第六十五話 「開祭」
午前十時、祭りの開幕を告げる号砲が挙がる。
今頃、王城前では国王の有り難い演説が行われ、国内外からの来賓等が紹介されているのだろう。
正直言って長ったらしい形式めいた演説など興味は無いが、アトラ国内の有力者に高名な冒険者やギルドマスター、魔土から来ている友好的な魔王等には興味が尽きない。
行って一目見たいのはやまやまだが、今はそれよりも大事な事がある。
「ネリセよ! 追加の米はまだ炊けんのか!」
「も、もう十分はかかりますぅ!」
「うわぁ〜もうこんなに人がいっぱいです!」
「ルコン、感心してないで皿を並べて。忙しくなるぞ!」
ドタバタとテント内で準備に追われる。
一時間前から準備に取り掛かってはいるものの、慣れない作業と甘い見通しからか思った以上に難航している。
ちなみに、レイノーサはいない。
考えてみれば当然だが、王女である彼女は開催期間中は関係各位への挨拶や外交に忙しい。
よって店舗での直接の手伝いは出来ないのだが、裏での物的支援は継続してくれるためそこは大いに助かっている。
まぁ、レイノーサ本人が店頭に立つのもそれはそれで問題になりそうではあるのだが……
周りは慣れた様子で準備を終え、開幕と同時に開く学校の門から流れ込んで来る客を捕まえようと躍起になっている。
俺たちにとって大事なことは売り上げよりも、スタートダッシュで大失敗した俺やルコンのイメージ改善、レオドロンへの認識、要は良いところを知ってもらって親しみを持ってもらうことだ。
せっかく学校に入学したのに、このままでは遠巻きにされて楽しい学校生活どころでは無い。
未来は自分の手で勝ち取らなくてはならない。
「――よしっ、なんとか準備完了だな!」
「不本意ではあるが、やる以上は結果を出す」
「フフン、いっぱい売りますよ!」
「よ、よーし! 頑張りますっ!」
「「開店だぁー!!」」
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学校が解放されて一時間、流れ込んでくる人の数とは裏腹に売り上げは閑古鳥であった。
やはりというか、祭りと言えど得体の知れない物にお金を払おうというチャレンジ精神は、皆そうそう持ち合わせていなかった。
流行っているのは大きな肉を使った串焼き、怪しく光るカラフルなドリンク、魔石を加工した装飾等どれも目を引く物ばかり。
おにぎりと唐揚げでは視覚的にも『華』が無いのだ。
時折、興味本位で訪れてくれる人はいる。
リサーチも兼ねて味の感想を聞くが、評価は上々。
味は良くても客が来なければ意味が無い。
このままでは『悪目立ちする生徒達』から、『閑古鳥の不良』へとジョブチェンジしてしまう。
何とかしなくては……
「見て見て! あれ!」
「きゃー!? 本物!?」
学校の入り口、正門の辺りが何やら騒がしくなる。
主に女性陣からの黄色い歓声を受けて人混みを割って進み出て来る数人の騎士姿。
その先頭に立つのは、短い金髪にスラリと高い背、軽めの鎧を着込み赤いマントを靡かせる二十後半の男性。
誰が見ても文句無しのイケメン、見た目は正に騎士の中の騎士。
「あれ? お兄ちゃん、あれって師匠達じゃないですか?」
「いや――そうだよ、な」
ルコンの疑問に間を置いて答える。
見覚えがあるのは先頭の一人だけではなく、後ろに追従する配下も然り。
ロデナス王国が誇るロディアス騎士団第三師団。
第三師団長、パルヴァス・ロデナス。
その名の通り、現ロデナス国王ダルド・ロデナスの実子。
俺とルコンの師匠であり、ヴァダル大陸にその名を轟かせる『大陸五指』の一人でもある。
『大陸五指』とはその名の通り、ヴァダル大陸最強の五人の事である。
選定基準は主に他者からの客観的な評価で、当人の実績や実力、更には時代の移り変わりによって顔ぶれが変わる。
要は民衆が勝手に始めた強さ番付けの様なものだ。
ただし、選ばれるのにはそれだけの理由があるのも事実である。
現に、今視界の先にいるパルヴァスを知る俺には納得のいく称号である。
付いた呼び名が『完全無欠騎士』。
誰もが憧れ夢想し、羨望の眼差しを送る、俺とルコンの誇れる師匠だ。
「おーい! ライル君! ルコンちゃん!」
「気づいたみたいです! 師匠〜〜!」
こちらに気づいて大きく手を振りながら小走りになるパルヴァス。
ガチャガチャと鎧を鳴らして店の前までやって来る彼を追うように、配下の騎士とファン達の波も動く。
「いや~探したよ! 町中にいなかったから学校だとは思ったけど、まさか出店しているとはね!」
「師匠こそ、いつロデナスを出たんですか? アトラまでは半年以上かかるでしょう?」
「転移魔――」
「団長、それは機密事項です。いくらライル君達と言えども」
「おっと、そうだった。まあともかく、全速力で駆けて来たのさ。それで、売り上げはどうだい?」
パルヴァスの言葉は配下の騎士によって阻まれた。
何か都合が悪いのだろうか?
「いや〜それが、鳴かず飛ばずでして……」
「なるほどなるほど……よし! ならこの僕が一肌脱いであげよう! 可愛い弟子達のためさ!」
そう言って、パルヴァスはイタズラに微笑むのだった。
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