2 不良令息の攻略
「まずはオーディアン・エキューから。
彼はいわゆる一匹狼の不良です。
授業に参加しないことが多く、教師に対しては反抗的、生徒に対しても喧嘩腰に接するのが常です。
エキュー家については、ローリック君」
「はい。エキュー侯爵家は代々大臣を輩出する名門で、現当主は内務大臣に任じられておられます。
オーディアンはその息子の四男、つまり侯爵の孫にあたります。
ぶっちゃけすごく裕福なので、たとえ学園を放校されても、お小遣いや相続財産で一生遊んで暮らせると思いますね。だから勉学に熱心になる必要がない」
「アドラータ嬢に近づくようになった経緯を、ノーティム君」
「はい。先ほども言いました通り、彼女が大変な美少女であるというのは入学早々に話題になっていました。それで冷やかしというか、見物に行ったみたいです。
アドラータ嬢はまだ13歳です。中央の社交に出ていないこともあって、エキュー家の者に対して気後れすることがありません。
社交的な性格もあって、あのオーディアン君に対してもずけずけ物を言ったそうで、そこが気に入られたようです」
「いわゆる『おもしれー女』ってやつですね、分かります」
カルキアがうんうんとうなずいた。
「つい先日も、オーディアン君は何か別の騒動を起こして停学処分を受けていたはずですが」
「それについても僕から」
ノーティムが挙手した。
「彼は以前から、寮をときおり抜け出しては繁華街に繰り出していたのですが」
「何という不良なの!」
「そこである夜、雨に打たれた子猫を発見して寮に連れ帰り」
「不良という設定はどこに行った」
「こっそり自室で飼っていたところ、寮から猫の鳴き声がするということで」
「そりゃそうなりますよね」
「寮監が皆を集めて『この中にこっそり猫を飼っている者がいる!』と言ったところ、オーディアンが『俺はクローゼットでこっそり子猫なんか飼っていねえよ!』と反抗的に叫んで自爆」
「馬鹿なの? ねえ馬鹿なの?」
「そこは疑問じゃなくて断定でいいと思う」
「寮監は怒るよりも先に『自分は奴をこんな馬鹿に育てた覚えはない』と愕然として」
「実際育ててないだろう」
「とりあえず子猫は没収して、寮監が育てているそうです」
「さりげなく役得だな寮監」
「うらやましい」
あちこちに合いの手が入ったが、事情は明らかになった。
「これは極めて有意義な情報です」
マオロが眼鏡の位置を直しながら言う。
「おかげで思いつきました。
彼をアドラータ嬢から引き離す方法。
それは──」
一同が彼を注視する。
「馬です」
「「は??」」
突然何を言い出すのかこの人は。
一同は、そんな目でマオロを見た。
「まずは僕が彼に働きかけます。上手くいけば、後ほど皆さんにフォローをお願いします」
放課後、人気のない中庭で、マオロとオーディアンが対峙していた。
オーディアン・エキューは、貴族的な甘い顔立ちと野生的な鋭い眼差しを持つ美男子だった。
適度に乱した薄い金髪。制服ではない、絹の白地に白銀の糸で刺繍を施したシャツ。ジャケットのボタンは半貴石のそれに交換している。
端的に言って、お洒落に気を遣うタイプの不良だった。
「やはり来ましたね」
「生徒会長さま直々に、あの猫のことを言われてはな。俺に何の用なんだよ」
「君が寮でこっそり飼っていたという子猫のことです。
今は一時的に寮監が飼っていますが、いつまでもとはいきません。手放す時が来る」
「なんだと!?」
オーディアンが、凶悪に眇めていた目をカッと見開く。
「俺のアルバスをどうするつもりなんだ!
まさか捨てるとか言い出すんじゃねぇだろうな!?
そうなったらタダじゃ済まさねぇぞ!」
「僕たちも、そこまで冷酷な人間ではありません。
アルバスくんを」
「アルバスはメスだ」
「アルバスちゃんを馬術部の厩舎で飼ってもらおうと思っています」
オーディアンが困惑した。
「……へっ? 馬術部?」
「知っているかもしれませんが、厩舎というものはネズミが繁殖しやすい。退治のためには、猫はいくらいても構いません。
そこでアルバスちゃんの出番です。
厩舎でなら、彼女を合法的に飼えます。しかも馬術部に入れば、馬の世話をしつつ存分にアルバスちゃんと戯れることが可能。
どうです?」
次の日。
「オーディアン・エキューが馬術部に入部しました!」
生徒会室に駆け込んできたノーティムが、興奮した面持ちで叫んだ。
「本当に入部したんだ」
「チョロいな……」
皆が騒ぐ中、マオロは驚いた風もなく眼鏡をクイッと押し上げた。
「彼は名門エキュー家の一員。しかも第一学園に入学できるほどの学力もあります。
ですが上に3人も兄がいれば、せっかく能力があっても、期待されることも目を向けられることもない。
さりとてコントラ熱で兄君たちが亡くなる可能性がありますから、スペアとして留め置かれ、素行が悪くとも放逐されることもない。
彼が求めるものは、彼個人が評価されること。
動物はいい。手間と愛情をかけてあげれば必ず応えてくれます。意外に性分に合っているのではないでしょうか」
「とりあえず部活動や馬の世話がありますから、これでアドラータ嬢に近づくことも減りますね」
ローリックは安堵の声を上げるが、スクルーブが疑わしげに眉を寄せる。
「だけど運動部の練習は厳しいぞ? すぐに根を上げて退部するんじゃないか?」
「その恐れはあります。
そこでお願いがあります、カルキア嬢」
「はい?」
カルキアがマオロを見た。
「オーディアン・エキューのいるところで、女子同士で噂話をして欲しいのです。
『オーディアン君が馬術部に入ったらしい』
『彼はとても美男子だから、馬に乗るところはさぞかし格好いいに違いない』
『オーディアン君が馬を乗りこなすところが見たいなあ。きっとファンになっちゃう』
こんな内容で。
ああ、本人に面と向かって言うのではなく、彼に気づかずに偶然話題にした風を装って下さい」
女子の台詞の部分は棒読みで、次なる策を授けた。
「すげえ……なんという策士……」
「それ絶対調子に乗って部活続けるやつ……」
もはや役員たちは感心を通り越してドン引きである。
「あ、分かりました……。可愛い子に心当たりがあるんで、頼んでみます」
「オーディアンはいつも、教職員宿舎近くの中庭の茂みで昼寝していますから、そこで噂をすればいいでしょう。あとで案内します」
その後、オーディアン・エキューは王立第一学園が誇る馬術部のエースとなるのだが、それはまた別の話である。
ざっくり登場人物一覧
マオロ・ペルフェクティ
『完璧令息』と呼ばれる生徒会長。眼鏡。策士。
オーディアン・エキュー
チャラいイケメン不良。
「共に歩む」「共に闘う」などを意味するラテン語audeamusと、馬を意味するラテン語equusから。
アルバス
繁華街で雨に打たれていた子猫。とてもかわいい。
白を意味するラテン語albumから。
名前からして多分白猫だが、登場しません。
ノーティム
生徒会役員。学園の事情通。
カルキア
生徒会役員。ツッコミ担当女子。
ローリック
生徒会役員。貴族の家系に詳しい。