐに息を吸い込み、続けた。


「貴方はどんどん上手くなる。苦手も克服して、今では私より上手く絵を描いている」


「そ、そんなこと……」


「でも、私はうまく描けない。今以上に、上手く描けないの。どんどん鈴とは実力が離れて……。私の方が教える立場だったのに、教えられる側になってさ。私がどれだけ悔しかったかわかる!?」


 美鈴の悲痛の叫びが、廊下に響く。

 友からの心の叫びが、鈴の心を大きく揺さぶった。


「私の方が先に絵を描いていた!! 私の方が上手かった!! 私の方が努力した!! 私の方が絵に本気で向き合っていた!」


 頭をガシガシと掻き、髪はぐしゃぐしゃ。

 涙は出ていないが、まるで泣き叫んでるかのように美鈴は叫び続けた。


「なのに!! なんでいつも友達と遊んでいるお前が私より上手くなるのよ!! なんで、へらへらと笑っているあんたが、血が滲むような努力をしている私より上手になるのよ!!」


「待ってよ、落ち着いてよ美鈴。話し合おう」


「うるさい!!!」


 肩で息をし、髪で隠れてしまった顔を鈴へと向けた。


「なんで私ばかり、惨めな思いをしなければならないの。なんで、私ばかりがあんな仕打ちを受けなければならないの。なんで私が、柊先輩に――……」


「えっ、柊先輩?」


 そこでなぜ柊の名前が出たのか、鈴にはすぐわからなかった。

 聞くと、美鈴は呼吸を整えながら答えた。


「柊先輩、私に嫌がらせしてきていたの。コンテストを辞退しろとか、筆を折れとか。さんざん言われてきた」


 少し落ち着きを取り戻した美鈴は、淡々と話した。

 その内容は驚愕するものだったため、鈴は目を開き固まった。


「な、なんでそんなこと……。言ってくれれば……」


「行ったところで、どうせ私みたいな根暗の言葉に耳は傾けなかったでしょ。柊先輩は、この学校の高根の花、みんなの憧れ。そんな人が、人に嫌がらせをするなんて思える? 根暗な私が一人、何か言ったところでどうせもみ消されて終わりだよ。逆に批判を受けて、今までより酷い目に遭うようになる。誰も、私を信じない。だから、言わなかった。あんたみたいな、偽物の友達にもね」


 美鈴の言葉で鈴は、もう何も言えなくなった。


 最後の、偽物の友達。その言葉が、鈴の頭の中を反芻する。


 何も言わなくなった鈴を見て、美鈴は学校の外へと走り出した。

 自然と、鈴は美鈴に手を伸ばす。けれど、先ほどのようには掴めない。


 足が、動かない。離れていく美鈴の背中を見ているしかできない。


「…………違う、違うよ。嫌だ、行かないで、美鈴。私の、本当の友達――……」


 それだけを呟くと、後ろから足音が聞こえ始めた。


 階段から現れたのは、美術部の顧問と、数人の生徒。


 立ち尽くしている鈴に駆け寄り「どうしましたか!?」と問いかけるが、鈴は一点を見つめるのみで何も言わない。


 そんな時、場違いな人物が鈴の頭をよぎった。

 その人物は、噂の小屋にいた青年、筐鍵明人。


 今の今まで忘れていたのに何故か今、鮮明に思い出せた。


 まるで招かれているように感じ、逆らってはいけないと脳が言っていた。


 鈴は顧問の言葉に耳を傾けることはなく、上靴のまま学校の外へと飛び出した。


 顧問が止めるが、走り出した鈴は止まらない。


「あそこだ。美鈴は絶対に、あの小屋に招かれたんだ」


 早く行かないと、取り返しのつかない事態となる。


 頭から警告を受け、夕暮れが照らす通学路を走り、事件が起こった森林公園へと向かった。


ここまで読んで下さりありがとうございます!

出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!


出来れば☆やブクマなどを頂けるとモチベにつながります。もし、少しでも面白いと思ってくださったらぜひ、御気軽にポチッとして頂けると嬉しいです!


よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ

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