第八十八話 「突入」
「見えたわね」
五日目、予定通りに目的地である魔石鉱山へと到着することができた。
一見するとなんてことは無い山に見える。
遠くからでも分かるのは、正面に見える箇所にポッカリと入り口がある事、その手前には鉱山で働く者達の住居らしきモノがいくつかある事だ。
そして、そんな鉱山の入り口には二人の男が見張りの様にして立っていた。
「どう思います?」
「ん〜間違い無く鉱山関係者では無いわね。大方、部外者が来た時の通報係じゃないかしら?」
「なら先手必勝! 魔術で遠距離から――」
「待て待て待て! どうしてそう暴力で解決しようとするんだ! 一旦話してみれば――」
「皆! 攻撃が来ます!!」
「ッ! 防壁!」
正面方向より弧を描いて弓矢と魔術が同時に襲いくる。
ルコンの掛け声によりリメリアが瞬時に防壁を築いた事でなんとか防ぐ事が出来た。
もっとも、オー姉は流石に気づいていたようでいつの間にかその手には鞭が握られていた。
「ほら見なさい! 昨日の奴らがそうだったんだから本丸にいる奴らの対応なんて分かってた筈でしょ!?」
「うっ……」
「そうね、もうここまで来たら交渉の余地は無いわ。邪魔をするならお痛ね♡」
オー姉が一歩前に出て、鞭を頭上で回し始める。
何をする気だ? ここから男達までは五十メートルは有る。鞭では完全に射程外だ。
ここはリメリアの魔術に任せたほうが――
「ふんぬぅぅあァァッ!!」
まるでオッサンのような雄叫びを挙げ、いやオッサンなのだが。
旋回させていた鞭を思い切り横薙ぎに払ったかと思うと、三日月型の魔弾が射出され目にも留まらぬ速さで男達目掛けて飛んでいく。
やっていることはイラルドの様に武器の振りに合わせて魔力を飛ばしているだけ、だが……速い!
リメリアの魔弾も相当速いが、コレは鞭の遠心力も相まってより一層勢いを増している。
五十メートルはあった筈の距離を瞬時に潰し、男達は逃げることすら叶わぬまま魔弾の直撃を食らって鉱山へと叩きつけられる。
数秒程様子見していたが立ち上がってくる気配もない。
「凄いですぅ! 流石オー姉さん!」
「ふふん、これくらいは朝飯前よ」
ドヤるオー姉をよそに、先の住居の扉が次々と開いて新たに十名程の武装者達が出てくる。
「おい! 何の騒ぎだ!?」
「見ろ! 冒険者だ!」
出てきた者達も事態に気づき、それぞれの得物を手にこちらへ向かってくる。
禍穿ちを装着し、深呼吸して体勢を整える。
リメリアは杖を構え、ルコンは三本へと移行している。
「それじゃあ皆、くれぐれも怪我のないようにね♡」
「はいッ!!」
「えぇッ!!」
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「これで全員かしら?」
鞭をピシャリと打ち鳴らしてオー姉が確認を取る。
個々のレベルはせいぜいBランク程度ということもあり、文字通り俺たちの敵では無かった。
ルコンもリメリアもランクはBだが、実力でみればAランクで十分に通用するレベルだ。
倒した武装者達も全員気絶しており、武装を剥がして土性魔術で枷を作って動きを封じた。
こういう時に細かく用途を調整出来るリメリアは本当に便利だな。
「みたいですね。念の為全ての家を見て回りましょう。まだ隠れている者や捕まっている人がいるかも知れません」
「そうね、ルコンちゃん! アタシといらっしゃい!」
「リメリア、あっちから見て回ろう」
二手に分かれて住居を見て回るが、残党はおろか捕虜になっている者も見つからなかった。
しかし、最後の一軒のドアに手をかけた時に異臭に気づく。
ゆっくりとドアを開けるが部屋の中に変わった様子は特に無く、そうなればこの臭いは家の裏手から……?
「これ、は……」
「反抗者と冒険者、でしょうね……」
家の裏手には大きな穴が掘られており、そこには十名程度の死体が無造作に放り込まれていた。
下の方は鍛工族らしき者、一番上の方は武装が見て取れることから冒険者だろうか?
火葬すらされず、死後何日かすら分からない状態の死体は下の方から腐敗が進み虫が湧いている。
同じく収穫の無かったオー姉達が戻ってきたので、こちらの状況を伝えて確認してもらう。
ルコンにはショックが大きいので離れていてもらうことにした。
もっとも、鼻が利くので近づくにつれ異変には気づいていたようだ。
「――――そう……」
「オー姉さん?」
「いえ、何でもないわ。ちょっと待っててね」
そういうとオー姉は腐臭と虫も気にせず穴へと近寄り、一番上の死体の首元に手を近づけて何かを千切る。
その横の死体からも同様に、ポケットから何かを取り出している。
「あの、それは?」
「彼等の冒険者タグよ。これで、彼等が誰だったか確認が取れるの」
「アンタも持ってるんじゃないの?」
「そういや合ったような……今は持ってきて無いな……」
「ちゃんと依頼を受ける時は持ち歩きなさいな。万が一もあるわ」
要はドッグタグということだ。
万が一、考えたくも無いが次からはきちんと身につけるとしよう。
オー姉は回収した冒険者タグを丁寧に拭き取り懐にしまい込む。
その目はまるで遠い日の友を見るような、はたまた憐憫すらも感じさせて。
「リメリアちゃん、お願い出来る?」
「えぇ」
死体は荼毘に付す。それが俺達に出来る唯一の事だ。
「あ、皆……この先、凄く嫌な予感がします……!」
鉱山の入り口で待っていたルコンがそう言う先、ランタンの薄明かりで照らされた坑道はポッカリと口を開けてこちらを待っている。
嫌な予感、抽象的だが言いたいことは十分に分かる。
重々しい、死の気配だ。
今までの野盗達とは比にならない重圧。
この先に待ち構えているのはいったい……?
「アタシが先頭に立つわ。間にリメリアちゃんとルコンちゃん、最後尾をライルちゃんにお願い出来るかしら?」
「任せて下さい!」
「ふふ、いい返事ね。さて、ここから先は何が出るか分からないわ。優先順位は鉱山労働者の安否確認、そして鉱山内部の敵対勢力の排除よ。
相手は全力でこちらの命を取りに来るわ。皆、覚悟は決めておきなさい」
「はッ、望むところよ!」
「私も、もう他の人達が酷い目に遭わない為なら!」
「俺は――」
殺れるのか? 俺に?
いや、ここまで来たら殺るしかないんだ。分かってる。
「――俺だって!」
「――――それじゃ、行くわよ」
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