2人め.菊池 桃基地郎
そんなにこだわりありません。
※ コロン 先生主催の【菊池祭り】参加作品です
あたしの名前はミリィ・ビリガン。観測者にして、憤怒を司る魔神。だから、この物語の主役はあたしではない。
主役はあたしの出逢った、ひとり減って11人の菊池だ。
お腹が空いていれば、白飯だろうがターメリックライスだろうが。お米の色などは関係なく、カレーライスはおいしいものだよね。
色じゃなくて味? カレーまみれのお米に、そんな繊細な味の違いを求めるくらいなら、ルゥのスパイスのほうにこだわるっての。
「だからよぉ。色にこだわるのはいいンよ。
でも、なんでこだわる色がピンクじゃねえのかってのが。それが、我慢ならねえのよぉ!!」
割れた顎の谷間に、器用にも青スジを立てながら、菊池 桃基地郎はその怒りをスパークさせる。
菊池の両手には、産毛に覆われた、ふたつのピンクの果実。
右手には白桃。左手には黄桃である。
「桃だろう? 桃なんだろうよぉ?!
だったら、白が黄色かなんてガタガタ言ってねえで、どっちがよりピンクかで勝負しろってもんだぜ。
白だの黄色だの、てめえらは蛍光灯かよぉ!?」
顎割れ目から浮き出る青スジが、その深い谷間の彼我を渡す、マディソン郡の橋のようにアーチを描くのを見て。
あたしは左のてのひらを菊池の鼻づらに押し当てたまま、右の人さし指をそこにかけると、楽器の弦をはじくようにして強くひっぱった。
ばべんっ!
菊池の青スジは、エレキベースの一番太い弦のような低い音を鳴らして切れたが、あたしは弦を張り替える気も、予備のベースに持ち替える気もなく。
ステージに叩きつけて破壊するがごとく、菊池の首をつかんでフルスイングした。
あとに遺されたのは、「桃」という名のピンクの皮を被った、白と黄色のふたつの果実。
食べ比べるのか、二色まとめてシロップ漬けにするのか、まだ決めないまま。あたしはそれらを拾いあげる。
あぁ、産毛がキモくも触り心地いい♡
桃太郎も七代目以降は、白桃と黄桃のハイプリッドらしいね。
八代目からは、ショッキングピンクのスモモ太郎にテコ入れされるプランがあったため、内輪揉めをしている場合でもなくなったのが真相とのこと。
外から、見分けつかないや。