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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第五章 ―アトラ王都魔術学校―編
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第七十一話 「姉弟子」

 ゼールかと思い声をかけた赤毛の少女。

 勝ち気な眼差しは俺を射抜き、杖を突き立てて敵対の意志すら感じさせる。


「ちょっと、落ち着いて下さい! 僕はただ、知り合いと勘違いして――」

「その知り合いってのが、『ゼール先生』なんでしょう? いったいどういうことよ? ゼール先生は私の先生なのよ!?」

「私の先生って言われたって……僕だってゼール先生に魔術を教わったんですよ?

 それよりも、君の名前は?」

「声をかけてきたのはアンタからでしょ? まずはそっちから名乗るのが礼儀じゃなくて?」


 む、それもそうだ。

 しかしこの少女……魔力の巡らせ方が尋常じゃなく()()()

 もしかすると本当に?


「失礼しました、僕はライル・ガースレイ。ゼール先生とは約四年前に出会ってから、魔術の指導をして貰いました」

「四年、も……? いえ、それよりも。ライルって……あの『龍殺しの半魔』?」

「恥ずかしながら、そう認知されているみたいですね」


 これは建前では無く本音だ。

『龍殺し』なんて呼ばれているが、あの時討伐に参加した皆の力があってこその今だ。

 決して俺一人に付いて良い呼び名では無い。


「確かに赤龍討伐にゼール先生が参加した事は私だって知っている……ならこいつが言っていることは本当? だとしても四年も指導してもらったって……私だってそんなに長くは……」

「あのー? もしもーし?」

「ハッ!? ん、ンンッ! アンタの事は分かったわ。私はリメリア・テオール。アンタが言ってる事はともかく、私は五歳の頃に先生に魔術を教わったわ。それはこの杖が、何よりの証明となるでしょ?」


 リメリアと名乗った少女はこれ見よがしに手にしている杖を誇示する。

 確かに、ゼールを知る者であれば一目見て『四元の杖』、あるいはそれに類似した物であることに気づくだろう。

 だが、俺とて正真正銘ゼールの教え子なのだ。

 このリメリアという少女が嘘をついている可能性も考慮しなくてはならない。

 ここは――


「いくつか、確かめさせてもらいます」

「なんですって?」

「ゼール先生の好きな飲み物は!?」

「はぁ!?」


 弟子であれば分かるはずだ。

 もし答えられないようであれば、その時は弟子を騙った代償を償ってもらおう。


「舐めないで! コーヒー!」

「正解。なら好きな動物は!?」

「猫!」

「好きな色は!?」

「白!」

「好きな元素属性は!?」

「特に無し!」

「……正解です。ゼール先生検定四級は合格といったところですか」

「はっ! 私を試そうたってそうはいかないわ!」

「どうやら本当に先生の教え子みたいですね。でも、先生は他に教え子がいたなんて言ってなかったような……」

「えっ? ちょっと、それどういうことよ!」

「ちょ、杖を向けないで下さい!」


 いちいち杖を人に向けないでくれ!

 いったいどんな教育を受けたんだ?

 ゼールが本当に指導していたなら、まずはそういった倫理観から――


「キャー! 引ったくりよ!」

「待てぇー! おい誰か! 騎士団を呼べー!」


 突然の叫び声と何者かを追い立てる怒声。

 俺達のすぐ近くで引ったくりがあったようだ。

 声の方向には袋を持って走り去る魔族が一人。

 どうやら魔力による身体強化で逃亡を図っている様だ。

 今から全力で追えば追いつけるか? いや、人混みが邪魔だ……


氷結(フリーズ)


 側に立つリメリアの詠唱と同時に、視界の先の引ったくり犯の足が地面と接合される。

 急に動きを止められた犯人は訳も分からないまま、その場で足を引き剥がそうと試みるものの、到着した騎士団員に取り押さえられてしまった。


「まったく、馬鹿なヤツもいたもんだわ」


 リメリアは何事も無かったように呟く。

 今の魔術、恐ろしく速く、かつ正確な一撃であった。

 祭りでこれだけの人で溢れる中を、犯人の元まで正確に魔弾を飛ばす技量。

 しかも人混みのせいで偏差射撃が出来ない都合上、動いているところをピンポイントに狙い撃つ必要がある。

 ここから犯人までの距離はおおよそ二十メートル程。

 その距離を一瞬で、正確に魔弾を通したのだ。

 それだけで、彼女の実力の高さは疑いようも無い。


「さてと、さっきの続きだけど――」

「いえ、もう十分です。リメリアさんが先生の教え子だって話、信じます。リメリアさんも、僕に何か聞きたいことがあれば何でもお答えしますよ」

「なによ急に……まぁ、分かったんならいいわ! そうね……それじゃあ……」


 きっとリメリアは本当にゼールの教え子なのだろう。

 それは先程の問答でも、今の魔術行使からもハッキリと分かることだ。

 これはせめてもの、試す様な真似をしてしまったことへの俺からの償いだ。

 これで少しでも、リメリアから俺への疑いが晴れるのならそれに越した事もない。


「先生が好きなもの、なにか分かる? もちろん、さっきまでの質問の回答は無しよ」

「先生の、好きなもの……」


 ゼールの好きなもの? 

 知っている、勿論多くを知っているつもりだが、質問が抽象的過ぎないか?

 先程までとの被りも無しとなれば、この質問の意図は『特に好きなもの』か?

 思い出せ、ゼールと過ごしたこの四年を。

 ゼールはどんな時に嬉しそうにしていた?

 ゼールは何を見て幸せを感じていた?

 ゼールは――――


「子ども、ですか?」

「――――正解! それが分かってるなら、アンタを疑う必要ももう無いわね」


 ここにきて初めて、リメリアから屈託の無い笑顔が見られた。

 さっきまでの勝ち気な少女とは思えない程の可憐な笑顔に、思わずドキリとしてしまう。


「それじゃあライル、私のことは姉弟子として敬うように! 良いかしら?」

「敬うって……リメリアさん、年は?」

「十五よ、今年成人したばかりなんだから」


 つまり俺の一個上か。

 経歴、年齢ともに俺の上。

 彼女の性格も考慮して、ここは形だけでもしたがっておくか。


「さて、それじゃあ次は弟子同士で魔術比べといきましょう! どっちが強い魔術を扱えるか勝負よ!」


 訂正、こんなサ◯ヤ人みたいなヤツは姉弟子として敬えない。

 あれ、そういえば何か忘れてるような……?



 ----



「うわぁ〜〜ん! お兄ちゃん見失っちゃいました〜! お兄ちゃーーーーん!!」



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