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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第六章 ―魔石鉱山―編
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第八十三話 「勢い余って」

 馬で移動すること三時間ほどして、小休止をすることにした。

 とは言っても休憩するのは馬の方だが。


「はい、お水です! ゆっくり休んで下さいね〜」

「ルコン、あんた尻尾噛まれてるわよ」

「はえ? ああぁぁ〜〜!!??」


 後ろに回ったもう一頭に尾を噛まれて、ルコンが叫んでいる。

 初めての魔土、緊張もなにもあったものではないな。


「元気無いじゃない。ダウナー系ってやつぅ?」

「なんでそんなの知ってるんですか……ちょっと考え事してただけですよ」

「そ、ならいいわ。体調悪くなったりしたら言ってちょうだい」

「お気遣いありがとうございます。――オー姉さんは、人を殺したこと有りますか……?」

「あるわよ。たくさん、たくさんね。仕方無かったもの、進んでしたもの、自身のせいで死なせてしまった人達も殺したようなものよね」

「平気なんですか?」

「ちっとも平気じゃないわ。でもね、人間って都合が良いから、良いことがあれば悪いことは忘れていっちゃうの。

 だからアタシは、あまり過去の事は気にしない事にしたの。生きてれば、きっと良いことがあるぞってね」


 オー姉はそう言うと親指を立ててニカっと笑う。

 彼女なりに元気づけようとしてくれたのだろうな。

 まだ殺しなんてしてないし、この先も起こらない事を願うばかりだが――


「皆、三時方向警戒!」

「おっと、お客さんのお出ましね」


 リメリアが声を荒げ、彼女が叫ぶ方角へと視界を向ける。

 オー姉がそう言う先には、数人の男達。

 人族と魔族、合わせて五人の盗賊達である。


「こりゃラッキーだな。女三人にガキ一人だ」

「あぁ、楽に物が手に入る。おまけに馬までいやがるぜ」


 こちらの見た目だけで判断して嬉しそうに舌なめずりをしてにじり寄って来る。

『女三人』と聞こえたがそこはスルーしておこう。

 にしてもこいつら、大したことは無いな……

 見た目だけで判断して彼我の実力差を測れないとは。


「ふふっ、丁度いいじゃない! 貴方達、三人だけでコイツらを追っ払ってみせなさいな!」

「オー姉さんは?」

「け・ん・が・く〜」


 真面目かふざけてか、オー姉はどすんと腰を降ろして馬達の側に居座ってしまう。

 別にこの程度のやつら、オー姉がいなくとも何ら問題は無いだろうが、きっと彼女の見たいとこは実力だけではないのだろう。


「ふん、やってやろうじゃない。やるわよ、ライル、ルコン」

「ぶっ飛ばします!」

「二人とも、程々にな」

「こいつら……舐めんじゃねぇぞぉ!!」


 男達の一人が激昂し、それを合図に残る四人も攻勢に移る。

 相手は盗賊、女である二人に対してはいざ知らず、男である俺など間違い無く殺す気で来るだろう。

 殺す気で来る相手に、こちらは殺意を持たずに相対する。

 一見すると甘く無謀な挑戦なのだろうが、この世界では『力』があればそんな無理を通せる、通せてしまうのだ。


 盗賊の一人が複数の魔弾を放つ。

 なるほど、人を襲うだけあり対人戦の心得は有るようだ。

 いずれかはブラフだろうな……複数の魔弾で本命を絞らせない気だろう、が。


「遅い!」


 リメリアが叫ぶと同時に、魔弾を放つ。

 それらは宙でぶつかり全ての魔弾を相殺する。

 すかさずルコンが三本(サード)になり敵陣の真ん中へと躍り出る。


「やあぁぁァァァッ!!」

「うげェっ!?」

「ガッ!?」


 尾を振り回し、陣を薙ぐようにして一度に数人を薙ぎ払う。

 こりゃホントに俺は要らないかもな……


「よそ見してんじゃねぇぞおッ!!」

「おっと!」


 暴狂魔(バーサク)を展開して振り下ろされた刃を受け止める。

 男はギョッとした顔でこちらを見ているが、すぐさま後退して距離を取る。

 よし、アレを試すか。


 左右の腰に装着していた篭手に手を通す。 

 軽く指を広げ、握り込んで感度を確かめる。

 うん、問題ない。

禍穿ち(まがうがち)』、初実戦といこうか!


「そんじゃ――まず一発!」

「速っ――」


 目で追いきれてない男の腹に一撃。

 暴狂魔(バーサク)状態とは言え加減はした、したつもりだった。

 めり込んだ拳に突き飛ばされ、男は後方へと二十メートル近くは転がって行ってしまう。


「あ、あれ……?」

「お兄ちゃん!? 殺しちゃったんですか!?」

「ライル! やりすぎよ!」

「ち、違う!! これはその、加減はしたんだけど……」

「アニキがやられた!? アニキーーーー!!」

「こいつらバケモンだ! 退け! 退けぇぇ!!」


 盗賊たちは吹き飛んだ頭目を担ぎ、一目散に逃げ去っていく。

 え、殺してない、よね……? 

 いやいやないだろ!? ついさっきそういう話をしてたばっかりだぞ!?


「安心なさいな。あれぐらいじゃ死んではいないわよ」

「で、でもオー姉さん!」

「大丈夫よ。アタシが保証してあげる。ね?」


 なんの確証も無い。無いのだが、誰かがこうして言ってくれるだけで、不思議と心は落ち着いた。


「ねえちょっと! そんなことよりも、それ! 何よいったい!? 赤龍戦ではそんなの付けてなかったでしょ!?」

「ですです! ルコンも気になります!」


 そんなことって……まあいい、禍穿ちに気付いた二人に説明してやる。

 二人は食い入るように篭手を覗き込みながら説明に耳を傾けるが、ある一文を聞いてリメリアが顔を上げる。


「ドルフ!? ドルフって言ったの!?」

「へ? そうだけど」

「名匠ドルフ。数々の名作を産んだ鍛工族(ドワーフ)ね。もう隠居したって聞いてたけど」

「ドルフは先生の『四元の杖』も作ったのよ! 私の杖なんて街職人に頼んだレプリカだってのに〜〜……!」


 ドルフ、そんなに名うての職人だったのか!

 ゼールの四元の杖まで作っていたとは。


「うーん、確かに相当な逸品ね〜……アタシの見立てでは一級以上でしょうね」

「ズルい〜!! ライルとルコンばっかりーー!!」


 普段は姉弟子として振る舞っている彼女も、地団駄踏みながら悔しがっている。

 地団駄踏む人、実際にいるんだ……


「なにはともあれ、お疲れ様。アレくらいは当然として、個々人のポテンシャルも申し分ないわね!

 ライルちゃんたら、既にアタシより強いんじゃないかしら?」

「いやいやいや……」


 煽て過ぎだろう。だって流石に――

 オー姉を見て考えるのをやめる。

 そんなこと、今考えても詮無きことだろう。


「もう少し休憩したら今日は後二時間くらい進みましょうか。ゆっくり休んで〜」


 ルコンは馬の元でじゃれ合い、リメリアは木陰へ。

 次の移動に備え、俺もゆっくり休むとしよう。



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