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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第六章 ―魔石鉱山―編
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第八十七話 「暗躍する者」

 オー姉が鞭をしならせたかと思うと、風切り音を奏でヘリコプターのプロペラの様に頭上で円を描き始める。

 あの速度で鞭を打ち出せば人体を抉る事など容易な筈だ。

 しかし、オー姉は攻勢に転ずる事無く相手の出方を伺っている。


「おい! 馬車を後ろに退け!」

「は、はい!」


 護衛の頭目らしき男が御者に指示を出して自分達の背後へと移動させる。

『先に行け』と言わないだけ冷静な指示だと言えるだろう。

 行かせたところで俺達が控えている以上意味が無い。

 こうなった以上は、オー姉も含めて俺達を倒すしか道は無くなってしまった。


「ッ……! ――岩砲弾(ストーンキャノン)!」


 痺れを切らし、後方に控えていた男が魔術を詠唱する。

 土性三級、それに加え発生を潰されないようにその場で生成・射出をこなしている。

 少なくとも素人などで無く、()()のある者達だ。

 創り出された砲弾はそのまま一直線にオー姉へと向かっていったが、次の瞬間には鈍い音を立てて空中で砕け散ってしまった。

 術者の男は訳もわからずあたふたとするが、俺にはかろうじて見えた。

 一瞬にして旋回させている鞭をしならせ、魔術を迎撃し元の姿勢へと戻ったのだ。

 恐らくは手首のスナップだけでこなされた正に神業。


「なっ……!?」

「怯むなッ! 一斉にかかるぞ!」


 頭目の合図に合わせて、魔術士以外が得物を手にオー姉へと殺到する。

 刃渡りの大きな刀剣からナイフまで、大小異なる武器と援護射撃の魔術。

 その(ことごと)くを、瞬時にスナップを効かせて鞭で弾き返していく。

 誰も自身の間合いにオー姉を捕らえることが出来ない。

 鞭の範囲三メートル圏内は絶対防御圏と化していた。


「あらぁ? どうしたの? もう来ないのかしら?」

「くッ、調子に乗るなあァァ!!」


 何度も何度も、結果は変わらない。

 見たところ男達の実力は先日の盗賊達よりも数枚上手、階級で言うとBランク以上は間違い無さそうだ。

 強いわけではないが、決して弱くも無い。

 そんな者たちを四人まとめて赤子扱いにしているのだ。


「ふぅん……そろそろいいかしら?」


 飽きたと言わんばかりに、オー姉は旋回の速度を落とし鞭の軌道を変える。

 まるで蛇のように唸る鞭が次々と男達へ向けられる。

 誰一人、己を襲う鞭の軌道を捉えられない。

 気づいた頃には全身を打たれ、武器は手から弾かれ、痛みに悶えてその場に伏すことしか出来ない。

 結果は圧倒的なまでの実力差を見せつけることになってしまった。


「さて、それじゃあ吐いてもらおうかしら。貴方達の雇い主について」

「がッ……グゥ……」

「ほらほら、喋らないとまたブツわよ〜?」


 冗談めいた口調で足先で男を突付くオー姉。

 その姿は金髪のオッサンということも相まって如何わしいクラブにしか見えない。

 先程まで見せてくれていた強者としての風格は何処へやら、俺たちの感嘆を返して欲しい。


「待て、話す……俺達を雇ったのは――あ、違、待って! 待ってく――」


 口を割ろうとした男の様子が急変する。

 それは黙っていた他の者達も同様だった。

 全員が急に血相を変えて慌てだし、その身体には黒い鎖の様な模様が浮かび上がる。

 タトゥー等ではない、今浮かび上がってきたのだ。


「これは――束縛(ギアス)!?」


 驚いて声を挙げたのはオー姉であった。

束縛(ギアス)』、そう口にした時には目の前の男達は自身の得物でそれぞれ喉や心臓を自傷し、絶望に顔を歪ませて血溜まりへと沈んでいった。

 明らかに自身の意思とは反する行為。


「えっ、この人達……なんで……?」

「ルコン、あんまり見ない方がいいわよ」


 状況を飲み込めないルコンをリメリアが諭す。

 それは俺も同様で、事態が飲み込めないどころか自ら命を経つその行為に恐怖すら感じていた。

 何故そんなことを? どうして?

 未知とは恐怖だ。分からない、理解が及ばぬ事は恐怖の対象になる。

 例えそれが、同じ人間であろうとも。


「――ダメね。全員死んでるわ」

「いったいどうして……?」

「彼等の身体に浮かんでいた紋様、あれは恐らく束縛(ギアス)という拘束魔術式よ」

「聞いたことがあるわ。刻まれた対象は親からの命令に逆らえず、文字通り服従するしかなくなるってね」

「そんな……それでこの人達は殺されたって言うんですか!?」

「そうよ、ルコンちゃん。口を割るという行為が自害の引き金だったのでしょうね。

 どうやら、随分と慎重な雇い主のようね」


 恐らく、今回の仕事を引き受けた際に彼等は束縛(ギアス)を刻まれ、そして口を割ろうとしたため消された。

 正体を掴ませない徹底ぶり、人を駒として使い捨てる非情さ、上に立つ者とはいったい……?


「あ、あの……」


 おどおどとした声、その正体は馬車の手綱を握る御者であった。

 彼には外傷や紋様も無く、そもそも戦闘能力すら持っていない様にも見える。


「貴方、なんともないの?」

「私は雇われの行商でして、たまたま寄った魔石鉱山で彼等に脅されていたんです……」

「そうだったの、それは災難だったわね。ねぇ、向かう先は聞かされていたの?」

「いえ……彼等が先導すると言ってましたので、私も何処へ向かっていたのやら……」

「分かったわ、ありがと。アタシ達は魔石鉱山へ向かわなければならないの。貴方、一人でターンポルトへ行ける?」

「えぇ、魔獣避けの香草もあるのでなんとかなるかと」

「なら、ターンポルトへ戻ったらアタシの名前を使ってギルドへ出頭してちょうだい。いいかしら?」

「わ、分かりました。ありがとうございます。あのままだと私はどうなっていたことか……」


 感謝を述べながら御者は馬車を進ませて遠ざかっていった。

 背を見送り、その場に残った男達の死体は丁重に焼き払う。

 同じ人間として、それがせめてもの情けだろう。


「本当に、きな臭くなってきたわね…………」


 ポツリと零すオー姉の言葉に誰しもが一抹の不安を抱えたまま、いよいよ目の前に迫る魔石鉱山。

 いったい、この裏には誰がいるのだろうか……?




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