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11 生徒会役員たちの推理

「アドラータ嬢が、何者かに剃刀を送りつけられたという噂は聞いている。

 そのことか?」


「そう」


 ローリックがうなずく。


 エクエスが話を続ける。


「アドラータ嬢は門限直前の8時ごろに郵便受けを見ているが、その時に手紙はなかった。

 だがその翌日の朝7時ごろ、起床直後に見た時には手紙が投函されていた」


「詳しいな」


「誰かがくだらん脅しをかけてきたということで、アドラータ嬢が息巻いて、あちこちにこの話をしているらしい。

 だいぶ噂になっている」


「確かに口止めはしなかったけど……。積極的に話すんだ……」


 役員たちは頭を抱えている。


「噂によると、封筒と便箋は学内で売られているものだった。

 封筒にはラウルスと署名があり、中に剃刀の刃と白紙の便箋が入っていたそうだ」


「「…………」」


「寮は、門限時から朝の起床時間まで鍵が掛けられていて外に出られない。

 また、アドラータ嬢と同じ寮の者も、その時間帯に郵便受けに投函することは出来ない。

 投函口は寮の外にしかなく、寮内の取り出し口には鍵が掛かっていてアドラータ嬢本人にしか開けられないからな。

 つまり犯人は、夜に寮から抜け出して手紙を入れたか、朝一番にアドラータ嬢よりも早く投函したかということになる」


 エクエスの言葉に、役員たちもうなずいた。


「そうだ、僕たちもそのように考えている」


 言って、ローリックがオーディアンを見た。


「オーディアン、君に聞きたいことがあったんだ。

 君は一時期、夜にこっそり外に出ていただろう。

 一体どうやって寮を脱走したんだ?」


「ああ、あれか。

 寮の窓の外って、目隠しのためか背の高い木がずらっと植えてあるだろう? 結構近い上に、太い枝が窓ギリギリまで迫ってきてるんだよ。

 それを伝って木を降りて外に出てた」


 ローリックがうなずいた。


 何となく、彼が仕切る流れになっている。


「ああ、なるほど……。じゃあ犯人は男子か」


 カルキアも言う。


「でも、女子寮の窓際にも木が植えてあって、太い枝が伸びているわ。条件は一緒よ」


「女子じゃ木の登り降りはできないだろう」


 ローリックの言葉に、エクエスが異を唱える。


「それは分からんぞ。

 女子も乗馬やダンスの授業で、それなりに体力はある。

 マナーの一環として姿勢を良くするから、体幹が鍛えられてバランス感覚もいい。

 できないとは言い切れん」


「まあそこは保留かな。男女どちらも可能性はあるが、男子の方が実行しそうではある。

 それか、門限ぎりぎりか早朝に手紙を入れたかだ」


 オーディアンが口を挟む。


「それも難しいっちゃ難しいかな。

 門限に滑り込む生徒は結構多い。手紙なんか入れてたらそいつらに見られるし、投函のタイミングを計ってたら自分が門限に間に合わない。

 それに朝も、俺たちみたいな早朝部活のある連中がいるんだ。

 人数は少ないけど、そいつらに投函するところを見られる可能性がある」


「うん。

 あの日の夜に、門限に遅れた生徒はいなかった。

 それと、僕らは朝練のある部活動をしている生徒に聞いて回ったんだ。でも、それらしい目撃者はいなかった」


 エクエスがいう。


「朝については、目撃者はまずいまい。

 朝練組は、眠い目をこすりながら遅れんように部活に向かうのだ。

 例え犯人がいたとしても、偶然他の寮の郵便受け周辺を見る奴などいないだろう」


「ええ。でもそれは結果論でしょう?

 犯人は、他の生徒に偶然見られるリスクを考えなかったのかしら?」


「さほど問題にはならんと思うが。

 後ろぐらい真似をするのだ。夜中に窓から出るにせよ、門限前後に投函するにせよ、何かしらのリスクは発生する。

 相応のリスクを犯し、たまたま成功するという賭けに勝った。それだけの話ではないか?」


「まあ、否定はできないわね」


「うーん、犯人像を絞り込むことができないなあ。

 手段から考えても、煮詰まらない」


 ローリックが嘆息した。


 オーディアンが腕を組んで背もたれに寄りかかる。

 

「手段で犯人が分からねえなら、次は動機だ。

 だけど、彼女を恨むような奴がいるか?」


 それは前もって考えていたらしく、エクエスが発言する。


「人のことは言えんが、彼女に惹かれる男は多いだろう。

 ラウルス殿下に遠慮して口説けない男や、そういう男に惚れている女が嫉妬することは、あり得る」


「漠然としてるなあ」


 皆が首をかしげる中、エクエスが続ける。


「まず筆頭に挙げられるのは、ユーティルフェ嬢だ。

 婚約者が彼女にべったりなのだから、面白くはあるまい」


「ええ? あの三つ編み眼鏡令嬢だろ?

 あんな大人しそうな優等生タイプがやらかすか?」


「実際に真面目な方だけれど、三つ編み眼鏡だから潔白だろうというのは、それはそれで変な感じよね」


「「まあ、そう言われると……」」


 カルキアのオーディアンへの突っ込みに、一同は首をかしげながらもうなずく。


「確かに、彼女と話した感じでも、そんな悪いことをする方には思えない。

 ただ、ああいう大人しくて不満を溜め込むタイプは危ない。何かの拍子に爆発すると、何をしでかすか分からない怖さはある」


「会長がいたら手袋ものだな、ノーティム」


 くすりと笑いながら、ローリックが混ぜ返した。


「やめてくれよ! 一般論だよ!」


「分かってるよ。

 だけど、ユーティルフェ嬢がアドラータ嬢に嫉妬すると思うか?」


 全員が一斉にかぶりを振った。


「ない。絶対ない」


「むしろ、殿下につきまとわれている彼女に同情的だった」


「ユーティルフェ嬢犯人説はないな」


 即座に意見が一致した。

 

「他にあやしい人物か……殿下のことが好きだけれど振り向いてもらえなくて、寵愛を受けているアドラータ嬢に嫉妬する女子生徒とか」


「いるのか?

 確かに王子様は容姿端麗なんだけど、意外にモテてないと思う」


「人徳がないんだよ。婚約者もいるし。

 ノーティム、カルキア嬢、ラウルス殿下のことを好きな女生徒って他に聞いたことは?」


 ローリックの質問に、2人はかぶりを振った。


 匿名の投書とラウルスへの聞き取りによって、アラヴィスという女生徒と関係があることは分かっているのだが、部外者であるオーディアンとエクエスの前では言わない。 


「まあそれはそうとして。

 悪いんだけど、怪しいのは君たちもなんだよ。

 以前ラウルス殿下と彼女を取り合っていただろう?

 2人とも部活に入ったから疎遠になったけど、内心は未練があって、彼女を脅して殿下から引き離そうと……とかさ」

 

 悪いと言いつつも、毅然とした言葉で2人に言う。


「俺かよ!

 いや、確かに最初はすごい綺麗な子だなって思ってふらふら近づいたよ。

 でも、喋ってみると、女子というより気の強い弟分みたいな感じだったんだ」


「いやいや、お子ちゃまかよ」


「あの美貌を見て弟って何なんだよ」


 呆れた顔で、役員たちが突っ込む。

 

「お子ちゃまで悪かったな!

 何だろう、もちろん美人だし話をしても楽しい。

 でも、恋愛じゃなかったな。そこまでピタッと嵌まる何かはなかった。

 それに特定の複数の男子と喋ってたら、そりゃ彼女の名誉に傷がつくよな。

 だから、馬術部に入ってからは距離を取ってる」


 うなずいて、ローリックはエクエスの方を向いた。


「エクエスはどうなんだ?」


「馬鹿馬鹿しい。俺はそんな陰湿な手段は取らん。第一アドラータ嬢の方に嫌がらせをしてどうする。

 俺なら正々堂々と恋敵と勝負して打ち負かす」


「つまり、今も好意はあると」


「揚げ足を取るな」


 肩をいからせ、しかし考えにふけるように視線を上げた。

 

「難しい質問だな……。

 確かに美しい少女であるし、性格の強さはそれ以上だ。惹かれる気持ちはある。

 だが聞けばまだ13歳というではないか。俺はてっきり、17か18歳くらいで編入してきたのかと思っていたのだが。子供相手に色恋沙汰もないだろう。

 だからピレトポルタ部に入ったのを機に距離を取り、己の気持ちを見極めんとしているところだ」


「ラウルス殿下は今も付きまとっているけどね」


「恋愛ごっこだろう? 

 繰り返すが、彼女はまだ13歳だ。殿下は浮気にあたらないように、子供相手に恋愛遊戯を仕掛けているだけではないのか」


 実際はラウルスは恋愛遊戯どころではなく、13歳相手に本気の不貞を狙っている。


 しかしそんなことをエクエスに言おうものなら、今度は彼がラウルスに手袋を投げつけかねない。女性に対してはかなり紳士的な男なのだ。


 役員一同は素早く目配せを交わし、エクエスの発言に逆らわないことにした。


「そうかもね。

 2人とも、個人的な心情に立ち入る質問をしてすまなかった。答えてくれてありがとう、感謝する」


 ローリックの謝罪に、オーディアンはひらひらと手を振り、エクエスは重々しくうなずいた。


「いいってことよ」


「必要なことだったのだろう? ならば構わん」


「……不躾(ぶしつけ)な言い方だけど、2人とも性格が丸くなったな」


 スクルーブが、改めてまじまじと2人を見た。


「あー確かに。

 でも、今は昔ほど腹が立たないんだよな。猫ちゃんたちとお馬さんたちが俺を待ってくれてるからかな」


「その気持ちは分からんでもないぞ、オーディアン。

 俺も、1人で何でも出来ると思っていた。それは今でもそう思っている。

 だが、上には上がいる。集団で連携しなければ得られない勝利もある。

 犯人の特定という目的のために、関係者が皆で協力しあうのは当然のことだ」


「2人とも……」


「よくぞ、そこまで成長した……」


 常識を得ようとしている2人。二馬鹿の称号が消える日も近そうだ。


 生徒会役員一同は、よちよち歩きを始めた初孫を見る祖父母の眼差しで、感慨深く2人を見つめた。


「真剣に凄いぞ部活動」


「会長も凄かった。この2人に部活をさせれば落ち着くと判断したんだ。その通りだった」


「会長……」


 カルキアが、しんみりした声でつぶやいた。

 

「本当に大丈夫なのかしら……」


「それは……」


 他の役員たちも、不安な顔を見合わせる。


「「…………」」


 しばらく沈黙が落ちる。


 と、突然、ローリックが口元を引き締め、顔を上げてぱんと手を打った。


 皆の目がそちらに向く。


「みんな!

 僕たちは今までずっと、会長におんぶに抱っこだった。何でも出来るあの人に頼りっぱなしだった。

 だけど、今ここに会長はいない。問題は僕たちだけで解決するしかないんだ」


 強い口調で続ける。


「だから謹慎中の会長が心配なさらないように、生徒会の業務は全て僕たちで片付ける。冬至祭の準備も。この嫌がらせの問題も。

 あの人に格好悪いところは見せられない。

 顔を上げてくれ。僕たち役員だけでも仕事ができるんだってところを見せるんだ。

 そして会長が戻ってこられたら、あれは僕たちで解決しておきましたって報告しよう」


 その言葉に、他の役員たちの背筋も伸びる。


「……そう、そうよね。私たちがしっかりしなくちゃ」


「ああ。落ち込んでいる場合じゃない」


 互いにうなずき合った。


「よく言ったローリック! その意気だ!」


 エクエスが莞爾(かんじ)と笑う。


「奴には貸しがある。

 一度受けた敗北を倍にして返してやらねば、このエクエス・フォルケスの名がすたる。

 その時のために、奴には壮健でいてもらわねば困る。

 なに、マオロ・ペルフェクティのことだ。どうせあの取り澄ました顔で、何事もなく登校してくるに違いない」


 オーディアンも、にやりと笑う。


「そうだな。もうじき夏期休暇だから、その後かもしれねえけどな」


「そうだよ。その時まで、僕たちで生徒会の名に恥じないよう業務を執り行う」


「ま、通常の仕事はそうだろうよ。

 だけど嫌がらせの件は厄介だな」


 口を尖らせるオーディアンに、ローリックが笑ってみせる。


「具体的には言えないけれど、アテはある。

 以前、会長が僕たちにヒントをくれたんだ。

 時間はかかるけど、それを元に詰めていく」

そういう事件は生徒じゃなくて教師側が何とかしろよと自分でツッコミ入れちゃう


教師もやってるけど、やっぱり犯人の見当がつかないのでしょう


ざっくりな登場人物一覧


エクエス

 ゲートボ……ピレトポルタ部員のバンカライケメン。

 生徒会役員でもないのに生徒会室で推理に参加している。


オーディアン

 馬術部のチャラ男風イケメン。

 生徒会役員でもないのに以下略。


ローリック

 生徒会役員。小柄な童顔くん。

 会長のマオロが退場してからシャキッとしてる。

 残されたみんなで頑張らないと! キリッ!


その他生徒会役員の皆さん

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