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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第五章 ―アトラ王都魔術学校―編
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第七十四話 「マッチアップ」

 アトラ王国、北西市街地。

 そこは祭りの中心から離れ、人々も既に避難した後の閑散とした場であった。

 降り立つは、龍種の中でも一際頑強な鱗に身を包む茶龍。

 茶龍は手始めに、近くの民家を手当たり次第に薙ぎ、潰し、崩し去った。

 誰も止める者のいない破壊が、区画一帯に及ぶかに思われたが――


「ほう、これは丁度良い。奇妙な縁に巡り合え、昔の血が騒いでおったところだ」


 破壊を尽くす茶龍の前に現れたのは、獅子王レオガルド。

 平泰祭の帰り道、彼は偶然にもそこを通りがかっただけであった。

 相対した脅威なぞ何のその、むしろ僥倖と言わんばかりに口角をあげて服を脱ぎ捨てる。

 付き人達を手で制し、後ろへと追いやる。


「お前達は控えておれ。あぁ、冒険者共も寄せるでない。これは――儂の獲物だ」



 ----



 アトラ王国、北東に座すアトリア城前。

 そこは国王であるセイルバン王の居城であり、国の中枢。

 降り立つは、一度暴れ出せばその気性の荒さは赤龍をも超える最凶の龍種、黒龍。

 アトリア城は既に防備を万端に整え、正門前には隊列を成した騎士団員達が整然と身構えていた。

 しかし、黒龍と騎士団がその矛を交えることは無く。


 ()()()、彼女達は黒龍と同時に城へと帰還した。


「レイノーサ・アトラが命じます。限定拘束魔術式『束縛(ギアス)』二段階解放。外敵を討ち滅ぼしなさい」

「承知致しました」

「いってらっしゃい、セバス」



 ----



 アトラ王国南西、王都魔術学校。

 そこは避難所の一つとして指定されており、緊急時には学生だけでなく一般市民にも開放された。

 降り立つは、他に比べて非力ではあるが、鱗の先端に毒針を持つ碧龍。

 敷地の奥へと避難した多くの生体反応に気づき、その矛先を向けようとしていた。


炎柱(フレイムピラー)ッ!」


 碧龍の足元から火柱が立つ。

 軽く表面を焦がす程度の火力に、龍は多少の煩わしさを抱くのみだった。


「やはり火力が……!」

「校長さえいれば……」

「嘆いている暇は無いぞ! 魔力に余裕がある者で代わる代わるに魔術を放て! 少しでも時間を稼ぐのだ!」


 老齢の教師、シュラウド・バーチテウスが陣頭指揮を取る。

 この抵抗が、象に対する蟻ほどの意味しか成さぬと知りながらも、愛する学び舎と学徒を守るために立ち上がる。

 今正に、眼前に迫る龍がその足を振り上げようとも――



「退がっておれッ!!」



 割って入ったのは獅子王が息子、レオドロン。

 全霊の身体強化を施し、振り上げられた前足を弾く。


「レ、レオドロン君! 危険だ、避難を!」

「馬鹿を言うでないわッ! 貴様らこそ避難せよ! 俺様がここを受け持つ! ここには、我が友が帰って来るのだ!」


 言い争う人間達に、非情なる毒鱗が飛来する。

 碧龍の真の脅威は、その毒鱗を翼の羽ばたきや手足の振り払いで飛ばせることにあった。


「しまッ――」


 金属音がぶつかり、鱗が地に落ちる。


「いやはや、獣に化生(けしょう)、魔の類は斬り飽きたところであったが……よもや龍とは」


 男はさも嬉し気に、刀を鞘へと戻しながら笑う。


「貴様……! イダチ・ケンマ! なぜ俺様を助ける!?」

「なぜ? 学友を助けることに理由が必要かな?」

「ほざくなッ!」

「カッカッカ! なあに、そなたやライル殿とはいつか手合わせをしたいと思っていてな。ここで失うのは勿体無い。それに――」


 鯉口を切りながら、またも嬉しそうに笑みをこぼす。


「この様な好機、みすみす逃す手もあるまいて」



 ----



 アトラ王国、南東市街地。

 白龍の火球が空を包んで、より一層人々の混乱と恐怖は増大した。

 避難は遅々として進まず、ドミノ倒しの二次災害にまで発展する恐れすら出てきていた。


(避難が進んでない……! 万が一ここに龍が来たら――)


 ライルの胸中には常に最悪の想定が巣食っていた。

 万が一、もしも、そういった負のケースを常に想定しなければならないと、この世界に来て彼は痛感していた。

 そして、それは無情にも起こり得るモノだと、再認識させられることになる。


「り、龍だーーーー!!」

「逃げろ! 早く進めよッ!!」

「押すな! バカ野郎!」

「落ち着いて下さい! 落ち着い――」


 降り立つは、赤龍。

 何の因果か、はたまた運命か、半魔の少年の前に今一度あの日の光景がハッキリと浮かぶ。


「ライル! 来たわよ!」

「あぁ――――分かってる」


(師匠は!? っ、ダメだ、あの白を牽制している……)


 頼みのパルヴァスは白龍の直下、一際高い屋根に立ったまま。

 彼は動かないで、否、動けずにいた。

 彼が牽制していなければ白龍を止める者がいない。

 白龍だけは自由にさせてはならないと、先程の光景を見た誰しもの共通認識となっていた。


「俺達でやるしか無い……行けるか?」

「ハッ! 私を誰の弟子だと思ってるの?」


 互いに軽く笑い、ライルは先行して赤龍の前へと立つ。



「ったく……――腐れ縁だな。やってやるさ、もう今までの俺じゃ無いぞ」




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