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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第六章 ―魔石鉱山―編
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第九十二話 「変化」

 ギウだったモノから拳を引き抜き、ゆっくりとライルは周囲を見渡す。

 炎に照らされるその表情には、笑みも興奮も無く、ただ怒りによる殺意だけが滲んでいた。


「ギ、ウ……」

「次はお前だ」


 ボロボロになったガヴを視界に捉え、一歩、また一歩と歩み寄る。


「やめなさいライルちゃん! もう終わったのよ!」

「どいてください。そいつも殺さないと」

「ふ――ふははははははッ!! ――――ここまでだな」 


 そう言ってガヴはナイフを自身の首筋に当て、躊躇無く頸動脈を掻き切った。


「なッ!? あなた!」

「テメェッ……!!」

「ギウも死んだ今、俺に勝機は無い。残念だったな小僧。俺の死は、俺だけのものだ」

「リメリアちゃん!」

「無理よ! そいつはもう助からない! それよりも――」


 振動と崩落。

 先程のライルの一撃により、空間は軋み徐々にその空間を保てなくなっていた。

 一つ、また一つと天井が崩れ落ちてくる。


「〜〜ッ! 走って! 鉱山を出るわ!」

「分かっ――ライルッ!?」


 当然と言えば当然か。

 鎧の長時間行使に加え、限界を突破した魔力の放出。

 魔力切れによる活動限界だ。

 倒れ込むライルを、すぐさまオーレンバックが鞭を拾って引き寄せる。


「アタシが運ぶわ! リメリアちゃんはルコンちゃんを!」

「あ〜もう! 世話の焼ける兄弟ね!」


 炎を抜け坑道へと走り出す。

 大きな音と共に背後の道は閉ざされ、先程までいた空間への道は完全に途絶えた。

 置いてきたガヴの生死など確認するまでもないと、二人は振り返りもせずにただ出口へと走る。


「ヒュー……ヒュー……ギ、ウ……馬鹿なやつ、だ……」


 血液を失い徐々にモヤがかかる思考の中、これまで共に過ごしてきた弟を想い、恨み言にも近い言葉を吐く。

 奪うことでしか何かを得られなかった兄弟の最期は、奪われて終わる虚しく暗いものであった。


「馬鹿は、おれ、もか……新しい世界、楽しみ、だったんだが……すまんな……スタ――」


 今となっては知る(よし)もないが、蝙蝠兄弟に束縛(ギアス)はかけられていなかった。

 ある種のプロとしての矜持を持つ二人から聞き出すことは可能性としてはあまりにも低いが、それでも少し何かが違っていれば今回の黒幕を聞き出せていたかもしれない。

 そう、蝙蝠兄弟を雇い魔石鉱山を掌握した者の正体を。



 ――――



 瞼が重い……鳥のさえずりが聞こえる……

 土の匂いに囲まれている。知らない天井だ。

 いや、知っている。この旅の間、幾度となく見たリメリアが作り上げた天井だ。

 ゆっくりと身体を起こして辺りを見ても、毛布があるだけで誰もいない。

 外に出ると眩しい光が目に差し込み、思わず手で視界を覆ってしまう。

 鉱山にいた影響か、時間にして一時間といなかった筈だが、随分と久しぶりに感じてしまう。


「あら、起きたのね」

「オー姉、さん……」


 食事の準備だろうか、外ではオー姉が一人で鍋に入れた食材を火にかけていた。

 一人……? 待て、ルコンとリメリアは!?


「ルコンは!? ルコンは無事ですか!?」

「安心なさい。今は二人とも近くの川に行ってるわ」

「あ――良かった……」

「ライルちゃんはあれから丸一日寝ていたの。――覚えてる?」


 記憶が鮮明にフラッシュバックする。

 鮮血を吹き上げるルコンを見て、訳が分からなくなった。

 そこからは黒い衝動に飲まれ、自分が自分じゃ無いように感じられた。

 だが、ハッキリと覚えている。

 自分がしたこと、感じていたこと、圧倒的全能感。

 以前にロデナスで、初めて暴狂魔(バーサク)に陥った時は我を失って身体の制御が効かなかったが、今回は別だ。

 あの時の俺は思考し、自身の意思で動いていた。


「……覚えています」

「そう。人を殺したのは初めてだったわよね?」

「…………はい」


 右手を見つめる。

 きっと寝ている間に綺麗にしてくれたのだろう、血は付いていない。

 確かにこの手で、人を殺した。

 あれだけ躊躇して、あれだけ嫌悪していた筈なのに。

 簡単に、自ら進んで殺したのだ。

 でも何故だろうか。そんな自分自身に、俺は嫌悪感を()()()()


「慣れる、なんてのは良くないことなんだけど、そういう世界よ。少なくとも、あの時貴方が覚醒してなければアタシ達は全滅していたわ。

 貴方は間違ってないしこれだけは言わせて。

 ――ありがとう、助かったわ」


 そう言ってオー姉が優しく微笑んでくれる

 初めて人を殺した俺へ負い目を感じさせない為、なんてことは分かっている。

 その気遣いを嬉しく感じられると同時に、自身への違和感が拭えない。

 なんだろうか、これは……思考と心がリンクしてないような、今までの自分を塗り替えたような感覚は……


「お兄ちゃんッ!!」


 あぁ、聞きたかった声だ。

 振り返った先で、汲んできた水をかなぐり捨ててルコンが走り寄ってくる。

 両手を広げて迎え入れ、軽い身体を大事に抱き留める。


「もう大丈夫なんですか!? 心配したんですよ!」

「心配したのはこっちの台詞だろ。もう平気なのか?」

「傷も無く、ピンピンに完治してるわ。そこのオーレンもね。狐族(ルナル)が特別頑丈な訳じゃないのにね。その子が特別なのかしら……?」


 後ろからリメリアが呆れたような声を出しながら、ルコンが投げ捨てた容器を拾い上げる。

 水汲みが無駄になったと言わんばかりに不服そうだが、俺を見る表情は柔らかで安堵しているのが良く分かる。


「リメリア、ありがとう。身体、治してくれただろ?」

「礼なら要らないわ。私たちはパーティ、治すのが私の役目でしょ。それよりも……アンタ、大丈夫なの?」

「あぁ、()()()だよ」

「ルコンも聞きました……お兄ちゃん、本当に平気ですか?」

「何度も言わせるなって。俺は平気だよルコン」


 左手で優しく頭を撫でてあげる。

 今は俺なんかよりも、ルコンが無事でいてくれたことのほうが何よりも大事だ。

 本当に、本当に良かった……


「ほら、いたぞ」

「へへ、本当だ! 女子供じゃねえか」


 ぞろぞろと五人の男が近寄ってくる。

 盗賊の類か、狙いは食料や金品、それにルコン達だろう。


「おい! 男どもには用は無え。とっとと失せるなら見逃してやるぞ?」

「あらやだ、アタシ男認定?」

「まぁ、そうでしょうね……」

「川から付けられてたわね……ごめん、油断してた」

「良いさ。丁度いい、寝起きの運動がしたかったんだ」


 口実であり事実だ。

 それに、俺が寝ている間は皆が運んで面倒まで見てくれていたのだ。

 幸い大した連中じゃないし、ここは俺一人で十分だ。


「任せていいのね?」

「はい。皆は休んでて下さい」

「一人だと……? 舐めやがって! おい! 刻んじまえ!」


 男達がそれぞれ武器を構えて向かってくる。

 ギウに比べれば止まって見えるな。


暴狂魔鎧(バーサク・アムズ)

「え――お兄ちゃん?」

「ちょッ」


 驚きの声を挙げたのは後ろのルコン達だった。

 そもそも前の男達は、力量差すら読めてなかっただけに俺の魔力の膨張に唖然とすらしている。

 さて、それじゃあやるか。

 守りたいたなら守る。守らなければ守れない。

 ――――そうだもんな?


「ライルッ!!」


 リメリアが叫んだ時には、正面の男の首が爆ぜていた。

 周りの男は呆気なく死んだ仲間の崩れ落ちる身体を見て、叫びながら方方(ほうぼう)に散っていく。

 そうだ、そうだったんだ。

 はじめから、こうすれば早かったんだ。



「よし、もう大丈夫だ」








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