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半魔転生―異世界は思いの外厳しく―  作者: 狐山 犬太
第五章 ―アトラ王都魔術学校―編
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第六十四話 「良い波」

 時間は午後五時、場所は校内中央区画の食堂までの道。

 多くの生徒が晩飯前で腹を空かして行き交うこの場所ならば、当日前の絶好のアピールポイントだ。


「夕飯前の生徒や教師をターゲットにして無償で提供する。確かにこれならば多くの方が手に取る機会となり、尚且つ断る理由も無い……これを最初から見越して? ライルさん」

「ええ。元々ニッチな物を売るんです。事前の認知は得られていた方が良い。

 それに、これだけ大量のおにぎりと唐揚げを俺達だけで食べるのもしんどいですから。美味いものは皆で食べた方がもっと美味いでしょう?」

「そうですね、私が作ったもので皆さんの笑顔が見られる……なんて素敵なことなのでしょう……」

「いっぱい配りましょうね、レイサさん!」

「ルコンちゃん、唐揚げが落ちちゃう!」

「わわわっ!?」

「全く、落ち着きの無い……配るだけなら俺様はいらんだろう」


 それぞれが机を並べて皿におにぎりと唐揚げを置いていく中、レオドロンが愚痴を零す。


「何言ってんだよ。事前に認知を広げるのはおまえの存在も含まれてんだぞ?」

「なんだと?」

「当日になって急におまえが店頭に居てみろ。事情を知らない生徒は怖がって寄りもしないだろ。

 だから今のうちに少しでも、その関わりにくいイメージから払拭していくんだよ」

「む、むう……」


 納得したのか、黙々と準備に戻っていく。

 事実、準備をする俺達に混ざるレオドロンへ向けられる視線は驚きと好奇の目だ。

 普段のイメージからすればそれも当然か。

 誰かと交わり、何かを共に行うレオドロンは異常に映るのだろう。

 だが、それも今日までだ。

 今日でこいつは生まれ変わる! 多分。


「よしっ! 準備完了! 後は配って配りまくろう!」

「「おお〜〜!!」」



 ----



「全然取ってくれませんね……」

「十人も取って無いではないか」

「うーん、やっぱりか……」


 三十分が経過して、手にとってくれたのは教師も合わせて十人といない。

 興味を持つ者、腹を空かせた者、二人で恐る恐る訪ねて来る者。

 食べた人達のリアクションは一様に高評価ではあるが、そもそも絶対数を取れなければ意味が無い。

 中には興味を示しても、レオドロンが視界に入った途端に(きびす)を返す者もいる。

 こうなればマスコット作戦でいくか?

 ルコンやネリセに皿を持たせて呼び込みに行かせるのも一つの手段としては有る。

 何かのきっかけが無ければ、流行るモノも流行らない。


「ギャハハハハ! おい、今度は虫でも食えよ!」

「お前の母親は鳥人族(ハーピー)なんだろ? 鳥なら虫は食えるよなぁ?」

「や、やめてよ……僕はともかく、母さんだって食べないよ!」

「うるせぇな! 食えって言ったら食うんだよ!」

「リョール君マジパネェ!」


 三人の男子生徒が一人の生徒を囲っているのが目に入る。

 というか喧しく不快な会話が耳に入る。

 囲われているのは紫のラインが入った学生。

 なるほど、半魔イジメか。


「やっぱり有るんだな、ああいうの」

「いくら共生を掲げたとて、深く根差した意識は変えがたい。

 俺様とて、貴様と関わる事が無ければ未だに半血と呼び捨てていただろう」

「そうか……止めてくるよ」

「いえ、ここは私が」

「あ、レイサさん!」


 足早にレイノーサが生徒の元へと向かう。

 セバスチャンも追随しているので心配は無いだろう。


「未来の王たらんとする者としての責務か」

「それもあるだろうけど、優しいだけだろうな」


 近づくレイノーサに気づいて、イジメ側の男達がたじろぎ始める。


「こ、これはレイノーサ王女! ご機嫌いかがでしょうか?」

「ご機嫌よう、リョール様。たった今、虫の居所が悪くなったところです」

「っ、それはそれは……では僕達はこれで――」

「お待ちを」


 おぉ、凄い迫力だ。

 離れたここからでも、その後ろ姿からは鬼気迫る怒りを感じる。


「エード家は昨年、お父様の提示した半魔共生に賛同なされた筈。

 その長男たるリョール様が、未だに半魔を虐げるなどと、名高いエード家の箔を落とすことになるのでは?」

「いえいえ! これはイジメなどでは決して!

 な、お前たち!?」

「もちろんです!」

「えっと、その……」

「…………貴方は本当に、そのままでよろしいのですか?」

「えっ?」


 レイノーサが問いかけたのは、イジメられていた半魔の生徒に対してであった。


「変わる世界に甘んじて、自身が変わらなくては今まで通りになるのでは?

 まだ付き合いは短いですが、私の()()は変わるだけの心の強さを持っています。

 貴方も、変わりたいのでは?」

「僕は――」


 半魔の生徒は拳を固く握りしめる。

 彼の中で、何かが変わろうとしている。


「何を……ほら、行くぞ!」

「――僕はッ! 僕はお前たちの言いなりにはならない! 僕は僕の意思で生きるんだ!」

「こいつッ! クソ、もういい! 行くぞ――」

「待て」

「わぷっ、誰だっ……あ……」


 気づけばレオドロンが生徒達の背後へと先回りしていた。

 気づかずにぶつかったリョールという生徒は、ガタガタと震えながら立ち竦んでいる。


「食え」

「は、はい?」

「食えと言っている。お前達もだ」


 レオドロンは持っていったおにぎりをそれぞれイジメっ子に押し付ける。

 急に見たことも無い食べ物を渡されて唖然とする三人。


「早く食え」

「「ヒィッ! いただきます!」」


 涙目になりながら口いっぱいに頬張る彼等が少し気の毒になってきた。

 さて……


「どうだ?」

「お、美味しいです!」

「本心か?」

「ほ、本当です! 塩気と、中に入っている肉?の様なものもジューシーで!」

「それを作ったのは、あそこにいる半魔だ」

「はい?」

「俺様も、あいつと出会うまではお前達の様に半魔を下に見ていた。

 だが、半魔だろうと俺様達と何も変わらんと、俺様に無いものを持つ可能性があると知った。

 くだらん事をする暇があるなら、もっと有意義な事に時間を割け」

「「…………」」

「返事をしろッ!!」

「「はいぃぃっ!!」」

「分かったなら行け。そして広めろ、この味を。

 祭りで待っているぞ」


 解放された生徒達は足早にその場を立ち去る。

 残ったのはレイノーサとレオドロン、そしてイジメられていた半魔の生徒。

 彼は奮起したものの、ここからどうすればいいのか戸惑っているようだ。


「ポーフスさん、よくぞ奮い立ちましたね」

「あ、その、レイノーサ王女のお陰で……って、僕の名前?」

「学校に通われている方々はなるべく覚えるようにしていますの。勿論、まだ全員を覚えている訳ではありませんけど」

「気概だけは良かったぞ、ポーフスとやら」

「あ、ありがとうございます!」

「そら、お前も食え」

「は、はい!」


 あ、あれって唐揚げ入り……共食い、になるのかな……

 なんて不謹慎な事を考えている自分がいる。

 何はともあれ、大事にならず怪我人も出ずに済んで何よりだ。

 ポーフスとやらもこれからはイジメられないといいな。


 そうして三十分が経ち、そろそろ切り上げるかと思ったところで二、三十人程の一団がやって来た。


「うわ、本当にレオドロンさんがいる……」

「何用だ?」

「えっと、ここで無料で珍しい物を食べられるって聞いたんですけど」

「ほう、誰にだ?」

「リョールさんです。俺達、課業後はいつも体術の自主練をしてるんですけど、『腹が減ってるなら行ってみろ』って教えてくれて」

「ほう……」


 リョールっていうと、さっきのイジメっ子か!

 なんだよ、こんなに早く広めてくれたのか!

 彼なりの罪滅ぼしか、それとも彼の中で何かが変わりかけているのか。

 確かな事は分からないが、少しでも良い方向に向かっているのは間違いなさそうだ。


「フフン! さぁさぁ、いっぱい食べて下さい! 私達が腕によりをかけて握ったんです!」

「ルコンちゃんはどっちかと言うと尻尾……」


 群がる生徒に丁寧に配り、それを見た道行く生徒達がまた集まる。

 集客のサイクルが出来上がり、あっという間に用意していたおにぎりと唐揚げは無くなってしまった。


「完・配、だぁ〜!!」

「「おおぉ〜!!」」


 正直言って残ると思っていたのだが、予想以上の反響だ。

 口にした者達からの評価も軒並み高く、本番前の掴みとしては重畳だ。

 懸念していたレオドロンの接客も意外と普通で、リョールや訪れた生徒達の口コミもあってか怖がる生徒も多く無い。

 これならば当日は――と期待に胸を弾ませるのであった。



 そして、時はあっという間に過ぎ。

 祭りの日がやって来る。



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