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ヨーグルトと健康維持に関する一考察

作者: よろ研

人間は古来からヨーグルトのような乳酸菌等による発酵食品を活用してきました。これら食品は経験的に健康維持に役立つことがわかっており、世界中で利用され続けています。また近年では「腸活」という言葉が流行し、積極的に発酵食品を摂り腸内環境を改善しようという動きも出ています。さて、ヨーグルト等の発酵食品は健康維持にどう役立っているのでしょうか。また、これら発酵食品はヒトに対して害はないのでしょうか。そのあたりを考察してみました。



ヨーグルト等の「発酵食品」とは


Wikiによれば、「食材を微生物などの作用で発酵させることによって加工した食品」とされ、保存食あるいは風味をよくする目的で世界中で作られ続けてきました。世界最古の発酵食品はワインであろうとされており、その他各種酒類をはじめ、ヨーグルトやチーズ、また日本では納豆や味噌、醤油、ぬか漬け等があり、発酵食品は世界的に利用され続けています。



ヨーグルトの「効能」の例


・整腸作用

ヨーグルトに含まれる乳酸菌やビフィズス菌の働きで、便通を改善するとされています。これら菌類を摂取することで、いわゆる「善玉菌」が産生する酸類が、「悪玉菌」を抑えたり腸の蠕動運動を促進するとされています。また、腸内環境が整うことで下記の免疫力向上をはじめ、肌質の改善等々、様々な効果があるのではとされています。


・免疫力の向上

腸内の細菌叢の改善(腸内環境を整える)ことで、腸管免疫システム(小腸のパイエル板やGALT)を活性化させ免疫力を向上させるとされています。


・コレステロール値の低下

ビフィズス菌および一部の乳酸菌は胆汁酸脱抱合酵素を有しており、「胆汁酸が再吸収されにくい→胆汁酸が消化管外へ排出→肝臓が失われた胆汁酸を補うためコレステロールから胆汁酸合成→コレステロール値低下」というプロセスをとってコレステロール値を低下させるとされています。


・栄養源

発酵食品全般に言えることですが、微生物の働きでタンパク質がアミノ酸に分解されており、うま味を感じるとともに消化吸収されやすい状態になっています。また、ヨーグルトは牛乳(一部豆乳や牛以外の乳もありますが)をベースとしており、もともと高栄養な食品であることに加え、カルシウムやトリプトファンを多く含みますので、骨密度上昇や睡眠の質向上が期待できるとされています。


これらヨーグルトの様々な効能が明らかになってくるにつれ、ヨーグルトを販売する会社は他社商品との差別化の目的もあり、後述の保健機能食品として販売されているものも多くあります。




保健機能食品


「保健機能食品」とは、食品の機能性を表示できる食品のことを指しています。その根拠や承認過程により、以下の3項目に分類されます。



・特定保健用食品

特定保健用食品とは、トクホとも称されていますが、有効性、安全性などの科学的根拠を示して、国の審査のもとに消費者庁の許可を受けた食品のことを指し、許可マークが使用可能です。また、審査で要求している有効性の科学的根拠には満たないものの、一定の有効性が確認される食品を、限定的許可マーク付きで承認されているものもあります(トクホマークに「条件付き」の文言が入る)。


・栄養機能食品

特定の栄養成分の補給のために利用される食品で、栄養成分の機能を表示するものです。要するに、「1日に必要な栄養成分(ビタミン、ミネラルなど)が不足しがちな場合、その補給のために利用できる食品」のことで、一部のサプリメント類ですね。こちらは特定保健用食品とは違い、既に科学的根拠が確認された栄養成分を一定の基準量含んでいれば、栄養成分の機能を表示することができるとされています。


・機能性表示食品

機能性表示食品とは、「国の定めるルールに基づき、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を、販売前に消費者庁長官に届け出れば、機能性を表示することができる制度」です。こちらは特定保健用食品と違い、国の審査がなく、根拠となる論文等をつけて国に届出れば表示が可能となります。




ヨーグルトに「害」はないのか


書籍等で「ヨーグルトの害」を解説したものがいくつかあります。食品である以上、食べすぎや、ある特定の食品に偏った偏食はよくないのは当たり前なのですが、ヨーグルトの害を謳う書籍の多くは乳製品であることを根拠としています。

日本人には乳糖不耐症の方が多いですので、乳製品が体質的に合わない方もいます。そのような方は避けた方がいいでしょう。

また、糖質や脂質が多すぎるとか、ヒトはカゼインが分解できないから体内に蓄積されるとかいろいろと理由が書いてあります。

どの主張も食べ過ぎなければ大丈夫のような気がします。あくまでも食品ですから。


そもそも論として、「害」を謳う記事は、今回の題材であれば「牛乳由来の食品に限る特徴」と「牛乳だけに限らない特徴」を混同しているように思えます(意図的でしょうか)。


カゼインなどは乳製品に特徴的かもしれませんが、牛乳そのものは非常に栄養豊富な食品であり(子牛を育てるためのものですから当然栄養豊富)、栄養過剰は細胞寿命を延長することとなり、がんなどの細胞のエラーを引き起こすのは事実でしょう。ただ、これは卵など、栄養豊富なほかの食品にも当てはまるお話ですので、ごっちゃにして理由付けされても、ちょっともやもやしてしまいます。



ヨーグルトの「健康」への影響は


前述の「害」を謳う書籍や、書籍を参照にしたHPには、「害」だけではなく「益」についても書かれていますが、個人的には首をかしげたくなる点が見受けられます。曰く、「大腸癌を予防する」「腸内細菌を変化させる」等々。


大腸癌を含めたがんの原因の根本的なものは生体側の遺伝子エラーなのですが、栄養過剰や免疫過剰(体内で炎症が継続して起きている状態)はがんを誘発するとされています。たばこや肥満が良くないとされているのはこのためです。


疫学的に見ますと、アフリカ大陸の貧困国の痩せた黒人には大腸癌が極めて稀なのに対し、米国に住む肥満の黒人には世界一大腸癌発生率が高かったとするデータもありますので、肥満もがん予防にとってはよくないのでしょう。


胃癌の原因とされるピロリ菌に対しては、乳酸菌は胃内で競合的に働きピロリ菌を排除するのですが、2020年の理研の報告では乳酸が癌細胞の増殖を助けるとした報告もありますので、一概に乳酸菌ががんに対して有効とは言えないようです。


また、大腸癌の患者さんの糞便をマウス腸内に移植すると大腸ポリープが発生するのに対し、健常人の糞便では何も起こらないことから、腸内細菌ががんに関わっているということは間違いなさそうです。

更に、糞便移植(FMT)で腸内細菌叢そのものを変えてしまう(抗生剤を大量に服用し腸内を無菌化してから移植)と、悪性黒色腫が治ってしまった事例もあり、近年、FMTの研究が盛んにおこなわれています。


このようなことから、ヨーグルトで腸内細菌叢を変えてしまえば健康にいいと短絡的に考えてしまいそうですが、一度形成された腸内細菌叢を人工的に改変するのは難しい(故にFMTでは一度腸内を無菌化する必要がある)とされています。

多分、ある程度の期間であればヨーグルト由来の細菌は腸内に残存できるのだと思われますが、腸内細菌叢をガラッと変えるだけの効果は無いと考えられます。したがって、近年になって許可された特定保健用食品では「腸内環境を改善しおなかの調子を整えます」といった丸めの表現になっているのだと思われます。


結局のところ、ヨーグルトの最大のメリットは吸収しやすい栄養源としての食品であることであり、その他の効果については、場合によってはそれなりにあるという程度でしょうか。


特定保健用食品は、根拠となる論文とその内容についての国の審査がありますし、機能性表示食品も国の審査はないものの論文等の根拠は一応ありますので(この論文はメーカー主体で作っている専門誌掲載のものでも大丈夫そうですので若干信頼性は下がりますが)、効果はあると思われますが、あくまでも食品ですので、医薬品のような効果を期待するのは無理というものです(そんな効果があれば薬になっています)。


したがって、栄養飢餓状態における栄養補給源とした場合の活用や、下痢等で腸内細菌叢がズタズタになった場合の腸内環境の改善には効果はあるものの、十分栄養が満たされた状態でヨーグルトを摂ってもさらに栄養が追加されるだけで、一時的に腸内環境が変化することはあるのでしょうが、そこまで目立った効果は期待できないのではと考えます。栄養過剰は前述の通り、よくない結果を生み出すこともありますので。



最後に


ヨーグルトに思ったほどの効果がないような話ばかりしましたが、私はヨーグルト、大好きです。美味しいし。

食品として楽しんで適量を食べる分にはいいのではと思います。


微生物学者のイリヤ・メチニコフ博士は、長寿者が多いブルガリア地方でヨーグルトが食べられていることから、自らヨーグルトを大量に摂取する食事療法を始めました。でも結局博士は71歳で死亡してしまいます。

博士の研究結果等は有用なものが多く、それを否定するつもりは全くありませんが、人の寿命は様々な要因によって決まってしまうものであり、これをしたから長寿とか、これをしたから健康になるといった単純なものではないと考えています。


幸い、日本にいる私たちは「今日は何を食べようか」と、日々の食事のメニューを選択する余裕があります。ヨーグルトも食材の一つとして楽しんで食事ができればいいのではないかと思います。




駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。



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