第8話 「早くもピンチ」
俺は今、狼と対峙しているが、どうやら一匹だけのようだ。
養成所にいる間に、世界に存在するだいたいの魔物についての知識は得た。
この白く美しい毛並みの狼は、ホワイトウルフという魔物だ。
こいつ自体は弱いので脅威ではないが、上位種のキングウルフというやつは、
超界級の冒険者がなんとか倒せるレベルのまあまあ強い魔物だ。
とりあえず、訓練の成果を発揮しようじゃないか。
俺は鞘から蒼鬼を抜き、その剣先をホワイトウルフに向けた。
ここは森なので、迂闊に魔術は使えないからな。
「グルゥアア!」
ホワイトウルフが俺に向かって突っ込んでくる。
だが、俺は剣先を向けたまま動かない。
俺が養成所で学んだ剣術は、相手の技を受け流しての反撃に特化した流派だ。
神界八強の一人、セイハクが編み出したことにより、静白流というらしい。
この剣術は相手の技の威力を利用してより強力な技を打ち込むので、こいつみたいに
突っ込んでくるタイプには有利だ。
「グラアァ!」
ホワイトウルフが俺に向かって飛び上がってくる。
あと少しで俺の間合い。
あと数歩。
二歩。
一歩。
ここだ!
「静白流 一界 時雨!!」
俺は半歩下がり、俺の攻撃だけが当たるように距離を取った。
ホワイトウルフの牙は俺に届かず、奴は今、空中に浮いている。
俺は蒼鬼を真横に軽く振った。
ズバッ!
「ギャン!!」
蒼鬼が突っ込んできたホワイトウルフの腹を掻き切った。
奴の返り血が刀身にかかった瞬間、剣が少し軽く感じた。
これが蒼鬼のチート能力か……!
ホワイトウルフは起き上がらないので、倒せたようだ。
周りも静かになったので、俺は食べ損ねた昼飯を食べて、また歩き始めた。
少し歩くと、森の出口が見えてきた。
やっと森を抜けられるのか、魔物はあのホワイトウルフしかいなかったな。
まあ、ラッキーということで。
森を抜けると、巨石だらけの場所に出た。
地面は砂漠のようで、木は少ない。
西部劇のワンシーンのような風景だ。
ここから後少しで、ローツタウンにつく。
その時、何かが背筋を凍らせた。
「なんだ!?」
一瞬ものすごい気配を感じて、咄嗟に剣を抜いた。
今まで感じたことのない、とてつもない殺気。
と同時に、目の前に巨大な火球が飛んできた。
俺は蒼鬼の刀身の平たい面を使い、上手くガードしようとしたが、
とてもガードしきれない。
火球は蒼鬼に当たって大爆発し、俺ははるか後方に吹っ飛ばされた。
「痛ってえ……」
立ちあがろうとしたが、体が動かない。
おそらく俺は今ので致命傷を負った。
全身が痛くて動かせない。
瞬きひとつした瞬間、目の前に大きな影が近づいてきた。
大きな翼があり、唸っている。
ようやく見えたその顔は、トカゲ……?
よくみると、二足歩行の翼が生えたトカゲだ。
俺が困惑していると、トカゲは殴りかかってきた。
「ガアァ!」
まずい、避けきれない。
俺の夢は、ここで終わるのか?
まだ街にも着けていない。
ごめん、父さん、母さん……。
俺が目を瞑ろうとしたその時、トカゲの体が左に吹っ飛んだ。
いや、正確には何かが吹っ飛ばした。
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