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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第六章 ―魔石鉱山―編
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第八十四話 「オーレンバック・ステル」

「薪はコレくらいでいいですかね?」

「うん、十分よ〜!」


 一日目の移動を終え、日が沈んだ平原で夜を迎える。

 テントや寝袋で野宿、では無く、リメリアが土性魔術で壁と天井を整えた簡易家屋を建造してくれた。

 魔術とはイメージと、それをなぞり構成するだけの確かな魔力操作が必要である。

 平凡な技量の持ち主と、優れた魔術士が同等の魔術を扱えば結果は火を見るより明らか。

 同じ魔術でも効果範囲、威力、速度、等様々な要素に差がついてしまうのだ。

 現にその結果が目の前の家屋だろう。

 俺が岩壁(ストーンウォール)を使った所でこの様な形には成形出来ない。


「流石は姉弟子、大したもんだ」

「こ、これくらいは当然でしょ!」


 ちょっと褒めればリメリアの頬はたちまち紅潮し、そっぽを向かれてしまう。

 最近はこの反応見たさに褒めることが多いが、称賛の気持ちは素直なところだ。


「そろそろかしらね〜……はい、取っても大丈夫よ」

「わぁ〜! 美味しそうですっ!」

「いただくわ」

「頂きます」


 焚き火で肉を炙り、頃合いでオー姉が串を渡してくれる。

 野営と言えば焚き火、焚き火と言えば串焼き、道中で魔獣を狩っておいて正解だったな。

 生前はアウトドアとは無縁だったものの、こうしてやってみると不思議と気分は高揚するものだ。

 パチパチと弾ける薪の音、温かく揺れる炎、それを囲み仲間と談笑しながら食べる飯。

 全ての要素がこの時間を至高の一時へと昇華してくれている。

 成る程、ソロキャンプや焚き火ブームがあったのも今となっては納得だ……


「気になってたんですけど、オー姉さんはどうして女性みたいな格好と喋り方なんです? 男性ですよね?」


 ルコンの何気ない無邪気な疑問は、俺とリメリアを一瞬で氷河期へと叩き落とした。

 こういった『人』に対してこの手の質問は基本しないのがセオリーだ。

 ましてや相手は初対面に近い目上の人間。

 怒らせでもしたら今後の行動に支障をきたしかねない。

 リメリアもそこは理解していたようで、この話題には触れないという協定を密かに締結しておいた。

 がしかし、均衡とはいつか崩れ去り、それはふとした何気ない(ひずみ)から来るもの。

 今回はそれがジョーカールコンであったというだけのお話。


「ふふ、気になる? ライルちゃんとリメリアちゃんも、そんなに気を使わなくて大丈夫よ!」

「えっとその、いいんですか……?」

「良いのよ! アタシだって奇異の目で見られることには慣れてるわ。それに、少なくとも貴方達は()()()()じゃない」


 気づかれていたか……流石はSランク、洞察力・観察眼にも長けている。

 いや、それだけではないな。

 シンプルに、『人を見る目』があるのだろう。

 ルコンは話の裏が読めず疑問符を頭の上に浮かべているが、それを取り払う様にしてオー姉の話が始まる。


「まあ話すって言っても、大した中身も無いんだけど。十年前かしらね。昔から、女の子みたいに可愛くなりたかったの。

 綺麗な洋服を着て、髪も伸ばして……でもそれと同じくらい、冒険するのも好きだったの。

 遠くに行って、危険を冒して、その先にある達成感を掴むのが好き。

 アタシは不器用だったから、その両立が出来なかった……出来ないと思ってた。

 アタシってほら、こんなに身体は大きいし頑丈だからタンク役としてパーティの皆も頼ってくれたの。

 そんなアタシが女の子みたいだったら、頼れるものも頼れないんじゃないかって、そう思ってたの」


 過去を語り聞かせてくれるオー姉。

 時折休憩がてらの水を啜って、また次の言葉を紡ぎ出す。


「でもある日、一緒にパーティを組んだ女の子がアタシにこう言ったの。

『窮屈じゃない? 好きに生きて良いんだよ』って。

 きっとアタシ、つまんなそうに生きてたんでしょうね。あの子はそんなアタシに気づいたの。

 本当に、今思えばつまんない意地を張ってたわ〜。

 やってみたら、思いきれば、なんてことは無い。

 そこからは楽しかった! 今も楽しいわ!

 好きに生きてみることがなんて楽しくて、なんて楽なのか、アタシはようやく知ることが出来たの」

「じゃあその女の子はオー姉さんの恩人ですね!」

「その子、もう死んじゃったんだけどね」

「え……?」


 感銘を受け笑顔を向けるルコンを待っていたのは、残酷な返答であった。

 オー姉が発した言葉を理解出来ずに言葉に詰まってしまっている。

 かく言う俺とリメリアも、顔を見合わせてオー姉の次の言葉を待つことしか出来ない。


「その子ね、その依頼の最中に死んじゃったの。

 なんてことは無い討伐依頼のはずだったんだけど、『アタシはこっちに行ってみたい! こっちのほうがもっと面白い予感がする!』なんて言ってね。

 結局道を踏み外して谷底に落ちちゃって、そのまま……って訳」

「それは……お気の毒に……」

「その子に悔いがあったかどうかなんてアタシには分からない。あの選択をしなければ死んでなかった、なんてのは結果論。

 あの子は好きな様に生きたくて、それを選んで死んだの。ズルくない? アタシにはあんな事言っておいて、自分はとっととオサラバなんて!

 もうね、呪いにかかったような気分だったわ。

 アタシはあの子の分まで、好きに生きなくちゃ! ってね」

「嫌じゃ、ないんですか? 無理してないですか?」

「ルコンちゃん、さっきも言ったけどアタシは今も昔も、あの言葉をかけてもらってからずっと楽しいの。

 心配してくれてありがとね。

 でも大丈夫! 皆のオー姉さんはとっても強いんだから! さ、そろそろ寝ましょう!

 獣避けの香草は撒いておいたからひとまずは安心よ〜」


 一時はどうなるかと思われた場の雰囲気に、光明がさしだす。

 よかったと胸を撫で下ろし、ルコンの尾が揺れだしていることに気づきより一層の安心を得られた。

 オーレンバック・ステルという人間の在り方、その成り立ちを聞いた一夜。

 人にはそれぞれ人生があり、ドラマがある。

 きっかけは大なり小なり、決定的な運命の歯車が噛み合う瞬間というのは有るものだ。


 屋根の下で横になり、味気無い土の天井を見つめる。

 皆の寝息が聞こえる中、焦げた薪の香りがうっすらと空間を包んでいく。

 気づけば意識は微睡み、ゆっくりと夢の中へと落ちていった。




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