第十話 疲労感
電話口で言った通り、三十分前後かかって、森林公園に辿り着いた。
公園に入ると、ブランコに座って友達と話している鈴を見つけた。
彼女も美鈴に気づき、笑顔で手を振った。
土曜日のはずだが、公園にはあまり子供の姿はない。
だから、ブランコに座って待っていたんだと周りを見ながら、なんとなく思った。
「来てくれてありがとー! 来ないかなと思っていたから安心したよ~」
美鈴の手を掴み、お礼を言う鈴は、今の美鈴からしたらわざとらしく感じてしまう。
そんな彼女の後ろでは、よく鈴とクラスで話している友達二人が呆れた表情を浮かべていた。
「ねぇ、感動の再開はここまでにしてさ。それで、小屋の噂って本当なの?」
感動の再開ではないと、美鈴は口から出るところだったが、何とか抑えた。
友達からの問いかけに、鈴は振り返り鼻を鳴らし、なぜか胸を張りながら美鈴の肩に腕を回した。
「へっへーん! 美鈴が来たらこっちのものだよ! ねっ!! 証言をお願いします!」
ふざけ合っているのがまるわかり。
なぜ、こんなことに巻き込まれなければならないのだろうと思いながらも、会話を繋げた。
「証言と言っても、鈴が言ったまんましか言えないと思うよ?」
「いいの! 打合せしていないのに同じことを言ったら、それが証言になるんだからさ!」
そんなんでいいのかと、奥にいる二人をチラッと見るけど、信じていないと言うように鼻で笑っている。
言葉だけでは信じられない噂だし、その反応も仕方がない。
ため息を吐きながらも、美鈴は林の中の小屋について説明した。
「―――そして、中にいた男性の名前は筐鍵明人。願いは叶えられないと言っていたから、そのまま帰されてしまったの」
見たままに何も隠さずに伝えると、ほぼ鈴と同じ内容だったようで、少し二人は驚いていた。
その反応に、鈴はにんまりと笑う。
「ねっ、ね! 私は嘘を言っていないの! 信じてくれた!?」
目を輝かせ二人に言う鈴を見て、美鈴は思わず苦笑いを浮かべた。
「でも、実際、今日はどんなに奥に行っても小屋は出てこなかったでしょ? なんとなくまだ信じられないといいますか……」
「き、今日は調子が悪かっただけだよきっと! また日を改めれば小屋は現れる!」
なぜか鈴が鼻を鳴らし、威張っている。
もう、空気と化している美鈴は、このまま何事もなく帰ろうとする。だが、鈴が美鈴の肩を掴み引き寄せた。
「ねぇ、せっかくここまで来てくれたわけだし、これからカフェかどこかで遊んでから帰らない?」
「おっ、いいね。せっかくここまで来たわけだし、近くのおすすめ飲食店を探すね、人数は四人でいいんよね?」
「うん、美鈴も来るよね?」
『来るよね?』と聞いているにも関わらず、ここで美鈴が断るとは思っていないような鈴の表情に、美鈴は首を横に振ることは出来ない。
本当は嫌だったが、この場の空気を悪くするのも嫌だった美鈴は、苦笑いを浮かべながらも小さく頷いた。
※
やっと家に帰れたのは、夜の七時。
カフェで三人、たくさん話した後、なぜかゲームセンターとか、食べ歩きに付き合わされた。
断れずにずっと一緒にいた美鈴は、明るい空気感や、運動不足の体に疲労感が襲い掛かり、深いため息を吐きながら玄関の扉を開いた。
「ただいま」
「お帰りなさい。お休みだったのにこんな時間まで出かけるなんて珍しいわね。どこに行っていたの?」
家に帰ると、リビングから顔を覗かせたのは、白いエプロンを身に付けている母親だった。
こんな時間に帰る娘を心配し、駆け寄る。
「友達と遊んでいたの」
「友達ってことは、鈴ちゃんかな? 絵の友達が出来て、本当に良かったわね」
「う、うん……」
物心ついた時から絵を描いていた美鈴は、幼稚園や小学校、中学校でも絵を描き続けていた。
周りは友達と外で遊んだり、駆け回っていたのだが、美鈴は一人でずっと絵を描いていた。
幼稚園にいた時は、先生に「外で友達と遊ばないの?」などと、友達と関わる機会を与えてくれていたのだが、それをすべて美鈴は拒否。狂ったように絵を描き続けていた。
描いている物に興味を持って近寄ってくれた子もいたが、人との会話が苦手な美鈴は上手く話せず、首を傾げながらすぐに去ってしまう。
中学の時は、美術部に入っていたが、周りは適当に部活に参加している人が多く煩わしく、好んで一人になっていた。
そんなことを続けていたら、今は鈴以外に友達がいない状態となっていた。
だからなのか、母親は友達と遊ぶ美鈴を見て、少し嬉しそうに微笑んだ。
けれど、帰ってきた美鈴の様子を見て、眉を下げてしまう。
「どうしたの? 鈴ちゃんと喧嘩でもした?」
「え、なんで?」
美鈴は普通を装っていたつもりなのだが、急にそんなことを聞かれてしまい、思わず聞き返してしまった。
「なんだか、疲れているというか、悲しそうに感じるの。なにかあったの?」
そう聞かれても、美鈴は今回のことを話す気はなかった。
「なんでもない」と言い、母親の横を通り、自室へと戻る。
階段を上る美鈴を見て、母親は眉を下げ、首を傾げた。
言いたくないことをしつこく聞くと、今以上に意固地になってしまう。
今は、そっとしておいた方がいいと思った母親は、リビングへと戻った。
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