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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第六章 ―魔石鉱山―編
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第九十三話 「全てを受け入れて」

「お兄、ちゃん……」

「ライル、アンタ……!」

「――――…………」

「? どうしたんだよ皆?」


 脅威と呼ぶには些細なイベントであったが、こうして盗賊は去った。

 だというのに、どうして皆はそう唖然としているんだ?

 むしろその顔は、俺のことを――


「ライルちゃん、その死体を埋めに行きましょう。ここに置いとく訳にもいかないでしょう?」

「そうですね。あぁ、手も洗わないと」

「二人とも、留守番お願いね」



 ----



「こんなところかしらね」

「すいません、手伝ってもらって」

「良いのよ。……ちょっといいかしら?」

「はい?」

「どうして殺したの? ライルちゃんの実力なら追い払う事は簡単だったはずでしょう?」

「どうしてって……殺しに来た連中を殺し返しただけじゃないですか」


 おかしな事を聞くものだ。

 向こうはこちらを殺してでも物品、果てはルコン達にまで手を出そうとしていた。

 ならばこちらも全力を持って対処するのは当然。

 むしろ他の逃げた連中を見逃しただけでも寛大と言うものだ。


「……少なくとも、数日前までのライルちゃんは進んで殺しをするような子じゃ無かったはずよ。道中の盗賊、鉱山にいた連中にさえ、その拳を全力で振り抜く事に躊躇していたわ。違う?」

「…………違いません」

「ならどうして? 何かあったのならアタシが聞くわよ?」


 どうして? それはさっき――いや違う。

 何故俺は『殺し』を手段として用いる様になった?

 どうして俺はそこに違和感を抱けない?

 起点は……間違い無くギウとの一戦。

 あの暴狂魔(バーサク)にも似た暴走。

 四年前、初めてロデナスで暴走した時とは違う、意識も思考も保っていた。

 ただ、怒りという()()が外れていた。

 そうだ、あれ以来だ。俺が意識下で、前世から培ってきた倫理観で避けていた『殺人』。

 その枷が砕かれたのだ。何に? 決まっている。

 ――『怒り』にだ。

 あぁそうだ。そうとしか考えられない。

 だがなぜだ? それが分かった今もなぜ、俺は()()()を嫌いになれない?


「うっ……ッつ!」

「ライルちゃん!?」

「ハァっ……ハァっ……大、丈夫です……!」

「落ち着いて、深呼吸なさい」


 分かった。分かってしまった。分かりたくなかった。

 俺は――気持ちいいと感じてしまったんだ。

 人に対して、思い切り力を行使したあの瞬間を。

 この手で命を奪ったあの時を。

 皆を、大事な人を守りたいという理由を盾にして、怒りに身を任せて加虐衝動を受け入れた結果だ。


「俺は……俺はいったい何をっ……!!」

「大丈夫よ。大丈夫、貴方は悪くないわ。落ち着いて」

「俺が悪くない……? なら俺のしたことは! ()()()()と同じだって言うんですか!?」


 ギウは言った。怒りに沈みかけていた中でさえ、鮮明に覚えている。


『殺したいから殺すんだ! 人間ってのはそういう生きモノだぜ』


 怒りに支配されていたとはいえ、『殺したいから殺した』という事実は誤魔化せない。

 衝動や欲求に身を任せるのが人間だと? 違う!

 理性で欲を制御してこその人間だ。それでは動物と変わらないではないか!


「ごめんなさいね」


 なぜ謝られたのか分からないまま、右頬がジンと痛んだ。

 軽く頬を叩かれたのだと認識出来たのは二秒程遅れてのことだった。


「少しは落ち着いた?」

「…………すみませんでした。もう大丈夫です」

「さっきは『慣れる』なんて言ったけどね、アタシはそうなるまでにかなり時間がかかったわ。そりゃそうよね、嫌なんだから」

「オー姉は……もう平気なんですか?」

「そうね……少しは、マシになっただけよ」

「あの時……鉱山の住居で見つけた冒険者の死体は知り合いですよね?」

「気づいてたの?」

「そりゃまあ、あの反応は分かりますよ」

「――友人よ。二人ともね。最初に向かった一人を追って、そのままもう一人もね」

「蝙蝠兄弟を殺したいと思わなかったんですか?」

「そりゃ思ったわよ。アタシはそこまでデキた人間じゃないから、憎いとも思えば許せない相手も出来るわ。実際、あの時はルコンちゃん達を守るので必死なだけで、一対一なら殺しにかかってたでしょうね」


 正直に言って、この答えは聞きたくなかった。

 嘘でも建前でもいいから、殺しは良くないと否定して欲しかったのだ。

 でなければ、人を殺した自分が正当化されてしまうのだから。

 いっそのこと強く糾弾して欲しいくらいだった。


「いい、ライルちゃん? 全力で危害を加えようとしてくる相手を無傷で帰す、なんてのは不可能に近いわ。だから(おの)ずと、釣り合う力で対抗する。

 そうして生まれた結果なら、アタシ達はそれを受け入れていくしかないのよ」

「例えそれが、誰かを殺してでもですか?」

「そうよ。人間らしさなんて人それぞれよ。

 ギウがなんて言ったか知らないけど、真に受ける必要は無いわ。

 アタシは、自分が選んだ手段や結果に責任を持つことが人間らしさだと思うの。

 何かを守ると決め動いたなら、その守る何かを。

 誰かを傷つけたなら、その誰かを。

 そうして自分の行動によって生まれた全てに責任を持つのが、理性ある人間だとアタシは思う。

 もちろんこれは持論だから、正しいなんて言わないわ。ただ、そういう考え方もあるのよって話。

 ライルちゃんはライルちゃんらしく、貴方の考えを持って生きればいいのよ」


 自分の行動に責任を持つ……か。

 起きてしまった事はどうしようもない。

 ならば、この先の行動で報いなければならない。

 俺はもう二度、誰かを守る為に人を殺した。

 例えそれが衝動に駆られた結果だとしても、俺は一生その十字架を背負っていかなければならない。

 それならば、俺はこの重さを受け入れて進む。

 さらなる重荷を背負おうとも、ソレすらも受け入れよう。

 それが何かを、大切な誰かを守ることに繋がるなら。


「…………ありがとうございます。ちょっと楽になりました」

「ふふ、おばさんの説教なんて聞きたくなかったでしょうけどね。さ、戻りましょうか。二人が心配しちゃうわ」


 おっさんだろ、なんてツッコまないぞ。

 って考えられる程度には、楽になったかな。







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