1人め.菊池 何太夫
そこ、重要!
※ コロン 先生主催の【菊池祭り】参加作品です
あたしの名前はミリィ・ビリガン。観測者にして、憤怒を司る魔神。だから、この物語の主役はあたしではない。
主役はあたしの出逢った、12人の菊池だ。
「菊池」姓を持った人間の怒りの沸点は平均して36.98℃と、通常人よりも1.29℃低いことが知られているが。
同じ「菊池」姓をしていても、そこは別の人間。怒りの場面も理由も、実にさまざまである。
あたしは、出逢った菊池たちのその怒りを、ここに記すことにした。
ちなみに「菊地」姓のほうの人間は、39.17℃と沸点はかなり高め。
いっしょに食べようと、宅配を頼んだピザのサラミをすべて剥がして。あたしがぜんぶひとりじめしてしまったときも、菊地は怒ろうとしなかった。
「そりゃ、ふざけてんのかって怒ろうってもんでござるよ!!」
額の真ん中、第三の眼があるはずのあたりに青スジを浮かべながら。
菊池 何太夫は怒っていた。
きっかけは、ふたりで入るカレー屋さんを選んでいたこと。
この店のライスは、白飯か黄色いターメリックライスか、あたしが確認しようとしたところ。まずはライスかナンかをさきに確認すべきだろうと、菊池は怒り出したのだった。
ターメリックライスじゃないのなら、白飯だろうがナンだろうがどっちでもよかったあたしに、菊池はなおも怒りをぶつける。
「では汝は、ビーフかポークか、それともチキンか確かめたあとではじめて、ルゥがカレーなのかハヤシなのかを問うつもりでござるか?
はぁん?
カレーライス食べたい欲をなめてんのか。スプーンで目ん玉えぐりだして、かわりにラッキョウ詰めるぞ、コラぁ?!」
浮かぶをとおりこして、屹立の域に達しはじめた、菊池の額の青スジを。ひょいとつまむと、無造作にひきちぎったあたしではあるが、この段階でもうひとつ。
だいじなことに思い当たったのは他でもない、菊池のおかげかもしれなかった。
「つけあわせが、ラッキョウか福神漬けかも重要よね」
ここから少し遠くはなるけれど、先月行ったカレー屋さんは、ラッキョウと福神漬けの、両方の小瓶を出してくれたはず。
あたしは念の為。ひきちぎった血管のした、菊池の額には、秘められた第三の眼が隠されていないことを確認してから。平日モードの水曜日の街を、件のカレー屋さんへと急いだのだった。
ランチタイムの営業中には、まだじゅうぶん間に合うはずだ。
無料で両方とも出してくれるところがあるのです。