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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第五章 ―アトラ王都魔術学校―編
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第七十七話 「終結」

 肉を裂かれ、翼をもがれ、茶龍が地に伏す。

 溺れるのは己が血の池。


「王よ、お疲れ様でした」

「うむ……全く、歳に勝てんのは儂も同じだな。この程度で手こずる様になるとは」

「御謙遜を……」

「謙遜であるものか。どれ、帰ったら若い奴らと手合わせでもするか」


 獅子王は屠った獲物を振り返らず、従者から上着を受け取り帰路へと着く。



 ――――



 四肢をもがれ、首すらねじ切られた黒龍の前で騎士達は呆然としていた。


「脱帽、ですね……」

「その程度で済むものか。セバスチャン殿は()()で全力では無い」

「なっ……御冗談を」

「お前は人魔大戦を知らぬからそう言えるんだ。あの頃のセバスチャン殿は――」

「そこまでだ。口外は禁じられている」

「だ、団長!? し、失礼しました!」

「セバス殿が運びやすくバラして下さったのだ。とっとと運ぶぞ」

「「はッ!」」


 アトリア城前で起こった黒龍との戦いは、もはや戦いとは呼べなかった。

 あまりにも一方的に、理不尽なまでの暴力が黒龍を襲った。

 時間にして僅か三十秒程の出来事であったそれは、一部始終を目撃していた騎士達に一生忘れる事の無い跡となって刻み込まれた。


「服が破れてしまったわね。新しい物を用意しましょう」

「申し訳ございません、お嬢様」

「何を謝るの。むしろ謝るのはこちらの方よ。ごめんなさい、貴方を戦わせてしまって」

「あのまま騎士団が戦っていれば、少なからずの犠牲は免れなかったでしょう。英断でございます」

「そう……ありがとう」


 人形の様な美しさを誇る王女は優しく微笑む。

 いつしか彼を戦わせないで済む、そんな時が来ることを願って。



 ――――



「いた! リョール君、こっちだよ!」

「医療班急げ! レオドロンさん達は学校を守った英雄だぞ!? 死なせたらエード家である俺が許さないからな!」


 麻痺して倒れる獅子と剣士、二人の耳に切羽詰まった声が届く。

 鳥人族(ハーピー)との半魔であるポーフスと、そんな彼をかつて虐めていた貴族の息子リョール。

 二人は王国騎士団の医療班を連れ、この戦いの功労者である彼等を探していた。


「医療班、か。カカッ……互いに命拾いしたな」

「俺様は元から人族より耐性がある……多少痺れたところで――ッグゥ!?」


 獅子の強がりは事実であるが、あくまでも耐性。

 毒が回って辛いことに変わりは無かった。


「しかしまあ――暴食魔王……その名の通り、いや、それ以上であったな……」


 イダチが見据える先、暴食魔王カーシガの食事風景。

 先刻まで碧龍()()()()()の前であぐらをかき、未だにその残骸を喰らい続けている。


「あぐっ……はぐっ……龍って言っても、はぐっ……トカゲと味は大して変わん無いねぇあぐっ……」


 二人のピンチに降り立ったカーシガは、そのままの勢いで碧龍にトドメを刺して食事に入った。

 鱗や毒等お構い無し、ただひたすらに千切っては食べ、千切っては食べ。

 彼女は決して二人を助けた訳では無い。

 ただ偶然、食したことの無い獲物を見つけ、偶然そこに二人がいただけである。

 なので、食事を始めた今となっては毒で倒れる二人のこと等は既に眼中に無かった。


「レオドロンさん! 大丈夫ですか!?」

「医療班! すぐに治療しろ!」

「すまぬな、二人とも……助かったぞ」

「「――――」」


 二人は絶句した。

 あのレオドロンが、あの傍若無人で他を顧みなかったレオドロンが。

 ここまで弱々しく、素直に謝意を述べたのだ。

 無論、二人が変わるきっかけとなったのは今のレオドロンとレイノーサな訳であるが、それでも以前のイメージや振る舞いを考えると到底想像もつかない行動であった。


「おーい、拙者もお願い出来るかな……?」

「あ、はい!」

「互いに、研鑽が足りぬな。獅子よ」

「…………そうだな」


 イダチの言う通り、レオドロンは己の力無さに失望すら覚えていた。

 今のままでは、ライルに負けたままの自分では王に成れぬと。

 見つけ気づいた大切な物すら守れぬと。

 さらなる力を、高みを目指し、獅子は天を仰ぐ。



 ――――


 大陸五指、パルヴァスは空を見上げ悠然と滞空する白龍を睨み続ける。


(各所での戦闘が終わったか……さて、どうする?)


 明らかに異質、明らかに異常事態である。

 まず間違い無く、上空の白龍は知性を有する。

 そしてそれは、四方に降り立った幼龍達も同様だろう。


(ここからでは手出し出来ない以上、奴の動きを待つしか無いが……)


 睨み合いが続くかと思われたが、白龍はゆっくりと身を翻して北へと飛んでいく。

 見るべきものは見たと言わんばかりに、散っていった同胞達には目もくれず。


「虫ケラ達モ侮レンナ……マタイズレ、相見エヨウ」


 興味を引いた騎士をちらりと一瞥し、誰にも聞こえぬ独り言を零す。


「――――行ったか。やれやれ、また忙しくなりそうだね……」


 地上へと降り立つと、パルヴァスは今後の展開に頭を抱えた。





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