第2話 「赤ちゃん生活」
目覚めると、そこは静かな書庫のような場所だった。
何時間経ったのか分からないが、小さな窓からは綺麗な満月がのぞいている。
俺は床に敷かれたふかふかの毛布の上で横たわっていた。
あの2人のどちらかがここまで俺を運んでくれたのだろう。
それにしても、不定期で眠くなるのはなかなか面倒だな。
そんなことを考えていると、一冊の本に目が留まった。
「火の一界魔術」というタイトルの本だった。
そうだ、魔術!
あの本を読めば、魔術について少しはわかるのではないか。
だが、とても手の届かない場所にある。
どうしたものか。
「だ」
思わず声が出た。
軽くて長い棒があったのだ。
何に使うものかは分からないが、これを使えばあの本を取れそうだ。
俺は棒の先を本の分厚い表紙に引っ掛けた。
前世で習ったテコの原理を使って、グッと力をかけると、見事に本は落ちてきた。
ゴン!
しまった。
「アオト!?」
シェリーがバタバタと音を立てて部屋に入ってきた。
俺を心配してきたようだ。
「アオトどうしたの?
あら?本が落ちてきたのね。もう、ちゃんとしまわないと……」
やめてくれー!
せっかく落としたのに……!
「この棒も危ないわね。
片付けなきゃ」
やらかした。
本だけじゃなく、大事な棒までも取り上げられてしまった。
「アオト、晩ご飯にしましょ。」
シェリーはそう言って俺を抱き上げた。
このままおっさんの待つリビングへ運ばれるのだろう。
魔導書を読むのはお預けだ。
「おお、きたか二人とも」
リビングでは、おっさんが食事の準備を終えて待っていた。
今日のメインディッシュはでっかい焼き魚のようだ。
が、俺はもちろん違う。
おかゆのような赤ちゃん飯だ。
「「いただきます」」
二人が食べ始めた。
「はい、あーん」
シェリーが俺に食べさせてくれる。
うん、味しない。
「美味しい?」
「だあ」
適当に反応しておいた。
俺もその魚見たいな、異世界飯とかを食べたいな。
その後も普通に家族の食事が続いた。
二人の会話を聞いてわかったが、おっさんの名前はアルスというらしい。
いつまでもおっさんは可哀想だから、これからはアルスだ。
「「ごちそうさまでした」」
食事が終わったようだ。
ということは、俺はもう就寝か。
体はさっき綺麗に拭いてもらったようだからな。
アルスは食器の後片付けをしている。
「アオト、今日は大変だったわね。
ぐっすり寝てまた明日元気にあそびましょ」
シェリーが俺を抱き抱えた。
「おやすみ、アオト。
ぐっすり寝るんだぞ」
アルスも声をかけてくれた。
そうだな。
なんだか俺も眠くなってきた。
そのまま俺はシェリーに書庫まで運ばれた。
そしてあの毛布の上に寝かされて、おやすみ という声と、ギーとドアが閉まる音がした。
この世界は前世の世界とあんまり変わらないな……
そんなことを考えて俺は眠りについた。
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