第七十八話 「団円」
アトラ王国の王都、アトランティアを襲った龍災から数時間後。
アトリア城内ではセイルバン王をはじめとし、王国騎士団の団長達や各大臣、スタリオルにレイノーサ、冒険者ギルドのトップにパルヴァス等が出席し緊急会議が執り行われた。
その中には、遠く離れたロデナス王国のダルド王も通信魔術による姿投影で参加していた。
「各所へ降り立った龍種はそれぞれ獅子王、暴食魔王、セバスチャン殿、冒険者達により討伐が完了。
白龍は北、恐らくは龍域へと帰巣したと思われます」
「人的被害こそ最小限、冒険者達が数名で済んだものの……北西市街地と南東市街地の被害が大きいな」
「それにだ。聞けば暴食め、貴重なサンプルである龍種を六割も平らげたらしいではないか。
討伐には感謝するが、彼女には協力する姿勢が見られんな」
報告を受け大臣達が唸る。
その言葉には如実に、散っていった冒険者や被害よりもそれぞれの黒い腹の底が垣間見える。
優秀で頭も回る者達ではあるが、同時にこの浅ましさに辟易しているアトラ国王セイルバン。
「建物なぞどうとでもなる。龍種の究明も二の次だ。此度の異常事態、民の命が無為に消えること無く終わったことこそ幸いだ。
ルギオン、ギルドからの助力に国を代表して礼を言う」
セイルバン王が向く先には、冒険者ギルドのトップであるギルド長、ルギオン・バーゼンが腕組みをして座っている。
白髪混じりの短い黒髪に、見える範囲だけでも傷だらけの肉体。
威風堂々とした風格の初老の男性。
「よい。死んだ者達は無念であろうが、いつなんどき死しても良い様に覚悟しておく。それが冒険者たる者の心構えだ。
して、南東討伐に当たった者達は分かっておるのか?」
「騎士団からの報告によりますと、主に尽力されたのはBランク冒険者のルコンとリメリア・テオール。そしてAランク『龍殺しの半魔』ライル・ガースレイとのことです」
「ほう……! シベルディアの言っていた者達か!
ガッハッハ! 若い芽は育っていると言うことか! 結構結構ッ!」
豪放磊落、大口を開けて笑うルギオンの斜め向かいで初めて報告を受けたレイノーサは、友の活躍に頬を緩ませた。
同時に、遠く離れたロデナスでもダルド王は同様に口角を上げた。
(そうでしたか。ライルさん、ルコンさん、ありがとう。ご無事で何よりです)
(見事だ、二人とも)
「ルギオン、話を戻すぞ。
此度の龍災を受け、今年の平泰祭は中止とする。騎士団は市街地の復旧に当たれ。
冒険者ギルドには国からの依頼という形で復旧依頼を斡旋してもらう。ランクは問わず、手が空いている者を募ってくれ」
「了解した。本部に戻ったら早急に取り掛かろう」
「セイルバン王よ、よろしいでしょうか?」
挙手をして発言を求めたのはパルヴァスであった。
神妙な面持ちで機会を望む彼に、王も発言を促した。
「先刻の白龍、そして奴が引き連れていた四頭の龍種、そのどれもが高度な知性を有していたものと思われます。
ましてや、あの白龍の強さ……対抗できる者は極僅かと断言せざるを得ません。
同盟として、同じ人類として、防備の増強を具申致します」
「セイルバンよ、ワシからも同様にだ。転移魔術陣の増築、強化。緊急時戦力貸与の条約の締結を求める」
「ハァ……分かっておる。それらも引き続き進めていこう」
議題はそのまま、今後の防衛対策等に切り替わり進行していく。
そうして議会が終わる頃には、漠然としたままの今後への不安を誰しもが胸に秘めていた。
――――
龍災から約二週間が経過して、十二月も終わりを迎える頃。
復旧活動や諸々の処理に追われて行えなかったアレを、遂に行える。
そう、祭りの後と言えば『打ち上げ』だ。
「えー、なんやかんやと色々有って、大変な目に遭いましたが……こうして皆が無事に集まれた事を嬉しく思います。
平泰祭、お疲れ様でした! そして今年はありがとう! また来年もよろしく! 乾杯ッ!」
「「乾杯ッ!!」」
場所はアト学の一室、発案者は俺、協賛はレイノーサだ。
集まったのはルコンにレオドロンにネリセとポーフス、レイノーサ(御付きのセバスチャンも)とイズリ、リョール一派にリメリアまで。
「はじめまして、レイノーサ王女。リメリア・テオールと申します。
この度は私までお招き頂きましてありがとうございます」
リメリアが丁寧に、ローブの端を摘んで挨拶する。
流石は令嬢と言うだけあってか、こういうところで育ちの良さを見せつけてくる。
「はじめまして、リメリアさん。そう畏まらずとも、お話はライルさん達よりお伺いしております。
どうか肩の力を抜いて、普段通りに。
私のことはレイサで構いません」
「そう――それならレイサ、これからよろしくね!」
なんちゅー切り替えの速さ……俺でなきゃ見逃しちゃうね……
リメリアはあれ以来、アトラに滞在して冒険者業をこなしている。
定期的に会ってはあれこれ話して、今度ルコンも一緒に三人で依頼をこなそうなんて約束までしている。
「レオ、そっちも大変だったな」
「気休めはよせ。俺様は大した役に立ってない……」
「? どうしたんだよ、らしくないな」
「うるさい、何でもない」
「ふぁんへふ? またレオさんプリプリしてるんです?」
「ちょっとルコンちゃん! レオさんに失礼だよ! あと食べながら喋っちゃダメ!」
食事を頬張りながらレオドロンを茶化すルコンに、まるで母親の様に注意するネリセ。
段々とキャラを理解され、周りに受け入れられるレオドロンを見て微笑ましくもなるが、どこか憂いを帯びる横顔に引っかかる自分もいる。
「ちょっとライルっ!! な〜〜にシケタ顔してんのよ!!??」
「うおっ!? リメリ――酒臭ッ!?」
「はぁ!? わらひは成人よ! お酒らって飲めるわよ!」
「クソ! 絡み上戸かよ! しかもダル絡みじゃないか!」
決めた、もう目の届く範囲ではリメリアに飲ませないぞ。
ダル絡みを避けて、なんとか部屋の端に退避する。
アト学に来てたった三ヶ月、レオドロンとの決闘に始まり龍災まで、様々なことがあった。
今現在、当初思い描いていた理想の異世界ファンタジーとは違ったけれど。
「父さん、母さん。なんだかんだ、俺は楽しいよ」
また来年からも、よろしく。
後書きではお久しぶり、狐山です。
第五章―王都魔術学校―編、これにて完結です。
とは言いましても、ライルの学校生活自体はまだ続きます。
あくまで、入学序盤が終わったものと認識して頂ければ……
新たな出会いに新たな事件、様々な出来事を通じて更に成長するライルやルコン達の今後に、どうぞまたお付き合い頂けますと幸いです。
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