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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第六章 ―魔石鉱山―編
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第八十九話 「蝙蝠兄弟」

 ランタンで照らされたトロッコのレールが走る道を先へと進む。

 薄暗い坑道の先からは鉄を打ち付けるような音が反響して聞こえてくる。

 鉱山、来たことは無いからハッキリしたことは分からないが、ピッケルなんかでガツガツ掘っているのだろうか?

 つまりは生存者、元々の鉱山労働者達がまだいる……?


「生き残り、ですかね?」

「さぁ、どうかしらね。そう願うばかりだけれど、連中の仲間が既に取って代わっていても不思議は無いわね」


 先頭にいるオー姉はそう言いつつ、鞭をしっかりと右手に握り込んで慎重に歩を進める。

 今のところは一本道なので後方からの奇襲は心配無いだろうが、万が一にも備えて油断は出来ない。

 禍穿(まがうが)ちを装着して神経を尖らせる。

 少し先に進むと分かれ道に行き着いた。

 トロッコのレールもここで二つに分かれてしまっている。


「どうします、別れますか?」

「そうね……ルコンちゃんはアタシと行きましょう。

 ライルちゃん達は右を頼める? 何かあればすぐに戻ってらっしゃい」

「分かりました。ルコン、オー姉さんから離れるな

 よ?」

「はい! お兄ちゃん達も気をつけて!」

「あぁ。行こう、リメリア」

「えぇ」


 右の道を少し進むと、段々と鉄の反響音が大きくなってきた。

 近い、この先に誰かが……!

 振り返って目で合図すると、リメリアは頷いて杖をしっかりと構える。

 前衛は俺が、後方支援はリメリアに任せることになる。

 見たところ坑道内にも魔素は滞留しているので魔術行使には問題無さそうだ。

 ただ、問題は使える魔術が制限されるというところに有る。

 狭い坑道内であるため、大量の火や水で坑道を埋め尽くしては自滅に繋がりかねない。

 また、二級以上の魔術も崩落の観点から使用は控えた方が良さそうだ。

 なのでリメリアには三級以下の魔術及び魔弾での支援を行ってもらうことになる。


 いよいよ音が間近に迫り、少し開けた空間に出ると数人の鍛工族(ドワーフ)と人族が壁に向かってピッケルを振りかざしていた。

 中央にはそれら労働者の見張りと思しき魔族が三人ほど、軽口を叩きながら立っているが、うちの一人がやって来た俺達に気づいてしまった。


「なんだ……? おい! 誰だテメェら!?」

「やるぞッ! リメリアッ!」

風撃矢(ウィンドバリスタ)ッ!!」


 俺の身体をかすめるギリギリで矢が飛び、一人を奥の壁まで打ち据えてしまう。

 残り二人へと一気に距離を詰め、それぞれに打撃を叩き込んでその場へ沈めて制圧は完了した。


「大したこと無いわね。ねぇ、アンタ達の数と目的は? 言わないと一本ずつ手足を折るわよ」

「うっ……言えねぇ……」

「そう」


 分かっていた、とでも言わんばかりに素っ気ない返事をしたかと思うと、リメリアは持っていた杖の柄を思い切り男の左脚へと振り下ろした。


「アッ――ぐあァァッ!?」

「なっ、リメリア!」

「ライル、アンタは甘いのよ。コイツラがやってる事、これからする事。その全てが、コイツラに行われる報復として天秤に乗るの。

 いい? 私だってやりたくてやってる訳じゃないの。でもね、これが()()なの。

 さあ――数と目的は?」


 言いたいことは分かる。

 俺は甘い、リメリアは間違っていない。

 コイツラは少なくとも人を殺して、不当に資源を押収している。

 故に、合理的に痛みを伴う方法で情報を吐かせようとしている。

 あくまでも合理的に、それはゼールと同様であり、時に感情を排した機械のようにも映ってしまう。


「い、言えねぇんだよっ!! 俺達には束縛(ギアス)がかかってる! 言おうとすればそれだけで命がねぇんだよっ!」

「やっぱりか……もういいわ。砂の縄(サンドロープ)


 これ以上は無意味だと理解し、男達をロープで縛り上げる。

 三人まとめて一括りにして隅に追いやったところで、残る労働者達へと向き直る。


「貴方達は鉱山関係者の方々で間違いないですか?」

「あ、あぁ……アンタ達はギルドの冒険者か!?」

「はい、助けに来ました。状況を教えて下さい」

「一カ月以上前だ、急にこいつらがやって来て鉱山を取り仕切ると言い出しやがった……逆らった奴らは見せしめに殺された……親方や、逃げた連中もな」

「そうですか……残っているのは皆さんだけですか?」

「あぁ……そうだ! あんたら蝙蝠(こうもり)兄弟は!?」

蝙蝠(こうもり)兄弟?」

「会ってないのか? あぁなんてこった!」

「落ち着いて、蝙蝠兄弟とはなんですか?」

「蝙蝠兄弟……まさかガヴとギウ!?」


 蝙蝠兄弟という聞き慣れないワードに、リメリアは思い当たる事が有るようだ。


「知ってるのか?」 

「なんで知らないのよ! 元冒険者であり元Sランクの蝙蝠族(バッツ)の兄弟。()()()()Sランクの実力を持っておきながら、数々の制約違反を繰り返してギルドを永久追放されてるわ。

 今では魔土にいると聞いてたけど……まさかこんなところに!」

「Sランク級……!? そんなのが二人も!?」

「マズイのは奴らの嗜虐性よ。最大の制約違反、同業殺しまで行っている奴らに殺人への躊躇は一切無いわ。こっちにいないとなると――」

「急ごう!!」


 リメリアの言葉を最後まで聞かずに来た道を急いで引き返す。

 オー姉が付いているとはいえ、相手はそのオー姉と同格のSランク級が二人だぞ!?

 ルコンも強くなった。一時的とは言え五本(フィフス)ならば俺と大差無い戦闘能力と言えるだろう。

 それでも、それでもSランクには足りない。

 二人だけではマズイ!


「ッ! 戦闘音!? 行って!」

「ああ!」


 ピッケルを打ち付ける規則的な採掘音では無い。

 硬質な物体が激しくぶつかり合う音が幾重にも重なって聞こえる。

 暴狂魔(バーサク)を纏って一気に速度を上げる。

 リメリアを置き去りにして狭い通路を駆け抜けながら、振れる視界に入るのは死後時間が経過した鉱山関係者達の死体。

 ()()()はこっちだったか……! 


 先程俺達が行き着いた空間以上に開けた場所に出ると、そこではオー姉が目にも止まらぬ速さで鞭を振るい一人の魔族と激闘を繰り広げていた。

 ルコンは三本(サード)状態で少し後ろで臨戦態勢を取っている。

 空間は広く、トロッコのレールもここで再び二手に分かれながら壁に向かいそこが終着点になっている。

 どうやらここが鉱山の奥地の様だ。


「! また客か……」

「ライルちゃん! 離れてなさい、こいつは――」

蝙蝠(こうもり)兄弟ですね! 生存者は確保、奴らの素性は聞いています!」

「お兄ちゃん、あの人……かなり危ないです……!」

「あぁ、分かってる」


 魔族の男は俺の到着を確認すると一度オー姉から距離を取る。

 オー姉と互角に打ち合ってなお余裕すら感じられる振る舞いに、見ただけで分かる強者特有の雰囲気。


「生存者の確保だと……? ギウの奴、何をやっている……!」

「ガヴ、大人しくお縄につきなさい。分が悪いのは分かってるわよね?」

「ふん、ふざけるのはその姿(ナリ)だけにしろ。貴様ら程度俺一人で十分だ」

「強がりね。ギウがいないなら勝ち目は無いわよ?」


 啖呵を切って鞭を構えるオー姉に応じ、ガヴと呼ばれる魔族も両手のナイフを手の中で回して構える。


「状況は!?」

「リメリアちゃんも来たわね。あいつはガヴ、前衛はアタシとライルちゃんで務めるから援護をお願い。ルコンちゃんはリメリアちゃんの直衛をお願い」

「「了解ッ!!」」


「おいおいおいおい、俺無しで楽しそうな事始めないでくれよ?」


 突然、軽薄そうな声が空間に響く。

 声がしたのは俺たちの()()からだった。

 160センチ程の体躯に、革製の黒色の旅装束。

 顔は蝙蝠と人間を足して割ったかの様な容姿、背中からは飛行用とは思えぬ小さな羽が生えている。

 ガヴと呼ばれる男は茶色の旅装束なので、並んでしまえば装備の色以外に見分けがつかない。


「チッ……やっと来たか。何をやっていた、ギウ!」

「すまねえ兄者、ちょっと散歩してたら入り口の方で()()()達を見つけたんでな。脱走者は殺って良かったんだよなぁ?」

「――――待て、脱走者だと?」

「あん? あ〜なるほど、あいつらを逃がしたのはお前たちか。ったく、余計な手間を増やしてくれやがったなぁ、おい?」


 恨み言を言うギウの顔は言葉と裏腹に残忍な笑みを浮かべ、口角を溢れんばかりに吊り上げている。

 言葉の意味を読むまでも無く、奴がやったことは理解できた。


「テメェ……!」

「ライル、突出しないで。気持ちは分かるけど、浮けば死ぬわよ」

「ッ、分かってる……」

「なんだ? 来ねえのか? なぁ兄者! ガキ共はもらって良いんだよな?」

「ふん、好きにしろ。俺はこいつのふざけた面構えを八つ裂きに出来ればそれでいい」

「……三人とも、ギウは任せられるかしら? 悪いけど、そっちを手伝えそうに無いわ。貴方達を信じて、託すわ」

「……分かりました。二人とも、俺が前に出る。ルコンは二歩引いて尾での援護を、リメリアは後方支援を頼む」


 相手はSランク級、油断なんて出来るはずが無い。

 殺らなければ、こっちが殺られる……!

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元S ランク! かなりの強敵だとは思っていましたが。 みんな、頑張れー!
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