第六十六話 「パルヴァスの手助け」
ロデナス騎士団第三師団長にして『大陸五指』、現国王ダルド・ロデナスの実子でもあるパルヴァス・ロデナスとの出会いは三年前。
赤龍討伐を終え、誕生日を迎えた後の年末。
ロデナス領最北端の海岸線に上陸した海魔掃討戦に遠征していた第三師団が帰還した時のことだった。
ちなみにこの『海魔』とやら、総じてBランク以上の粒揃いであり、一度に上陸する数も数十〜多ければ数百という膨大な数が数週間〜数カ月という長期に渡り押し寄せる。
正に大災害に匹敵する事態である。
三年前の海魔掃討戦にはパルヴァス率いる第三師団と一部冒険者、アトラ王国からの援軍が対応。
パルヴァスの無双に近い活躍もあり無事に殲滅したとのことだ。
しかし、なぜ海魔とやらがここまで強いのか?
それはこの世界の海、海水には多量の魔素が含まれており、その中で生まれ育つ水中生物は高濃度の魔素に当てられ続け体組織が発達するため、とのことだ。
実際のところ、これも仮説の一部でありなぜ海魔が数年に一度地上に侵略して来るのかも分かってはいないらしい。
とにかくまあ、そんな大変な戦いを切り抜けて生還したパルヴァスであったが、帰還時にはそれはもう英雄の様な扱いな訳で。
俺達赤龍討伐隊の帰還時も盛大に出迎えてもらった訳だが、パルヴァスの時はそれ以上の熱気と活気に街は包まれた。
一目見ようとルコンとゼールの三人で、特別に通してもらった王城内で待機し、邪魔にならないよう遠くからこっそりと様子を伺おうとしていた。
ところが、パルヴァスはすぐさま隠れている俺達に気づいて足早に近づき、ゼールを見るやいなやこう言った。
『ゼール殿、お久しぶりです! こっちがライル君とルコン君ですね。イラルドから話は聞いてます。
僕は、僕は――感動しましたあぁぁ〜〜!!』
涙目になりつつ大声を上げて俺とルコンの肩を抱くパルヴァスに、俺達は何が何だか分からず困惑するばかりであった。
『なんて立派なんだ! 君達の様な未来ある若者が、危険を顧みずに龍に挑むなんて……!
決めたよ! 僕も君達を強くする為、微力ながらこの力を貸すよ! 僕に出来ることなら何でも言ってくれ!! さあッ! 何をしてほしい!?』
『一旦、離してもらえると……』
『苦しいです〜!』
こうして、あの日からパルヴァスに様々な稽古を付けて貰い俺とルコンはメキメキと成長した。
大陸五指であるパルヴァスの力は絶大の一言であり、通り名でもある『完全無欠騎士』の通り彼には欠点が無かった。
体術・剣術はイラルドをも遥かに凌ぎ、更には魔術も全属性を二級まで習得している。
強さ面は正に完璧。
そして性格面は人情に熱く、人々への思いやりに溢れ、他者の幸福を心より願う、聖人の如き好青年でもある。
何一つとして欠点が無いように思われる、俺達の誇れる自慢の師匠であるパルヴァス。
そんな彼が、今――
「美味ーーい!! なんて美味さなんだぁー!?
これは皆も絶対に食べるべきだ!!」
俺達の出店の前で大根役者顔負けのサクラっぷりを披露してくれている。
あんなに強くて格好良くて頼れる師匠であるパルヴァスが、こんなに無様な芝居を晒すなんて……
勿論、俺達の為に自身の知名度を活かした最大の作戦であることは承知の上だが、『一肌脱いであげよう!』なんてドヤ顔からは想像もつかない酷さだ。
ハッキリ言って俺は泣きそうだ。
「あれが大陸五指だと……」
「レオ、やめてくれ。俺にも効く」
「お兄ちゃんお兄ちゃん!」
「あわわわわ!? パルヴァス様のお陰で人の流れが!?」
「「なにぃ〜〜!!??」」
流石は大陸五指と言うべきか、あれだけの大根ぷりながらもパルヴァスを見た周囲の人の多くが俺達の店へと雪崩込んで来る。
「おにぎり二つちょうだい!」
「唐揚げっていうのも三つ!」
「パルヴァス様と同じ物を!」
待て待て待て、これは予想以上に――
「さあ! 僕も手伝うよ! ガンガン売っちゃおう!」
「げ、師匠!? 流石に店内で直接手伝うのはダメですって!」
「細かいことは気にしない! 今は目の前のお客さんに集中だ!」
そうして次々に来る客を捌き続け、用意していた食材も底を尽いたところで今日の営業は終了となった。
「いや〜大盛況だったね! それじゃあライル君、ルコン君、それに二人の友達、僕はもう宿に戻るよ。また明日からも頑張って!」
そう言ってパルヴァスは立ち去り、後には疲れ切ってへたり込む俺達だけが残った。
「売れてくれるのは良いけど、インチキみたいで気が引けるなぁ……」
「む、何故だ?」
「何故って、自分達の力で売った訳じゃないんだから当然だろ。知名度がある師匠が売り込んでくれたからこその結果じゃないか」
「何を馬鹿な。その師匠との縁は貴様自身が結んだものだろう。
ならば師匠が手を貸してくれた『今』という結果は貴様の力でもあるのだ。そのうえで集まった客に自慢の飯を振る舞い、満たした。誇るべき結果だ」
意外な言葉にハッとなる。
確かに、そういう考え方も有り、なのか?
現世でも商品をPRするのに有名人を起用するのは当たり前だ。
広告塔はデカければデカいほど良い。
今回はたまたまそれが俺の師匠であっただけ。
そう考えれば、全ては自分達で掴んだ結果、なのかな。
「そう、なのかもな。ありがとよ、レオ」
「やめろ、気色悪い」
「ともあれ、お疲れ様でした! 一日目、やりましたね!」
「はう〜ルコンも疲れました……」
「あぁ。皆、今日はお疲れ様。明日からまだ六日はある。残りも頑張って売って、俺達のことを知ってもらおう!」
こうして、怒涛の一日目が終了した。
二日目への期待を胸に、各々の寮へと帰るのだった。
――――
「スタリオル様、例の半魔についてご報告が」
「疲れている、手短に話せ」
関係各所への挨拶回りに魔王達との外交、王子といえどもやるべきことは多い。
やっと終わった仕事の疲れを少しでも取ろうと自室に戻ったところで、窓の外より報告の声が聞こえる。
鬱陶しいと思いつつも、何かあれば報告しろと命じたのは自分だ。
仕方ないと、とりあえずの報告を促す。
「どうやら例の半魔、大陸五指でもあるパルヴァス・ロデナスとも直接の面識がある模様。
それにどうやら、出店の食材などを工面しているのはレイノーサ様のようです」
「大陸五指だと……? よもやそこまでのビッグネームと……明日以降、やつらの出店に訪れる親しげな者を監視しておけ。場合によっては例の半魔、利用価値が有るやも知れん」
「承知しました」
窓の外の気配が消える。
必要最低限のコミュニケーションで済ませてくれるのはこちらとしても有り難い。
しかし――
「思いの外、太いパイプを持っている様だな……そしてレイサ、よもや先に目を付けておけば大丈夫だとでも?」
利用価値があると分かったなら、その時はこちらも利用させてもらうまで。
今後の動向次第では――――
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