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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第六章 ―魔石鉱山―編
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第八十一話 「いざ、魔土へ」

 強烈なインパクトであったオーレンバック・ステル、通称『オー姉』との出会いから数時間。

 俺達はそれぞれ準備の為に自室へと帰ってきた。

 久々の依頼だ、準備は万全に越したことはない。


「服はアトラに来た時の旅装束があったな。後は――」


 持ち物を復唱確認しているとドアがノックされる。

 ここは特待生寮、誰か人が訪ねてくるのは珍しいどころか初めてだ。


「はい、なんでしょう?」

「ライル君だね。ロデナスから荷物が届いているよ」

「ロデナスから……?」


 包みを受け取ると、ズシリと確かな重みが手に乗る。

 差出人を見ると、イラルド・バーキンの名が。


「イラルドさんから?」

「それとこれ。手紙も」


 手紙の差出人もイラルドであった。

 部屋に戻り手紙から開封してみる。


『ライル君へ

 つい先日、イーラスのドルフという鍛工族(ドワーフ)から君宛の荷物が届いた。

 どうやら君がアトラへ発ったのを知らなかったようだ。

 急ぎではいけないだろうから、転移魔術便で送っておく。

 礼なら今度再会した時に、酒の一杯でも奢ってくれ。

 幸運を祈っている。

 イラルド・バーキンより』


「ドルフさんから……まさか!?」


 急いで包みを開封すると、出てきたのは手袋の様な物であった。

 しなやかだが重厚な皮と鱗を使い仕立て上げられ、手の甲に当たる部分には何かを入れる小さな窪みがある。

 指の先端は黒曜石の様な鋭い爪が備わっている。

 これは、篭手(こて)か?

 一緒に殴り書きの様なメモが入っている。


『ゼールとの約束の品だ。

 こいつは赤龍の鱗と翼膜、サンガクとやらの角を使っている。

 甲の窪みには魔石が入る。小指を強く握り込めば内で魔石を砕いて魔素を作る仕組みだ。

 銘は入れない主義だが、最後の仕事かもしれんからな。『禍穿ち(まがうがち)』、貰ってくれ。

 四元の杖(しげんのつえ)以来のやりがいのある仕事だった。感謝している。達者でな』


 簡潔な取り扱い説明と、職人気質な彼の人柄がよく出ている文。

 ドルフとは赤龍討伐後の帰省時、イーラスに立ち寄って顔を合わせている。

 その時は黒角の杖(ノワールケイン)を失った事を謝ったのだが、『武器や防具の役割は持ち主を生かす、だ。お前さんが無事ならそれでいい』と言われただけだった。

 その後はゼールが二人で話をしていたが、コレの作成を依頼していたのか……


禍穿ち(まがうがち)、か。使わせてもらいます」


 その名の通り、俺やその周りを襲う一切の災禍を退けんことを願って。



 ----



 準備を終えた翌日。

 学校の裏手、街の最西端にある凡人土と魔土とを繋ぐ関所へと集まる。

 ルコンはゼールから貰った赤龍の外套を纏い、リメリアは普段から愛用しているローブを着用している。

 そういえばルコンの私服(踊り子のような和装)は久しぶりに見たな。

 うむ、相変わらず俺の妹は何着ても似合う。


「何よそれ、結構良いの着てるじゃない」

「ふふ〜ん! これは赤龍の翼膜から作った外套なのです! 先生からの貰い物です!」

「なっ!? ズルいわよ! ちょっと貸しなさいよ!」

「い〜や〜で〜す〜!!」

「何やってんだよ二人とも……」


 出発前から無駄に体力を消耗している二人はさて置き、だ。

 関所には初めて訪れた訳だが、こうしてみるとデカい門だな。

 街を覆う外壁をくり抜く様にして作られた巨大な門。

 左右にはアトラ王国騎士団の団員達が配置されており、彼等が開閉を担当している様だ。


「あら、皆早いのね。ってちょっとちょっと、何してるの?」

「あはは……お気になさらず」

「そう? 二人とも! 行くわよ!」


 少ししてやって来たオーレンバックが場を制し、四人で関所へと近づく。

 やはり後ろから見るとこの金髪がウザい……彼、もとい彼女自身の屈強なガタイと、やたらと綺麗に手入れされているのが拍車をかけている。

 後ろに回って気づいたが、彼女の腰には鞭が備わっていた。

 見るからに位の高い魔具である事が分かる。

 鞭が彼女のメインウェポンということか……オネエに鞭、ねぇ……

 なんて考えていると、関所の騎士がオー姉へと近づく。


「オーレンバックさん、お疲れ様です。今日はどういったご要件で?」

「依頼で魔土へね。後ろの子達も一緒よん」

「承知しました。では皆さんの冒険者証を確認させて頂きます」


 流石はSランクと言ったところか。

 騎士団には既に顔は認知され、信頼されているのが見て取れる。

 一人ずつ冒険者証を確認していく騎士が、俺の番になり動きを止める。

 まあなんだ、龍伐以来こういった反応には慣れたものだ。


「『龍殺し』……! ではこちらの方々も、王都龍災の時の!」

「そうなのです!」

「そうよ!」

「あんま偉そうにするなー。とまあ、そんな訳です。あまりかしこまらないで下さい。当然の事をしたまでです」

「いえ、そうはいきません。改めて、騎士団として、いえ。この国に生きる一人の民として、お礼を言わせて下さい。

 この国を救って頂き、ありがとうございました!」


 深々と頭を下げる騎士団員。

 それに続き、後ろの団員たちも皆一様に頭を下げる。


「大袈裟? いいえ、誇りなさいな。貴方達が行った行動は、紛れも無く褒め称えられるべきことなのよ」


 困惑する俺を論す様に、オー姉が口を開く。

 ルコンやリメリアは胸を張ってこの結果を受け止めている。

 だめだな俺は。

 どうにも前世の、日本人特有の遠慮()()が離れない。

 英雄や勇者には憧れるが、決してなれない。

 そんな中途半端な精神だからか、未だに自身が成した事で周囲から評価を受けても素直に受け止め切れない。

 だがしかし、オー姉はそんな俺の心を読み取ったのだ。

 奇抜な外見と言動に反し、人を見る目は有るのかもしれないな。


「さ! 行くわよ! 開けてちょうだい!」

「開門だ! 反対へも知らせろぉ!」


 オー姉の言葉を合図に、ゆっくりと門が開く。

 その先は一本の橋が架かっており、左右は谷の様に深く沈んでいる。

 底には海が広がり、ぶつかる波の音が小さくも聞こえてくる。

 橋の横幅は十メートル程、反対へは百メートル無いくらいだろうか。

 既に反対の門は開かれ、こちらの到着を待っている。


「それじゃあ三人共。必ず無事に帰って来るわよ!」

「「「はい!! えぇ!」」」




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