第1話 「始まりの第0歩」
なんだか暖かいし、がやがやしているな。
「ん……」
気がつくと、そこには見知らぬおっさんが立っていた。
「おお、気がついたか……!シェリー、来てくれ!」
ここはどこで、このおっさんは一体誰なんだと考えていると、シェリーと呼ばれた一人の女性が走ってきた。
そしてそのまま俺を抱き上げた。
「心配したのよ……?元気そうでなによりだけど!」
女性は嬉しそうに俺を抱きしめてくれた。
おっさんと女性は夫婦のようだな。
あれ、俺って空から落ちなかったっけ?
なんで生きてるんだ?
「もう……赤ちゃんが空から落ちてきた時は腰が抜けるかと思ったのよ?
通りすがりの魔術師さんが魔法でキャッチしてくれなきゃどうなっていたことか……」
女性が俺の顔をじっと見つめながら苦笑した。
なるほど、そういうことだったのか。
俺はその魔術師さんとやらに命を救われたわけか。
え!?魔術師!?
あのでかい鳥には驚いたが、魔法まで使えるとは……!
ここは本当にファンタジーな世界だな。
とにかく、今度会えたらお礼をしなくてはな。
「ところで、この子に名前はないのか、シェリー」
そうか、俺にはまだ名前がないのか。
できることなら「アオト」にして欲しいが、不可能だろうな。
だが、そういえばこの世界の言語はなぜか理解できるな。
まあ、赤ちゃん言葉で訴えてみるとしようか。
「あおお!あおお!」
俺は回らない舌をフル回転させて頑張ってみた。
が、やはり無理っぽいな。
あおお、にしか聞こえない。
「あら?あおおって言ったかしら?」
惜しい!一文字違うんだ!
「あおお!あおお!」
俺はもう一度頑張った。
頼むぞシェリー!
「あおおは少しおかしな名前になっちゃうわね……
アオトなんてどうかしら?」
まじか!
なんて偶然!
このチャンスを逃すわけにはいかない!
「だあ!だあ!」
俺は精一杯笑顔を作り、嬉しそうにしてみせた。
「あら?この名前が気にいったのかしら?」
「そのようだな。
アオトか、この子によくあっている名前だ」
よっしゃ、この世界でもアオトとして生きていける!
というか、何も気にしていなかったが、俺はちゃんと男らしい。
女だったら、なんかやりにくいからな。
これが思春期というものだ。
「……シェリー、アオトを俺たちで育てないか?
俺たちの家の前に落ちてきたのも何かの縁だと思うんだ」
おっさんが少し考えてから言った。
どうやら彼は俺を育てたいようだ。
俺も、名付け親であるこの二人に育ててもらうのが一番安心できそうだ。
「あら、私はそのつもりだったわよ?
もう名前もアオトに決めちゃったじゃない」
確かにそうだ。
名前だけつけて育児放棄はよろしくない。
「本当か、シェリー!
では、今日から家族が増えるのだな……!」
おっさんは嬉しそうだ。
俺としても行く当てがなかったので、大変ありがたいことだ。
「だああ!」
お礼と言ってはあれだが、二人に俺の赤ちゃんスマイルをプレゼントだ。
「おお、かわいいなあ……!」
「ようこそ我が家へ、アオトちゃん!」
二人は俺にメロメロだ。
とにかく、これからこの家で俺の人生が始まるんだ。
魔法に、生き物に、地形に……
知りたいことは山ほどある。
俺はこの人生で、この世界を自由に冒険するんだ!
そう意気込んだ矢先に、睡魔に襲われた。
どうやら俺の第一歩はもう少し先になりそうだ。
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